せくはら
相変わらず雑務任務の続く7班。
その日、手柄を立てたのはサクラだった。「エサで犬をおびき出すなんて、ずりー」
「ここを使っただけよ」
本日の収穫、迷い犬を腕に抱えサクラは得意げに頭を指差す。
満面の笑みを浮かべるサクラに、ナルトは悔しそうに口を尖らせている。
それもそのはず、今回の任務はいつもと勝手が違った。捜査を依頼された犬は木ノ葉の里で名の通った洋菓子店の飼い犬だった。
犬を見つけた者には、その店の用意する一年分相当の洋菓子が約束されていたのだ。
その話をカカシから知らされ、甘いもの好きのナルトとサクラは俄然張り切っていた。
一人、辛党のサスケだけは顔をしかめていたが。
「よく頑張ったなー、サクラ。はい」
サクラの頭を撫でると、カカシは犬と引き換えに封筒を手渡す。
そこには、“洋菓子引換券”が入っているはずだ。
宝石を手にしたかのように表情を輝かせたサクラに、カカシも顔を綻ばせる。
「で、これは先生からのご褒美」
「・・・え?」
封筒から目線をあげたサクラは、至近距離にカカシの顔があるのに気付いた。
驚いたサクラがよける間もなく、額にキスをされる。「セクハラ!!カカシ先生、それセクハラ!!!」
ナルトが喚く傍らで、サクラは呆然と額を押さえている。
「何言ってるのよ。ご褒美だって」
飄々と言い放つカカシに、ナルトはまだ言い募る。
「・・・・じゃあ、俺が犬見つけても、先生はそーゆーことしたのかよ」
「男にキスして何が楽しい」
「やっぱりセクハラじゃないか!!!」
怒りを爆発させたナルトに、カカシはからからと笑い声を立てた。「・・・おい」
サスケに声をかけられ、サクラはハッと我に変える。
「あ、平気平気。驚いただけよ」
サクラは真っ赤な顔でサスケに応えた。
カカシにいいようにからかわれているだけと分かっていても、サクラの顔の熱はなかなか引いていかなかった。
「セクハラ防止ビデオー?」
「そう」
カカシの怪訝な声に、上忍仲間は重々しく頷く。
「ちぇー、何それ。下忍担当の教師が集められてビデオの上映会って言うから、どんなの観るか楽しみにしてたのに」
「でも、今いろいろと問題になってるんだって。この間、火影さまに呼び出された上忍がいただろ」
「うん」
「あれな、下忍から火影さまに対して訴えがあったんだって。担任に身体を触られたって」
「ふーん・・・」
言いながら、カカシはさりげなく今日の自分の素行を思い返していた。
触るとは、どれくらいまでだろうか。
「セクハラだ!」と捲し立てるナルトの顔が脳裏を過ぎる。カカシが視聴覚室に到着すると、他の教師達はすでに集まっていた。
その後行われた、上映会。
その内容は、カカシが胆を冷やすのに十分な代物だった。
「女子生徒とは握手どころか、洋服や髪型を誉めるのも、ぜーんぶセクハラだなんて・・・・」
家路につくカカシは意気消沈した声で呟く。
「・・・・普通に会話もできやしない」
「仕事の話だけしてればいいんじゃないの」
仲間の上忍はさらりと言う。
カカシは、サクラにキスしたことがばれれば、火影さまにどやされるだけじゃすまないなぁと考えていた。
「カカシ先生」
自分を呼び止める声に、カカシはびくりと肩を震わせる。
「え、な、何?」
「・・・・何でもない」
引きつった笑顔で振り返るカカシに、サクラは憮然と答える。
だが、カカシの前から立ち去る様子はない。
サクラはじっとカカシを見据えて佇んでいる。
「あの、俺これから報告書を出しに行かなきゃならなんだけど・・・・」
カカシは困ったように頭をかいた。
サクラから視線を逸らしながら。あのビデオを観て以来、どうも二人の間がギクシャクしている。
カカシはサクラに対して微妙に距離を開けてしまい、理由を知らないサクラにしてみればカカシの突然の変化が不思議でならない。
「そういえば」
サクラに目をやり、カカシは思い出したように声を出す。
「サクラ、最近無理しすぎじゃないか?怪我も多いし」
カカシの言葉どおり、サクラの手足の剥き出しになった部分は擦り傷だらけだ。
それに見合うだけの働きはしているのだが、女の子の身体に傷が出来ることをカカシは心配している。
ナルトがサスケに対抗し躍起になるのはいつものことだが、サクラらしくない行動に思えた。「・・・だって」
俯いたサクラは消え入りそうな声で呟く。
「またもらえると思ったんだもの」
「何を?」
「・・・・ご褒美」
サクラの答えに、カカシは首を傾げる。
「洋菓子店の褒美はあのときだけだぞ」
「そっちじゃないわよ!」
思わず声を荒げたサクラは、そのままぷいと顔を背けた。カカシの位置から、表情は分からないが頬を赤らめたサクラが窺い見える。
その意味が分からず、カカシは暫し考え込んだ。
褒美といえば、この間の“洋菓子引換券”しか頭に浮かばない。
それ以外というと・・・。
一つの可能性に、カカシはポンと手を叩く。
「何だ。サクラ、俺にでこチューしてもらいたかったのか!」
「大きな声で言わないでよ!!」
繰り出されたサクラの拳をまともに腹に受け、カカシは大きく咳き込む。
カカシの言葉はサクラの気持ちをかなり飛躍させていたが、確かに的を射ていた。ナルトやサスケと楽しげに話すカカシを横目に、サクラはカカシが急に冷たくなったのは自分の頑張りが足らないからだと思った。
手柄を立てれば、また以前のように誉めてもらえるはずだ。
そう思い、サクラは任務中に無茶を繰り返していたのだ。「ごめんごめん。サクラに寂しい思いをさせていたなんて知らなかったんだ」
触れる直前に僅かに躊躇したが、それでもカカシはサクラを抱きしめた。
火影の形相がちらりと頭に浮かんだが、憂い顔のサクラを見ていたら我慢できるはずもない。
「サクラのこと嫌いなわけじゃないんだよ」久々に身近で聞くカカシの優しい声音に、サクラはすすり泣きを始める。
なだめるためにも、カカシは事の顛末をサクラへと語って聞かせた。
「そんなビデオがあるんだ・・・」
「そうだよ。全く、厳しいよねぇ」
溜息をついたカカシは、頭の後ろで手を組んだ。すっかり涙の引いたサクラと、カカシは肩を並べて歩いていた。
任務の報告書の受付場所は、もう目と鼻の先だ。「じゃあ、俺はこっちだから。サクラの家はそっちの道だろ」
「・・・うん」
カカシがその道を指すと、サクラは思案顔で頷く。
「何?」
口元に手を当て考え込んでいる様子のサクラに、カカシが訊ねる。
少しの間を空けて、サクラはカカシを見上げた。「私の方が先生に触るのはセクハラじゃないのかな」
思いがけない問い掛けに、カカシも首を捻る。
カカシの観たビデオではそこまでのことは言っていなかった気がする。
「・・・別に、いいんじゃないの」
曖昧に答えるカカシに、サクラはにっこりと笑って手を差し出した。
「じゃあ、もう少し手を繋いで歩こう。先生」
こんなに愛らしく微笑まれたら、あんなビデオが出来ても仕方ないかもしれない。
サクラの笑顔を見詰め、カカシは何となく納得してしまった。
あとがき??
本当にあるんですよ。そういうビデオ。
どの職場も大変ですねぇ。
服を誉めるくらいはいいと思うのですが・・・・。恋愛未満のはずなのに、何故かラブラブなカカサクでした。
またしても、死にそうだ。恥かしい。ラブラブ・・・。
何度も消去しそうになってしまった。