教師の領分


任務の合間の休日。
その日、一人街で買い物をしていたサクラは、意外な組み合わせの二人連れに目を見張った。

前からやってくるのは、カカシとヒナタ。
その二人が、仲の良い様子で談笑している。
互いに、楽しげな微笑を浮かべながら。
内気で引っ込み思案のヒナタが、誰かとうち解けて話しているのを、サクラは初めて見た。
それが、自分の担任であることに、なおのこと驚く。

端から見ると、しごく良い雰囲気の二人。
棒を飲んだように立ちつくしたサクラは、全く身動きが出来なかった。

 

そうこうするうちに、二人の方がサクラに気付いたようだ。
ヒナタはサクラに向かってにっこりと微笑む。
サクラの目に、どこか余裕のあるように見える笑み。
傍らにはヒナタと同様に、にこにこ顔のカカシがいる。

寄り添う二人に笑顔を返そうとして。
サクラは失敗した。
逆に、緊張ぎみに顔を強張らせる。

漠然とした不安感。

それはサクラの中で、ゆっくりと頭をもたげた。
カカシが大人の忍仲間や、同じ班のナルトやサスケと話しているときには感じたことはないもの。
奇妙な感覚に、サクラは戸惑いを隠せない。

 

「有難うございました」
その声に、ぼんやりとしていたサクラは我に返った。
見ると、ヒナタはカカシに向かってぺこりと頭を下げている。
「いや。じゃあ、日曜に」

気になる言葉を交わし、ヒナタはサクラに小さく手を振ってカカシから離れた。
入れ違いにカカシに歩み寄り、サクラはヒナタの後ろ姿を不安げな眼差しで見詰める。

「・・・先生、日曜って」
「ああ」
見上げてくるサクラに、カカシはさりげなく目線を逸らす。
「ちょっと、ね」
カカシは曖昧に言葉を濁した。
頬を掻きながら視線を泳がせるカカシに、サクラはより落ち着かない気持ちになる。

 

カカシが、知らないところでヒナタと親しく付き合っている。

そのことが、サクラには何故か、許せない行為に思えた。
不安定な感覚に変わり、段々と胸中に渦巻いていく苛立たしい感情。

「・・・カカシ先生は7班の担当なんでしょ」
今更のように訊ねてくるサクラに、カカシは怪訝な表情になった。
「そうだけど」
「じゃあ、何でヒナタと仲良くしてるのよ!」

感情のままに、サクラは荒々しく言い放つ。
驚いたカカシは、サクラの瞳に涙が滲み始めたことに気付いた。
サクラはそれを誤魔化すように、カカシを睨みつける。
「カカシ先生は、私の先生なのに」

 

涙を流さんばかりに瞳を潤ませるサクラに、カカシはひどく狼狽する。
サクラが泣く理由というのが、全く分からなかったからだ。
怒る理由となると、なおさら分からない。

対して、サクラの方も自らの気持ちを推し量ることが出来ずにいた。
これが、嫉妬だということは分かる。
だが、イルカが担任だったときは、彼がどんなに他の生徒と仲良くしていても何とも思わなかった。
それでは、二人の教師の違いというのは、一体何なのか・・・。

 

「・・・あの、よく分からないんだけど、ヒナタちゃんのことだったら気にすることないよ」
真っ赤な瞳でしきりに目尻を擦るサクラに、カカシは困ったような声を出す。
「彼女とはさっき本屋で偶然会って、ナルトへの伝言を頼まれただけだから」
「ナルト??」
素っ頓狂な声をあげるサクラに、カカシは頷く。
「ナルトのこと聞きたがってたから、こないだの任務での奴の失敗談を話してたんだ。彼女、よく笑ってたでしょ」

サクラは先ほど見たヒナタの笑顔を思い浮かべる。
軽やかな笑い声。
あれはカカシに対してではなく、間接的にナルトに向けられたものだった。
拍子抜けしたサクラに、カカシは話を続ける。

「ヒナタちゃん明後日の日曜にナルトと花見に行く約束してるらしいんだ。それで、明日の任務の時にナルトに忘れてないか確認して欲しいって頼まれたの。あいつ、抜けてるところあるから」
「でも、何で隠すようなこと・・・」
「親の監視が厳しいんだって」
カカシは首を軽く傾け、クスリと笑う。
「男の子との外出だって分かると監視役の忍が付いて来ちゃうそうだよ。だから極力内緒にしておきたいらしい。俺なら上忍だし、口が硬いと思ったんじゃないの」

ヒナタの家は旧家だ。
そういうこともあるのかとサクラは納得する。
同時に、自分の大きな勘違いを悟り、サクラは顔を赤くして俯いた。
カカシとヒナタが交際しているのではと、一人大騒ぎしていた自分が、やけに馬鹿馬鹿しく思える。

 

なかなか顔を上げようとしないサクラの頭に、カカシは手を置いた。

「心配しなくても、俺はサクラ達7班の下忍が一番可愛いよ」
「し、心配なんてしてないわよ!」
それは嘘だったが、サクラは固く言い張った。
頬を膨らませて上目使いに自分を見るサクラに、カカシは微笑を浮かべる。

サクラを、無性に可愛いと感じた。
大事な7班の下忍の中でも、特別に。

 

「あのさ、サクラ。抱きしめてもいい?」
「え!?」
目を丸くしたサクラは、間髪入れずに答える。
「駄目!」

百面相を繰り返すサクラに、カカシは思わず破顔した。
了承なく彼女を抱き寄せながら思う。
いつまでサクラの「先生」の立場に甘んじることができるのかと。


あとがき??
なんだか、こう、全体的にこそばゆい感じがします。(^_^;)恥ずかしいー。
サクラちゃんは、「他の班の下忍がカカシ先生と仲良くしたこと」に嫉妬したわけじゃなくて、「他の女の子がカカシ先生と仲良くしたこと」に嫉妬してたんですね。
カカシ先生も「先生」以上の存在になりたいと、望んでるんですが。分り難い、かな。

キリリクのカカサク用に書いていたのですが、サクカカになってしまったのでボツになった作品。(笑)
それをしっかり転用しているあたり・・・。
ヒナタちゃんにはいつも脇役で悪いなぁと思っております。(汗汗)


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