baby baby ⅲ
任務地である公共施設の球戯場につき、草むしりを始めて暫らくの間は赤子も静かにしていた。
だが、炎天下の日中。
数時間もしないうちに段々とぐずり始める。「あーもー、どうすりゃいいんだよ」
カカシはすっかり弱りきっている。
慣れない人間が世話をしているのだから、しょうがないとはいえ、赤子にも不満がいろいろとあるのだろう。
赤子の泣き声を耳にして集まってきた下忍達も顔を見合わせるのみだ。
「あーあ。本格的に泣き出しちゃった」
「冷静に言ってるんじゃないわよ」
サクラはナルトの頭をぽかりと叩く。「熱はないし、おしめが濡れているわけでもないし」
サクラはてきぱきと赤子の様子を見て判断する。
「きっとおなかがすいたのよ。先生、ミルクは？」
「あるけど・・・」
カカシはポーチの中から借り物の哺乳瓶と粉ミルクを取り出す。
まず、粉ミルクを温めないことには話にならない。
「じゃあ、私、台所を使わせてもらえるように頼んでくるから、それまでお願いね！」
サクラは猛ダッシュで近くの民家へと走る。残されたのは、役に立たない男連中のみ・・・。
「ナルト、何とかしてくれ」
カカシは無責任にも赤子をナルトへと手渡した。
「えええ！？」
もちろん、赤子の世話の経験など皆無のナルトは右往左往と無意味な動きを繰り返す。
それでも何とか赤子をベンチに座らせると、ナルトは赤子に顔を近づけた。
「いない、いない、バァ！」
唯一知っている赤子のあやし方を試してみる。
だが、まるで効果がなかったばかりか、赤子の泣き声は１オクターブ上がったようだ。「・・・サスケ、パス」
げんなりとしたナルトに赤子を渡され、サスケは冷や汗をかく。
「ど、ど、どうすればいいんだ」
「お前もやってみたら。さっきの、ナルトのやつ」
カカシは焦るサスケを見て、にやりと笑って言った。
やっかいごとを抱えるのはごめんだが、人が困るのは見ていて楽しいらしい。
サスケの目に迷いの色が見え隠れする。
暫しの逡巡。
かといって、背に腹はかえられない。「・・・・バァ」
「「アハハハハハハハハハハハハハ」」
「お前らが笑ってどうする！！！」
青筋を立てたサスケが、腹を抱えて爆笑するカカシとナルトにすかさず突っ込みを入れる。
すると、情況を理解しているはずもない赤子がピタリと泣き止んだ。「あれ？」
不思議に思ったナルトは赤子の顔を覗き込む。
赤子の目はナルトを通り越し、ある一点を見詰めていた。
自然、カカシ達の視線もそちらへと向かう。
いつからいたのか、球技場の金網越しに一人の女性が目を大きく見開いてこちらを凝視していた。「アレキサンダー！！！」
甲高い悲鳴をあげ、彼女はフェンスの扉を開き一目散にこちらへとかけてくる。
「アレキサンダー？？」
いやに仰々しい人物名。
同時に首を傾げたナルトとサスケに、カカシはポツリと洩らした。
「名前じゃないのか、その赤の・・・」
「ご迷惑おかけして申し訳ございませんでした」
「いえ、いえ」
本当に、とは言えずに、カカシは穏便に返事をする。
「魔が差したんです。育児ノイローゼにかかっていたようで」
赤子は母親の腕に抱かれ、サクラの用意したミルクを一心に飲み続けている。
「でも、この子と一緒に頑張っていこうと思います。もう二度と手放そうなんて考えません」
「それがいいですよ」一度は赤子を手放そうと思った彼女だが、思い直し前の夫であるマサカズの家、つまりカカシの家に向かっている最中だったのだそうだ。
そして、通りかかった球戯場から聞こえてきたのは、まぎれもなく自分の赤子の声。
見知らぬ人物に囲まれたアレキサンダーを見て、誘拐かと勘違いしたらしい。
夕刻。
予定していた任務は終了し、同時に抱えていた問題も解決したことで、７班の足取りはしごく軽やかなものになっていた。「でも、可愛かったわね。アレキサンダーちゃん。いなくなっちゃって、少し寂しいなぁ」
「・・・そう？」
赤子からようやく解放されたとう感情しかなかったカカシは小首を傾げる。
思えば、顔などろくろく見ていなかった気がする。
「でも、あの名前はどうかと思ったけどね」
「そうだな」
苦笑いと共に付け足されたサクラの言葉に、今度はカカシも同意の返事をした。
木ノ葉の里では相当目立つ名前であることは確かだ。「悪くは無いけど、忍者向きじゃないなぁ」
カカシは頭の後ろで手を組むと、さりげなく呟く。
「俺とサクラの子にはもっと普通の名前を付けたいね」
「やだ、先生ったら！！」
サクラは隣りを歩くカカシの腹に力強くパンチをする。
「そんな先のこと言われても分からないわよ！」
真っ赤な顔のサクラはそれなりに嬉しそうだ。
サクラの拳が思いのほかいい場所にヒットし、悶絶するカカシにはあまり聞こえていなかったが。一方、後方を歩くナルトとサスケの胸中は同じ思いが渦巻いていた。
・・・やってらんねー。
あとがき？？
タイトルは岡村孝子の曲から。彼女の歌では一番好きかも。
７班混じりのほのぼの系というリクエストにかなり反する話になってしまった気が。
しかも、長らくお待たせしてしまって。
す、すみませんー。（＞＿＜）
でも、個人的に書いていて非常に楽しかったです。３００００ＨＩＴ、侑様、有難うございました。