お見合い結婚


「お見合いーーー!!!」
盛大にお茶を吹きだした後にサクラはそう叫んだ。
「サクラ、お行儀悪いわよ。食事中に」
「どういうことなのよ!!」
母親の叱責する声は全く耳に入っていない様子でサクラは父親を問い詰めた。
「いや、だからカエデちゃんが誰かと駆け落ちしちゃったみたいでね。代わりにうちに話がきたみたいなんだよ」

カエデとはサクラより3つ年上の父方の従妹だ。
それにしたってお見合いなんて早すぎるとサクラは思うのだが、春野家ではごく一般的なことだった。
そのカエデがなんと大名クラスの御曹司の目にとまった。
カエデの両親にとってはもちろん万万歳な話だったのだが、カエデにはどうやら思う人がいたらしい。
降って湧いたようなお見合い話を喜ぶ両親に言い出せなかったらしく、彼女はお見合いの一週間前という今になって失踪してしまった。
「好きな人のところに行きます」と書置きを残して。

その日のうちに春野一族は緊急集合し、夜を徹しての話し合いが行われた。
何と言っても相手は超がつくほどの大財閥。
怒らせたら一族の未来はない、かもしれない。
結果、カエデと年が近くて一番彼女と面立ちが似ているサクラに白羽の矢がたったというわけだ。

「そういうわけだから、サクラ、大人しくお見合いしてくれ」
「冗談じゃないわよぉぉーー!!」
相手を怒らせないための一時的な代理なのだし、まさかこの話がそのまま進むはずはないとは思うが、万が一その御曹司とやらに気に入られたら大名家にいくことになってしまう。
当然、忍者はやめなければならないし、もう気軽に外出もできなくなる。
なにより、サクラには好きな人がいた。
片想いだけれど。
「どうせお前には一緒に逃げてくれるようないい人はいないだろ」
機を制して父親に言われてしまったためにサクラはぐうの音も出ない。

「で、でもまだ私には早すぎるでしょ」
「何言ってるんだ。父さんが母さんと出会ったのはサクラくらいの年齢の時だぞ」
「そうよ。サクラが生まれたの16の時だったし、早いことはないわ」
万年新婚夫婦のような仲の良い両親を前に、ますますサクラは言い逃れができなくなってしまった。
もともと一族の命運がかかっているなどと大げさなことを言われてしまえば、サクラに反論の余地はない。
「じゃあ、今週の日曜だから」
サクラの気も知らず、彼女の父親は家族で旅行にいく約束をするかのように気軽にそう言った。

 

「なんだ、サクラ。元気ないなぁ。何か悩み事か?」
「・・・いえ、そんなことないです」
アハハハ、と気の抜けるような笑いをカカシに返してサクラはため息をついた。
サクラはここ最近、暗い顔で一度も笑顔の見せなかった。
そんなことは今までなかったので、ナルトもサスケも口には出さないが随分心配している。
カカシは原因を探るためにこうして任務の後サクラとの会話を試みているのだ。

「ため息ついてそんなこと言っても全然説得力ないぞ」
「済みません」
サクラは余計に声のトーンを落とした。
このままではイカン、と思ったカカシはなんとか会話を立てなおそうとする。
「サクラ、日曜どこか、そうだな映画にでも行かないか?ナルトやサスケも誘って」
カカシはサスケの名前を出せばサクラはこの話に飛びついてくると考えたのだが、それは逆効果だったようだ。
サクラはさらに沈んだ表情になってしまった。
「日曜はお見合いが」
と言いかけて、サクラはハッと口に手を当てる。
「え、何だって?」
カカシは訊き返したが、サクラは首を振って答えた。
「日曜は用事があるんです。ごめんなさい。じゃあね、先生」
サクラはそれだけ言うとカカシの前から走り去ってしまった。

 

日曜日。
サクラの気持ちとは裏腹に、憎らしいくらいの快晴だ。
その日のサクラは前髪を下し顔に薄化粧を施して、普段よりぐっと大人っぽい雰囲気をかもし出している。
しかし、サクラにとって化粧はわずらわしく、綺麗な振袖も動きを制限されているようで邪魔でしかなかった。
「綺麗綺麗」
「じゃあ、行きましょうか」
サクラの両親は浮かない表情のサクラに気づいた様子はく、いそいそと出発の準備を進める。
「あら?」
扉をあけて先に外に出た両親の動きが止まっている。
サクラが母親の肩越しに前方を見ると、そこにはカカシの姿があった。

「せ、先生。どうして」
「やぁサクラ。随分綺麗な格好してるな」
カカシはスタスタとサクラに近づくといつものようにサクラの頭をなでる。
「迎えに来た」
「え、だって私用事があるって言ったよね」
「そうですよ。娘はこれからお見合いに行くんです」
サクラの母がカカシとサクラの会話に横やりを入れる。
わ、馬鹿。何正直に話してるのよ!とサクラが冷や汗をかいているとカカシが笑顔で言った。

「だから迎えに来たんですよ」
「え?」
親子三人が驚きの声を上げると同時に、カカシはサクラを担ぎ上げた。
「キャアアァ。ちょっと、先生何するのよー。降ろして降ろして」
「やだ」
カカシはあっさりサクラの言葉を否定するとサクラの両親に向き直る。
「じゃあ、お嬢さん戴いていきますんで」
「えええ!」
春野一家はまたしても叫び声をはもらせたが、すでにその時にはカカシの姿もサクラの姿も風のように消えていた。

状況を理解できず、呆然とするサクラの両親。
「責任とってくれるのかしら」
「残るは叔母さんところのモミジちゃんしかいないんだけど、でもあの子まだ10歳だったよなぁ」
残された夫婦はどこかかみ合わないそんな会話をした。

 

「カカシ先生の馬鹿――!!」
「なによ。助けてあげたのに」
「根本的な解決になってないのよ!」
未だにカカシに担がれているサクラはバシバシとカカシの背中を叩くが、カカシの歩く速度は全く変わらなかった。
人通りのない道を選んでいるものの、いつ誰があらわれるか分からない。
「先生、もぅいいから、降ろしてよ」
「はいはい」
カカシは素直にサクラを肩から降ろしたが、サクラから手を離そうとしない。
「なに?」
サクラは訝しげにカカシを見つめる。
「んー、あんまり綺麗だから離したくなくなっちゃった」
そう言うとカカシはそのままサクラを抱きしめた。
「キ、キ、キャアァー。セクハラよセクハラー!!」
サクラはカカシの腕の中で精一杯暴れたが、力が緩まる気配はない。
「ようやく元気出てきたなぁ。良かった良かった」
カカシは本当に嬉しそうに言った。

 

サクラは恥ずかしくて死にそうな気持ちだ。
誰かに見られたら何と言ったらいいのか。
自宅のすぐ近くだというのに。
サクラの顔は耳まで真っ赤になっている。

でも、恥ずかしいけど、決して嫌な気持ちではない。
むしろ、安心する。
扉の前にいるカカシ先生を見た時、自分はどう思ったのか。
心にあったのは安堵の気持ちではなかったか。

お見合いなんて全然したくなかった。
本当はあの状況から救い出してくれる人を待っていたのかもしれない。
そうして、先生が来てくれた。
たぶん現れたのがカカシ先生だったからあんなに嬉しかったのだ。

 

「先生。有難う」
すっかり観念した様子で大人しくなったサクラがカカシの胸に頬を寄せてポツリと呟く。
「んー、別に当然のことしただけだよ」
「当然のこと?」
「サクラは大事な部下だからな。サクラがいなくなったらナルトやサスケも悲しむぞ」
部下だから。
カカシにとって自分はただの部下でしかないのかと思うとサクラはとても寂しい気持ちになった。

「それにサクラは俺の嫁さん候補の最有力株だからね。他の誰かに持っていかれると困る」
カカシはサクラには本気なのか冗談なのかちょっと分からない口調で言った。
「先生のお嫁さん候補って何人いるの」
カカシの顔を見上げてサクラは半眼で訊ねる。
「一人」

 

ところでお見合いの方はどうなったかというと、10歳のモミジちゃんが頑張ってなんとかなったらしい。
相手は大名家の御曹司とはいっても、まだ7歳の子供だったのだから当然といえば当然かもしれない。
カエデの駆け落ちの理由は相手方の年齢ももちろん考慮してのことだった。


あとがき??
ただ単にカカシ先生に「卒業」のダスティン・ホフマンをやってもらいたかったのかも。
結婚じゃなくて、お見合いだけど。(笑)
よし、たまには原作に近いNARUTO話にするぞ、と思ったのに(どこらへんでそう思ったのか自分でももう分からない)かなりかけ離れたものになってしまった・・・。

ただのカカサクいちゃつき話。
こんなのバイト先でせっせと書いてるんだから、相当ヤバイわ。


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