花笑


俺も、死んでしまおうか。

男は発作的に、そんなことを考えた。

 

病院内にあるその庭園では、暖かい気候ということもあり人通りが多い。
人種としては、パジャマ姿の入院患者であったり、その見舞いの者だったり。
花壇には、人々の気持ちを和ませようと、何種類もの花が植わっている。

病人、怪我人のいる病室とは違い、園内は和やかな空気が流れている。
その中で。
男のいる場所だけが、浮いていた。
ベンチはどこも人で一杯だというのに、彼の周囲だけは誰も近寄ろうとしない。
眉間に深い皺が刻まれ、険のある目付き。
一目で彼が何か重要な考え事をしているのだと分かるからだろうか。

そのとおり、男は今、自分の生と死について真剣に思い悩んでいた。

 

今日、ほんの数分前に、彼の同僚が息を引き取った。
長時間の手術の末、結局助からなかった。
ただの同僚ではない。
彼が、まだ下忍の頃から親しくしていた、親友とも呼べる存在。
心の支えたる、よるべを失った彼は、自分の生きる道をすっかり見失っていた。

仕事柄、彼の職場は人の出入りが激しい。
出て行く場合は、ほぼ殉職。
それでも、任務に支障をきたさないよう人数はどんどん補充されていく。
新人の忍を見るたびに、彼は心の中で思う。
この中で、最初の一ヶ月を生き延びる事ができる忍は何人だろうか。

殺伐とした生活が続く中、しだいに、精神の均衡が危うくなってくる。
出口の無い暗闇を彷徨っているような、そんな錯覚。
怪我を負い、先に逝く同僚達を哀れむ反面、羨ましいと思ってしまう自分がいる。
仕事を辞める事ができない以上、いっそのこと命を絶ってしまった方が楽になるのではないか。
そのような暗い考えばかりが頭をまわる。

悶々と時間を費やす彼に、歩み寄る人影が一つ。

 

「はい」

少女の声と共に、急に視界を遮った、花。
男は驚いて顔をあげた。
見上げると、見知らぬ少女がベンチに座る男に花束を差し出していた。

「何?」
訝る男に、少女はにっこりと微笑みかける。
「あげる」
少女はなおも男に花を押し付けている。
男はわけがわからず困惑した。
「何で」
質問が口を突いて出る。

「お花をもらうと嬉しくなるでしょ。だから、あげる」
「でも、これ・・・」
男は病棟の方角を見ながら言った。
「誰かのお見舞いの花じゃないのか」
「そうだったんだけどね」
少女は首を傾けた。
「昨日退院しちゃったんだって。連絡が行き違っちゃったみたいで。馬鹿みたいでしょ」
朗らかに笑う少女につられ、男は苦笑いをした。

 

その時、彼らの耳についた女性の声。
見ると、病棟の入り口付近で、女性が誰かの名前を呼びながら辺りを窺っている。

「あ、私もう行かなきゃ!じゃあね」
言葉と同時に、少女は慌しく走り出す。
誰かを捜している様子のあの女性は、彼女の母親なのだろう。
遠目にも分かる、少女と同じ桜色の髪。

男が少女の後ろ姿を眺めていると、ふいに、彼女が立ち止まった。
「忘れてた。これ」
少女は男に向かって花束を放り投げる。
男は素直に手を伸ばし、それを受け取った。
「いらない」と言って投げ返す事は、いささかはばかられたからだ。

「ありがとう」
感謝の言葉をのべる男に向かって、少女は嬉しそうに微笑んだ。
「そっちの方がいいよ」
「え」
「笑ってた方がいい。元気だしてね」
そう言うと、少女は踵を返した。
母親のもとへと、一直線に向かっていく。

 

再び一人になった男は、暫らくそのベンチに座っていた。
優しい花の香りが鼻につく。
よく見れば、園内の人々はみな明るい表情で話し込んでいる。
入院している以上、そうは見えなくてもどこかしら身体に悪い部分があるのだ。
それでも、人々は笑顔を忘れてはいない。
少女との些細なやり取りは、男の曇った目を晴らしていた。

もう少し、頑張ってみようか。

何となく思った。

 

男はやがて上司の直々の命により長くいた部署を離れ、新たな任務につくことになった。

 

 

「カカシ先生、いつから私のこと好きだったの?」
「一目惚れ」
即答するカカシに、サクラはぱちくりと目を瞬かせる。
次の瞬間には、吹き出した。
「嘘ばっかり」
サクラはそのまま笑いつづける。
「最初に会った時って、カカシ先生私達に「嫌い」だって言ったでしょ。また、いい加減な事言ってー」
「・・・そうだね」

苦笑まじりに言うと、カカシは過去自分の命を救ってくれた少女の肩に腕を回した。


あとがき??
よく分からないです。はて?
サクラに一目惚れするカカシ先生が書きたかっただけなんだけど。
乙女達を魅了するあのカカシスマイルはサクラの言葉が発端だったのか。(大嘘)
自分が不幸だと思うと本当に不幸になってしまって、そうでもないかなと思うとそうでもなくなる気がします。
“花笑”とは、花が咲くの意。


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