花とみつばち


「カカシ先生、次の日曜日、暇?」
ありったけの勇気を振り絞り、サクラはカカシに問い掛けた。
真っ赤な顔をしたサクラを、カカシは不可思議な顔で見詰める。
「・・・・デートのお誘い?」
「ち、ち、違うわよ!!!」
サクラは大げさに手を振りカカシの言葉を否定する。
「プレゼントを選んで欲しいのよ。ナルトの誕生日が近いから」

というのは建前で、本当はカカシと一緒に外出したかったのだ。
「そっか、ナルトのね。いいよ」
サクラの気持ちを知ってか知らずか、カカシはすぐに肯定の返事をかえしてきた。
「じゃあ日曜の10時に広場の時計台の前ね」
一瞬瞳を輝かせたサクラだが、はたと気付く。
「先生、まさかその忍装束で来るつもりじゃないでしょうね・・・」

改めてカカシの服を上から下まで眺めるサクラに、カカシは首を傾げた。
「そのつもりだけど?」
「駄目よ。その服も額当ても怪しいマスクも全部禁止!普通の服を着てきてよ!!」

サクラにしてみればデートのつもりなのに、カカシがいつもの格好ではあまりにあじけない。
だが、カカシは普段着は室内用のパジャマと兼用のものしか持っていなかった。
外へ出るときは仕事着で済ませてしまっている。
それまで仕事一徹でやってきたカカシには、普段着などあまり必要のないものだったのだ。
「普通の服って・・・どんなの?」
逆に問われ、サクラは言葉に詰まる。

 

(サクラの思考)

大人の男の人 → うちのお父さん → 会社員 → 出掛けるときに着る服

 

「・・・スーツ」

 

 

日曜日。

サクラが時計台の前に来ると、カカシはすでに姿を見せていた。
サクラの指定どおりのスーツ姿で。
高そうなブランドのスーツ上下に、革靴。
もちろん、額当てやその他忍者を思わせるものは身に付けていない。
慣れない服装のせいか、背をしゃんと伸ばし、人待ちの顔で付近を見回している。
元々の顔の作りが悪くないうえに、長身のカカシは広場の中でかなり目を引く存在だった。

「・・・誰を待っているのかしらね」
「彼女に決まってるじゃない。きっと美人よ」 

ひそひそ話をする女性の声がサクラの耳に入る。
何となく、出るに出られない。
デニムのジャケットにミニスカートの自分は見るからに子供子供していて、どう見てもつりあいが取れないように思えた。
とはいえ、このまま人ごみに紛れてカカシを遠目に鑑賞しているわけにもいかない。
行く手を遮る女性の肩越しにひょっこりと顔を出すと、カカシはすぐにサクラを見つけ出した。

 

「サクラ」

明るく微笑んだカカシに、広場の人間の視線が、一斉にサクラに集中する。
「来てるなら早く出て来いよ」
サクラに歩み寄り、カカシはいつものようにサクラの頭に手を置く。
優しい笑みを浮かべるカカシに、サクラは暫し見惚れてしまった。
女性達の羨望の眼差しに少しの優越感を抱きながら。

「・・・先生、その服」
「ああ。親友のコックに借りたんだ。そいつ、似たようなスーツいくつも持ってるんだよ」
カカシは目線を下げ、身に付けているスーツを見る。
「変か?」
その問いに、サクラは首を激しく振って答えた。
「凄く似合ってる!」

 

 

その後、街に向かった二人は大いにショッピングを楽しんだ。
雑貨屋に入り品物についてあれこれ意見を交わしたり、歩き疲れれば洒落たオープンカフェでお茶をしたりと。
ナルトへのプレゼントは、散々検討した結果、彼が日頃コレクションしているメーカーのスニーカーに決まった。

日が暮れ始めた街に別れの気配を感じ、サクラは少しだけ沈んだ気持ちになる。
だが、カカシにそれを悟られないよう、サクラはカカシに向き直った。

「先生、これ」
「何?」
「プレゼント選ぶのに付き合ってくれたお礼。受け取って」
実は、ナルトのプレゼントを選ぶふりをして、カカシの知らない間に密かに購入していたのだ。
カカシは驚いた様子でサクラを凝視している。
その視線から逃れるように、サクラは目を逸らしながら言葉を続けた。
「め、目覚まし時計なんだけど。先生が朝遅刻しないように」

それでも、カカシは黙っている。
もしかして嫌味だと思われただろうか。
サクラが不安げに様子を窺うのと、カカシが手を伸ばすのは同時だった。
「有難う。さっそく今日から使わせてもらうよ」
嬉しそうに笑うと、カカシは素直に感謝の言葉を述べた。

このときに、サクラの心は決まったと言っても過言ではなかった。

 

 

翌日。
報告書を届けた帰り道、カカシは再度サクラの姿を見つけた。

「何だ、サクラ。また頼みごとか?」
にこやかに近づいてくるカカシに、サクラは勢いよく声を出す。
「カカシ先生、私と付き合って!!」
「いいよ」
驚くほどあっさりと、返事をされる。

「・・・え?」
「だから、いいよ」
サクラは大きく目を口を開けた。
「も、もっと考えなくていいの?」
たどたどしく言葉を紡ぐサクラに、カカシはにこっと笑う。
「別に。サクラのことは前から気になってたし、サクラ可愛いし」

サクラが一晩悩みに悩んで告白したことが馬鹿らしくなるほど、カカシは飄々としている。
それから、サクラは暫し思案にふけった。
告白をしておいてなんだが、OKの返事がもらえると思わなかったサクラは、次にどうしたらいいのか分からない。
「・・・カカシ先生、付き合うって何すればいいの?具体的に」
「エッ」
真剣な眼差しで質問をされ、カカシは何故かたじろぐ。

 

(カカシの思考)

付き合う = とりあえずやることをヤル → 喧嘩をする → 自然消滅 (または最初に戻る(エンドレス))

 

・・・言えない。

 

ちらりと見ると、サクラはじっとカカシの答えを待っている。
「えーと・・・」
カカシは頬を掻きながら声を出す。
「・・・・どっか遊びに行くとか。海とかどうよ」
「海!行きたい!!」
カカシの言った適当な言葉に、サクラはすぐにのってくる。
「じゃあ、水着買わなきゃ。一緒に選んでねv」
サクラは全く自然な動作でカカシの手を握って歩き出す。

どうやらカカシにとって今までの女性達とは違ったお付き合いが始まりそうだ。
このように、手を繋いで外を歩くということが、まず無かった。
それだけの触れ合いで、緊張して胸が高鳴るということも。

見上げなければ自分の顔を見ることが出来ないサクラの背丈に感謝しながら、カカシは緩んでしまう頬を何とか修整しようと努めていた。


あとがき??
安野モヨコ先生の『花とみつばち』の5巻、そのまんまです。
サクカカ?カカサク??
カカシ先生のコックの友達ってのは、もちろんワンピのサンジさん。(笑)

次は『ハッピー・マニア』をやりたいですわ。
はすっぱなサクラちゃん。苛められる弱気なカカシ先生。
駄目??


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