家庭訪問


「カカシ先生、今度の日曜日うちに遊びに来ない?」

任務からの帰り道、サクラからとても魅力のある提案をされた。
断る理由はないのだが、気がかりなことも一つ。
「・・・でも、お父さんがうるさいんじゃないの」
おずおずと声を出すと、サクラは軽く笑い飛ばした。
「大丈夫よ。日曜は家に誰もいないから。ミキヒサさんは釣り仲間と出掛けて当分帰らないし、お母さんも友達と旅行の予定なの」

誰もいない家に、二人きり。

このようなおいしいシチュエーションを見逃す手はない。
もしや二人の仲をより進展させようというサクラからの大胆な誘いなのでは。
と、深読みしてみたが、サクラの平然とした口調からそうした感情は読みとれなかった。
本当に、ただ遊びに来いと言っているのだろう。

そうしたあどけなさを残念に思いながら。
また、いとおしいとも思う。
サクラは全く罪な子だ。

 

 

そして迎えた日曜日。
勇んでサクラの家に向かった俺だが、呼び鈴を鳴らしてもサクラは出てこなかった。
そういえば、午前中は買い物に行くからゆっくり来てくれと言っていた気がする。

早く来すぎたか、と時計を眺めていると、ふいに、背後に人の気配を感じた。
習慣から、僅かに身構えながら振り返る。
数メートル先に、自分と同じくサクラの家の来訪者なのか、こちらの様子を伺っている一人の男がいた。
不思議と、警戒心を解く雰囲気を持った青年。

「あの、サクラのお兄さんですか?」

つい訊いてしまったのは、彼の面立ちがサクラによく似ていたからだ。
加えて、サクラと同じ薄紅色の髪。
きっとサクラが男で、成長したらこんな感じだと思う。
違うのはその瞳が鳶色なことくらいか。

しかし、口に出したあとに、それが愚問だったことに気付いた。
サクラの父のミキヒサは三十路を越えたばかり。
また、母も同じくらいの年齢だという。
どうみても20代前半の彼が、サクラの兄であるはずがない。

 

自分の勘違いに思わず頬を染めると、彼は柔らかく微笑んだ。
その仕草がまた、サクラにうり二つだ。

「違いますよ」
「じゃあ、親戚の・・・」
「ええ」
頷くと、彼は玄関の前までやってきた。
「サクラ、いませんか?」
「そうみたいです」
「じゃあ、奥の手を出しましょう」

彼は慣れた様子で表札の下にある植木鉢をどかす。
その下にあったのは、おそらく玄関の扉をあける鍵。

「どうぞ」
鍵をあけると、彼は丁寧な調子で俺を促す。
「あの・・・・」
「カカシ先生でしょ。サクラからよく話を聞いてますよ」
にっこりと微笑むと、彼はごく親しい間柄のように俺の背を叩いた。
馴れ馴れしいその態度を不快に思わなかったのは、顔がサクラと同じだったからだろうか。

 

 

「へー、ミキヒサさんがそんなこと言ってたんだ。馬鹿親だねぇ」
「でしょー。俺も驚きましたよ」

意気投合した俺達はサクラの家ですっかりくつろいでいた。
サキと名乗った彼はなかなかの聞き上手で、俺は妙に饒舌になってしまった。
どうやら春野家とは昔から親しく付き合っているらしく、彼は楽しげにサクラの幼いときの話をしてくれる。
サクラに似ていることを差し引いても、仲良くしたいと思える人柄だ。

いよいよ会話も盛り上がってきたときに、玄関の扉を開ける音と、トタトタと廊下を歩く音。
開かれたドアに振り返ると、案の定、サクラが買い物袋を片手に立っていた。

「おかえり」
サキがにこやかにサクラに手を振る。
目を丸くしたサクラは、唖然とした様子で言った。
「お母さん。もう帰って来たの!!?」

飲みかけのお茶を思わず吹き出した俺は、その後激しくむせ込んでしまった。

 

「サクラのお母さんとは知らずに、失礼の数々を・・・・」
「あれ、頭を上げてくださいよ」
サキはくすくす笑いをしたまま平謝りする俺の肩を叩いた。

彼女が化粧気もなく男の身なりをしているのは、仕事との兼ね合いが原因とのこと。
町の自衛団の団長をしているうちに、動きやすい服装が定着してしまったのだそうだ。
サクラが物心付く前にすでにこの姿だったらしく、どこから見ても男性的外見だ。
細々とした所作も、すっかり板に付いている。
今日は一緒に旅行をするはずの友達が急病で、その見舞いに行っただけでツアーをキャンセルして帰ってきたらしい。

サクラも交え、リビングには一層和やかな空気が流れていた。

「でも、お母さん昔は凄く可愛い格好してたのよ」
言いながら、サクラは一枚の写真を見せてくれた。
映っているのは、長い髪をリボンで飾ったアリスドレス姿のサクラ。
にしか見えないが、記されている日付は10年以上前のもの。

「これ、お母さんなんですか!?」
「そう。ちなみに、それ撮ったのミキヒサさん」
サキはからからと声を立てて笑う。
「ミキヒサさん、ロリコンだからね。私がプロポーズされたの、12の時よ。私がこんなだから、サクラは全うに女の子らしく育ってもらいたいみたい」

 

ミキヒサがサクラに執着しているわけが、何となく分かった気がした。


あとがき??
はい。元ネタはこなみ詔子先生の『あねさんは委員長』です。(^▽^;)
というわけで、サブタイトルは「お母さんは刑事」ですね。
本当はお母さんは登場させないはずだったんですけど。でも、楽しかった。
どうやら作中のカカサクはまだプラトニックな関係みたいな。(笑)

ちなみに、お父さんがミキヒサくんなので、お母さんはサキちゃんになりました。(芸能人は歯が命!)
サキちゃんは若く見えますが、28歳。(ウェダと似た境遇)
そんで、ミキヒサさんとは結構ラブラブ。

大団円のラストが待っているはずなのですが・・・・。はて。
気が向いたら続き書きたいですね。


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