パニック・ルーム 2


「ただいま」
一人暮らしだというのに、そのような言葉を吐いてしまうのは、習慣のようなもの。
玄関で履き物を脱ぐと、カカシはてくてくとキッチンを横切る。

「おかえりなさいー」
おたまを片手に、エプロン姿のサクラが笑顔で振り返った。
「まだご飯出来てないの。先にお風呂入ってきてくれる」
「んー」
言われるまま、カカシはバスルームへと向かう。
と、カカシの足がぴたりと止まった。
何か、思い悩むように額に手を当てている。

カカシの後ろ姿を見詰め、サクラはくすくすと忍び笑いをもらした。
「何、一緒に入りたい?」
「ちょっと待て」
カカシがすかさずツッコミを入れる。
ずかずかと歩み寄ると、カカシはサクラの肩を掴んで言った。
「何でお前がここにいるんだ」
「え、誰もいなかったから、ご飯作ってあげようと思って」
悪びれた様子もなく、サクラはしれっと言い放つ。

それは不法侵入という罪なのだよ。
などと言ったところで、サクラは歯牙にも掛けないに違いない。
何となく想像できてしまう自分がカカシは嫌だった。

「どうやって入った」
「管理人さんに「カカシ先生の愛人なのv」って言ったらすぐ鍵貸してくれた」
「・・・・」
カカシの気も知らず、サクラは「エヘヘ」っと可愛らしく笑う。
サクラの言葉もどうかと思うが、それを鵜呑みにして鍵を渡す管理人も管理人だ。

 

「あのさぁ、サクラ。こうしたことは・・・」
「迷惑?」
機を制して、サクラが口を開く。
「先生。また来いって言った」
「いや、それはそうなんだけど」
カカシが慌てて言い繕う間にも、サクラの瞳にうっすらと涙が滲んでいく。

「私、先生に喜んでもらおうと思って、いろいろ用意してきたのに」
サクラが顔を背けるのと同時に、頬を伝った涙が床に落ちる。
涙が女性の最大の武器、とは誰の言葉だったか。
カカシにも、それは覿面の効果を与えた。

「め、迷惑だなんて、思ってないよ。嬉しいって」
自らの気持ちに反して、カカシは優しくサクラの肩を叩く。
俯くサクラの頬が、緩んでいるのも知らずに。

 

「じゃあ、これ食べたらすぐに帰れよ」
「うん」
結局サクラの押しの強さに負けたカカシは、サクラと差し向かいに食卓に着く。
「いただきます」の言葉で、二人は箸を手に持ち、同時に食事を開始した。

黙々とサクラの手料理を食べながら、カカシはサクラの様子を盗み見する。
暗部に所属していた頃のカカシは外出が多く、この部屋にいることは少なかった。
そうしたことを含め、サクラがいるだけで何故か別の家に来てしまったような気がする。
「おかえりなさい」の笑顔に、温かい手料理。
違和感はあるが、決して、嫌な気持ちではない。

そんな年でもないのだが、娘がいたらこんな感じなのではと、カカシはぼんやりと思う。
直後に、サクラがにっこりと微笑んで言った。
「何だか、新婚さんみたいだねv」
口に含んだみそ汁を吹き出したカカシは激しく咳き込んだ。
「先生、大丈夫!?」
席を立ったサクラが、カカシの背をさすり心配そうに声を出す。

「平気だ」と答えようとした瞬間に。
カカシの視界が大きく傾いだ。
不審に思う間もなく、そのまま倒れ込む。
「な・・・」
舌が震えて、上手く喋ることが出来ない。
こうした状況は、昔、経験したことがある。
敵に、毒を盛られたときと、同じ。

 

「・・・サク、ラ」
「ふふふ」
いつもの人当たりの良い笑顔はどこへやら、悪巧みをしているときのサクラの笑顔。
見上げる角度だったせいか、カカシにはまさしく悪魔の笑みに見えた。

「しびれ薬を混ぜさせて頂きました。これで2,3時間は自由に身体を動かせないわよ」
「お、な・・・」
「何でこんなことをしたのか、訊きたいの?」
サクラはにんまりと笑って言う。
「当然じゃない。既成事実を作るためよ、既成事実。これでカカシ先生も逃げられないわよ!」
「・・・・」

意味分かって言ってるのか?

まともに喋れたら、カカシは確実にその一言を口に出していたことだろう。

 

 

 

「いやー、怖いね。里に外部の忍者が進入するなんて」
「・・・」
「その上、カカシ先生の食事の毒を盛るなんて、よほどの手練れだってばよ。先生が危なくなる前にサクラちゃんが来て良かったね」
「・・・」
一度ならず二度までも、カカシのピンチを救ったナルトはのうのうと言ってのけた。
「・・・あんた、わざとやってるんじゃないでしょうねぇ」
「何のこと?」
半眼で睨むサクラを気にせず、ナルトはけろりとした顔で返事をする。

あれから。
またしても、ナルトが現れたのだ。
タイミングよく。
これはもう仕組んでいるとしか思えないのが、ナルトののほほんとした態度を見ていると、サクラの方も煙に巻かれてしまう。
「じゃあ、先生も動けるようになったみたいだし、帰ろうか」
ナルトは得体の知れない笑顔を浮かべてサクラに言った。
ソファに横になり、二人の様子を眺めていたカカシは深いため息をつく。

「お前ら、二人して俺のことからかってんだろ・・・・」


あとがき??
さて、このワンパターンネタ、いつまで続けることが出来るのか。(笑)
というか、このシリーズここで終わりの予定なんですけど。
サク→カカってのも、新鮮で良いです。
私、カカサク好きーさんはみんなサクカカも好きなのかと思っていたけれど、違うんですねぇ。最近知りました。
というわけで、いつもと違うノリで、不快に思った人すみません。
「愛人なのv」ってのは、『レオン』のマチルダつもりなんですが、言わないと分からないですね。
冒頭&大筋はハレグゥのユミ先生。

カカシ先生総受けがモットーだったのでイルカカやらアスカカやらクレカカやら、いろいろ盛り込む予定だったのですが、指が拒否反応を示したのでやめました。(^_^;)
期待していた方、いたらすみません。

ナルト、凄い怪しいですね。
オチ的には、ナルトは『カカシファンクラブ』の会員なのです。
見回り組の一人。カカシ先生の危機に駆けつける役割を担っています。
常にカカシ先生をストーキングしてるメンバーがそばにいる、ということで。それも何だかなぁ。(笑)

 

何か、これ書いた矢先に、シリーズ完結編を書きたくなってきたわ。
果たして、カカシ先生はサクラの手に落ちてしまうのか!?そのとき、ナルトは!!
次週、恋の風雪暴れ太鼓が乱れ飛ぶ!
『ああ、艦長よ、永遠に・・・』(←サブタイトル)
ご期待ください!!(半分ウソ(笑)いきなり次回予告みたいだ)

いや、私、もともとカカサク人間やし。そんな感じのラストにしたいっす。本音を言うと。
サクラの暴走特急を止められるのは、カカシ先生しかいないんで。
書くとしたら、ギャグは一切なしで真面目な話。ハヤテさんも出てくる。


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