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「ナルト、菜の国に行くんだってな」
「うん、そう」
カカシを出迎え、玄関の扉を開けたナルトはそのまますたすたとリビングへ向かった。
カカシはナルトのあとを付いて歩いてくる。
その場所は、いかにもナルトらしく散らかり放題だった。
長期の任務に向かう前ということで、準備のためによけいにいろいろな小物が散乱している状態。

「これ、餞別」
カカシは適当な空間を見つけ、座り込む。
ナルトは紙袋を受け取りながら首を傾げた。
「何?」
「お前のためになるもの、だよ」
にやりと意味深な笑いを浮かべ、カカシは短く答える。

意味が分からないながらも、ナルトは紙袋に手を突っ込んだ。
ごそごそと音を立て手触りで何となく推測する。
「本?」
「そ」
頷くカカシに、兵法書か何かだろうかとナルトはひょいと取り出した。

ナルトの目に最初に飛び込んできたのは、文庫本のオビについた『イチャパラシリーズ待望の最新刊!』の文字。
「こ、こ、こ、これ!?」
思わずどもるナルトに、カカシはにやにや笑いで続ける。
「いや、お前もそろそろかなぁと思って」
「・・・何がよ」
その言葉と同時に、カカシは背後いる人物に頭をはたかれた。
後ろを他人に取られるとは上忍にあるまじき失態。
だが、彼女が相手ならそれも頷ける。

「サクラちゃん」
驚くナルトに歩み寄り、サクラはナルトの手から本を奪い取った。
「ちょっと、カカシ先生。ナルトに変なもの与えないでよ。先生みたいにスケベになっちゃったらどうしてくれるのよ!」
「言うねぇ」
カカシは面白そうに笑うだけだ。
そしてサクラは厳しい視線をカカシからナルトに移す。

「あーもー、ナルト!まだ全然用意できてないんじゃない。昼には出発だってのに!!早くしなさい」
ナルトをせっつきながらも、サクラはてきぱきと散らかった物を整理していく。
「タオルは何枚か持っていくのよ。ほら、服は丸めるとかさばらないから」
もたもたとするナルトを尻目に、結局サクラはほぼ一人で準備をすませてしまった。
最後の荷物を鞄に詰め込み、サクラは傍らのナルトに向き直る。
「頑張っていってらっしゃいね」
「うん」
勢いよく背中を叩かれ、ナルトはさも嬉しげに微笑んだ。

 

ナルトを里の玄関たる門まで見送りに行き、カカシとサクラは並んで家路を歩く。

「今日はナルトについていかないのね」
「何のこと」
サクラの言葉に、カカシはとぼけたように言う。
「しらばっくれても無駄よ。先生、この間ナルトの任務に密かに付いてったでしょ」
「だって、あいつ危なっかしいじゃないか」
「・・・まぁね」
開き直ったカカシの言葉に、サクラは納得して頷いた。
だからこそ、サクラもいろいろと世話を焼いてしまうのだ。

「でも、先生、私のときは全然ついて来てくれないじゃない」
カカシから顔を背け、サクラは膨れっ面を作る。
「お前はナルトと違って優秀だからな。安心していられるんだよ」
「ふーん」
なおもふてくされているサクラに、カカシは苦笑してその頭に手をやった。
「サクラは俺の自慢の生徒だよ」

 

 

数日後、サクラは白い封筒を片手に、揚々とカカシの家を訪れた。

「先生、ナルトから手紙が来たの!」
「おー」
弾んだ声で笑みを浮かべるサクラを、カカシも喜んで迎え入れる。
「何だって?」
「まだ封開けてないの」
ポストに手紙を見つけ、そのままカカシの家まで駆けてきたのだろう。
任務帰りなのか、サクラは仕事着である忍装束のままだ。

「はい」
ハサミを手渡され、サクラは緊張した面もちで封を切る。
ナルトが気を利かせて手紙をよこすなど、初めてのことだ。

一体、どのようなことが書かれているのか。

 

暫く字面を追っていたサクラの顔色が、見る間に変化していった。
やがて、硬直したように動きが止まる。
紙面に顔を付き合わせたまま、ぴくりともしない。
「サクラ?」
何か、悪いことが書かれていたのかとカカシは不安げな声を出す。
しかし、次の瞬間サクラの口から出たのは、実に意外な一言だった。

「ナルトが恋をしてるわ」

カカシを見上げ、呆けたような声を出すサクラ。
「・・・え?」
思わず聞き返したカカシに、サクラは無言で手紙を押し付けた。
そのまま受け取ったカカシは、素早く紙面に目を走らせる。

内容はサクラの言ったとおりだった。
菜の国で、ナルトは相思相愛の彼女ができた、らしい。
運命の人に出合ったのだと、大真面目に書かれている。
それで、任務が終了したあとも有給を取って暫らく菜の国に留まると手紙は伝えていた。
面々と綴られた文字から伝わってくる気迫はかなりのものだ。

 

「・・・これは、また」
突然のことに唖然としながらも、カカシはちらりとサクラの様子を窺う。
カカシの視線を感じてか、サクラはばったりと後ろに倒れこんだ。
ごろりとフローリングの床に転がる。

「ショックーーー!」
「素直だねぇ」
感心するカカシに、サクラは力の無い眼差しを向ける。
「何か、手塩にかけて育てた息子を嫁に取られた気分」
思いも寄らない比喩表現に、カカシは吹き出した。
だが、いかにも言い得て妙だ。
サクラとナルトの関係は、まさに母子と言っていいものだった。

「お前、子供なんて産んだことないくせに、何言ってるんだか」
笑いつづけるカカシに、サクラは次第に不機嫌な顔になる。
「それにしたってよ、キープくんがいなくなっちゃったんだから、私には重大問題なのよ」
「何それ」
「だってさ、サスケくんもリーくんも今じゃ結婚しちゃって良い家庭人だし、気付けば私の周りの男の子ってナルトしかいなかったんだもん。それなのにナルトにまで彼女が出来ちゃって、いざというときの保険がなくなっちゃった」
ぶつぶつと不満を呟いていたサクラだったが、ふいに表情を緩ませ、柔和な顔つきになる。
「でも、ナルトが選んだ子って、どんな女の子かなぁ」

 

その存在を面白くないものとした考えはあっさりと切り替えたらしい。
サクラの頭の中で、ナルトの恋人に対する想像が膨らんでいく。
「きっとナルトみたいに心根のまっすぐな、良い子よね」
「そうだな」
カカシは素直に同意して頷いた。
「それに、サクラにはまだ取っておきの旦那様候補が残ってるじゃないか」
「え、誰!!!」
弾かれたように半身を起こすサクラに、カカシはにっこりと笑いかける。
「分からない?」
「分からない」
鸚鵡返しに答えるサクラに、カカシはさりげなく自分を指差す。
「ええーー」
とたんにあがった、サクラの明らかに興ざめという声。

「何よ。その反応は」
「だって、先生みたいにしょぼくれたオヤジに、私みたいなぴちぴちの乙女はもったいないじゃない」
「しょぼ・・・」
さすがにカカシは気落ちした表情でサクラを見る。
「これでも、俺エリート上忍なんだけど」
「そうだっけ」
サクラはきょとんとした顔で返す。

 

部屋の隅。

すっかり肩を落としてうなだれているカカシを横目に、サクラは苦笑をもらす。
そういうところが、エリート上忍に見えない所以だ。
「まぁ、いっか」
満更でもなさそうに言うと、サクラはカカシの背中に飛びついた。
「先生の隣り、居心地良いしね」


あとがき??
こういうかカサクもいいかな、と。
タイトルはそのまんま、両親。ナルトのね。
彼氏のいないらしいサクラちゃん。彼女に魅了がないわけではなく、某先生が悪い虫が付かないよう邪魔をしているからだと思われます。(笑)
ナルトの彼女は、サクラに輪をかけた性格です。
花とゆめ連載中の『てるてる×少年』のしの姫みたいに。(つまり相手は姫)
翻弄されてるナルトを想像すると面白い・・・。


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