帰郷 1


「友達の結婚式に呼ばれたの。私、ちょっと里から出るわ」

玄関の扉を開けたカカシに、サクラは開口一番に告げた。
「・・・唐突だね」
サクラの発言も、結婚式自体も。
「そうよ。新しいドレスや靴を買う暇もないの」
靴を脱ぎながらサクラはあっさりと言う。

とたとたと廊下を行くサクラの後ろをカカシはついて歩いた。
「友達っていくつ?」
「私と一緒で、17歳。旦那さんは20歳だって。その旦那さんの故郷が波の国だから、そっちで式をあげるのよ」
納戸から旅行用鞄を引っ張り出しながら、サクラは背後にいるカカシに答える。

「波の国か・・・。懐かしいな」
カカシは思いを馳せるように目を細める。
波の国は7班の任務として赴いた、初めての異国だ。
良いことばかりがあったわけではないが、知り合いもいて、懐かしい感じがする。
「タズナさんの家にも顔を出して挨拶してくる。たぶん4日もしないで帰れるわよ」
荷物を鞄に詰め込みながら、サクラはにっこりと笑って言った。

 

 

それは、サクラが消息を絶つ1ヶ月前のやり取り。

 

 

「サクラさんはこちらに顔を見せてすぐに帰りましたけど」

突然来訪したカカシにサクラの失踪を告げられ、ツナミとタズナは困惑気味に顔を見合わせる。
花嫁にも話を聞いたが、同じような答えが返ってきた。
披露宴に出席し、花嫁にブーケを譲られたサクラは早々に波の国をあとしたらしい。
波の国から木の葉の里まで危険な難所もなく、急げば女の足でも1日半でつく。
それが姿を消したとなると、何か事件に巻き込まれ、帰ってこられない状況に陥ったと考えるのが妥当だ。

多忙な上忍であるカカシが緊急に取れた休暇は1週間。
それまでにサクラの足取りを掴まなければならない。
木の葉の里では、任務に関わりなくいなくなった忍にわざわざ捜索隊など出さない。
そればかりか、調べによっては抜け忍として始末されてしまう可能性もある。

 

「どうも、ご心配をおかけして」
「いえ。早く見つかるといいですね・・・」
頭を下げるカカシに、ツナミも不安げに眉を寄せていた。

 

 

「どーこ行っちゃったんだよ。サクラ」

答える者のいない問い掛けを空に投げてみる。
いい具合に晴れた青空と初夏の風は、悩み事さえなければ気持ちよく思えたことだろう。
カカシはとぼとぼと波の国から木の葉の里への道筋を、サクラの痕跡を捜しながら歩く。

サクラは、仕事以外のことだからと、額当てを置いて旅に出た。
忍者同士の抗争に巻き込まれた可能性は低い。
ならば何故連絡もなしに姿を消したのか。
カカシには何度考えても分からない。

もしかして、旅の途中で出会った男に懸想して、そいつの家に付いて行ってしまったのかも。
安易な思いつきに、カカシは僅かに苦笑した。
それならば、まだ良い。
思考を飛躍させ、なるべく最悪の状態を想像しないようにする。
サクラの命がもう無いのではなどと、絶対に考えないように。

 

山道に咲く花を見て、カカシはふとツナミに告げられた言葉を思い出した。
サクラは、花が枯れる前に花嫁のブーケを見せたい人がいるから、早く帰ると言っていたそうだ。

「馬鹿だな。そんなもん、宿の花瓶に突っ込んでおけば良かったんだよ・・・・」

呟く声は、自分でも驚くほど頼りない。
サクラは言っていた。
花嫁のブーケを貰う約束をしたと。
里に帰ったら自分に一番に見せるのだと、笑っていた。

花を大事に抱え、家路を急ぐ彼女の姿がありありと浮かび、カカシは思わず目頭を押さえた。
サクラの無事を、強く祈りながら。

 

 

注意深く付近を探索しながら歩いていたカカシは、やがて国境にある宿場町にたどり着いた。
木の葉の里に向かうならば、絶対に立ち寄るべき町。
サクラの消息を掴むのに、この町以外に手がかりは残されていない。

 

「知らないね」

宿屋という宿屋、虱潰しに聞き込みをしたカカシだが、帰ってくるのは素っ気ない返事だけだった。
最後の一件でも同じ返答をされ、カカシはフロントの傍らにある椅子に座り込む。
その様があまりに気落ちして映ったのか、宿屋の主人は表情を和らげてカカシに話しかけた。

「そのサクラって子、あんたの恋人かい?」
「そうですよ」
カカシは写真の中で微笑むサクラを見詰めながら答える。
「可愛い子なのに、可哀相にねぇ」
同情を含んだ言葉に、カカシは表情を曇らせた。
その言い方では、もうサクラが戻ってこないかのように聞こえる。

「おい・・・」
「そういえば、よく似た子なら昨日見たよ!」
文句の一つも言おうを口を開いたカカシを、主人は遮った。
「サクラって名前じゃなかったけど。ほら、これをくれた」

主人が取り出した紙を、カカシはひったくるようにして奪って目を通す。
カラフルな色遣いのその紙は、旅芸人の一座がこの町にやってきたことを知らせるチラシだった。


あとがき??
ひかわきょうこ先生の『時間を止めて待っていて』、そのまんまパクリです。(笑)
あの作品、大好きなのですよ!少女漫画で異色の西部劇。『荒野の天使ども』の続編。
ミリアム17歳、ダグラス26歳。年の差カップルv
この二人、ミリアムが8歳の時からの付き合いのせいか、なかなかラブラブにならないのですよねー。
ダグラスの方が、ミリアムを恋愛の対象に見られなくて。
ちなみに、ダグラスがめちゃめちゃ×100、格好良いです!!!

面倒なので、サクラが事件に巻き込まれるあたりはパスです。なるべく短めに。
だから、カカサクも初めから両想い。同棲中。
いのやナルトもそのうち登場します。アスマと紅も。


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