旅の空


「カカシ先生が、明日任務から帰ってくるの」
「良かったね」
弾む声で告げるサクラに、ヒナタも明るい笑みを返す。
反比例し、サクラの隣りにいるいのは興味がなさそうに呟いた。
「そういえば、雪の国に行ってたんだっけ・・・」

休日、ショッピングを楽しんだ三人は、茶店で一休みをしている最中だ。
ヒナタとは違い、普段からのろけ話を聞かされているいのにしてみれば、面倒くさい奴が帰ってくる、といった感想しかない。
時折、少しは波風が立たないかと、意地悪なことを考えたりもする。

 

「・・・雪の国っていったら、色白の美人が多いって聞くわね」
「へぇ」
「心配じゃない?」
いのはサクラの顔を覗き込み、にやりと笑う。

いのが言いたいことはすぐに分かった。
だけれど、サクラはとぼけたふりをして、聞き返す。
「・・・・何がよ」
「にぶいわねぇ。先生が雪の国の美人と仲良くやってるんじゃないかって言ってるのよ」
「そんなはずないでしょ」
サクラは口を尖らせて、いのから顔を背ける。
「自信満々ねー。でも、あんたの先生顔はなかなか良いし、結構もてるんじゃないの。雪国美人に言い寄られたら、よろめかない男なんていないわよ。もしかしたら、このまま帰って来なかったりしてー」

面白そうに笑い声を立てるいのに、サクラはガタリと椅子から立ち上がる。
「・・・・帰る」
憮然とした表情で言うと、茶代を置き、サクラは振り返ることなくすたすたとその場から立ち去る。
「いのちゃん・・・」
肩を怒らせて歩くサクラの後ろ姿を見詰めながら、ヒナタは咎めるような声を出す。
「大丈夫、大丈夫。サクラ達ってば年中ラブラブじゃないのよ。サクラにべた惚れのあの先生が浮気するはずないってー」
反省の色なく笑い続けるいのに、ヒナタは深いため息をついた。

 

 

いのには強気な言葉を言ったサクラだったが、彼女達と離れ、一人になったとたんに不安な気持ちがわき起こってきた。

透きとおった肌の美女と親しげなカカシというイメージ映像が、何度頭を振っても離れていかない。
根がスケベなカカシだけに、全てを否定できないことが悲しい。
実際、自分と出会う前はいろいろな女性と浮き名を流したと、噂で聞いたことがある。
そうした話を聞くと、しょうがないこととはいえ、サクラはひどく落ち込んだ。
信じているのに、離れていると不安だけが大きくなっていく。

「先生。会いたいよ・・・」

歩くスピードは緩まり、段々とサクラの瞳に涙が滲み始める。
目を腫らしたまま家に帰れば、母に心配されるだろう。
通り掛った公園のベンチに腰掛け、サクラは道行く人の眼をはばかりながら目端をごしごしとこすった。
幸いなことに、休日の昼間だというのに、思ったほど人はいない。
だが、たまに通り過ぎる幸せそうなカップルが、サクラの孤独を増長させた。

カカシに会えれば。
その腕に抱かれればこの不安が消し飛ぶことが分かっているのに。
彼がこの場にいないことがもどかしい。
カカシが戻るまでの時間。
そのたった一日が、途方もなく長く感じられる。

 

「サクラ」

呼び声に、サクラはうつろな瞳で顔をあげた。
ついに、幻聴が聞こえてきたと思った。
それは、カカシの声だったからだ。

次には、こちらに向かって駆けてくるカカシが見えた。
何とリアルな幻覚なのだろうと思った。
きちんとカラーだ。
地面には影が差し、気配も感じることが出来る。
・・・・気配?
ようやくサクラが我に返るのと同時に、力強く抱きすくめられた。

 

「サクラ、サクラだ!サクラ、サクラ、サクラ!!」
耳元でうるさいくらいに名前を連呼され、サクラはまだ眼を白黒とさせている。
驚きが大きすぎて、事実をすぐに受け入れることが出来ない。
「サクラの家に行ったら、いのちゃん達と出かけたっていうし、いのちゃん達は帰ったっていうし、なかなかサクラに行き当たらなくて大変だったよ」
いったんサクラを離すと、カカシは彼女の肩をがっしりと掴む。
「浮気してなかった?」
サクラがしようと思っていた質問を、カカシが先に口にした。
サクラはぱくぱくと口を動かすだけで、言葉にならない。

「ん、何?」
「せ、先生こそどうなのよ。雪の国は美人だらけなんでしょ」
口にしたそばから、サクラはしまったと思った。
この言い方は、最初からカカシを疑っているようで、まるで可愛げがない。
顔色を変えたサクラだが、カカシはサクラの言葉をあっさりと笑い飛ばした。
「俺の方はずっとサクラのことばっかり考えてたよ。会いたいなぁって。だから頑張って仕事早く終わらせて帰って来ちゃった」
サクラの瞳を見詰め、カカシはにっこりと微笑む。

「サクラに会えて良かったな」
今回離れていた期間だけではなく。
全てをひっくるめての言葉。
喜びに満ちた声音に、サクラは再び涙が出そうになった。
「私も」
一言呟くと、腕を回してカカシを抱きしめる。

 

 

「ね、心配ないって言ったでしょう」
「うん」
抱擁する二人を遠目で眺め、いのとヒナタは苦笑しあう。
どこに人目があるか分からないのに、すっかり二人の世界だ。
「あてられるこっちの身にもなって欲しいわよ。1年2年離れてたってわけじゃなくて、たった1週間なのよ。1週間!」
ぼやくいのを横目に、ヒナタはくすくすと笑い声を立てた。


あとがき??
ベトナム旅行中に考えた話。
ハノイ在住の添乗員、タンさんに言われましてね。
「あんたがこっちに来てる間に、日本では彼氏が家に女ひっぱりこんでるよ(アハハー)」と。
笑顔で、なんちゅーこと言うんじゃ。コンチクショーって感じで。(本当に・・・)
さらに、この人にはひどい目に合わされまして、絶対旅行会社に苦情言うぞー。
あやうく日本に帰れなくなるところでしたわ。

ってことは置いておいて。
カカシ先生やサクラちゃんも不安になるんじゃないかなぁと思ってできた話。(笑)
何で私が書くとカカシ先生、可愛い系になっちゃうかなぁ。サクラ馬鹿一代だし。
クールで格好良いカカシ先生を書いてみたいよ。(泣)無理。
・・・・この話のカカシ先生、私とのシンクロ率120%かもしれない。
だから駄目なのか。

この程度のラブラブ話で、すでにのたうち回るほど恥ずかしいんですけど・・・・。
私ってば、ラブラブ向かないなぁ。死にそう。


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