帰郷 2


「昨日一日で町の様子は大体分かったでしょ。今日は西地区を一人で回ってくるのよ。分かった?」
「はい」
年かさの女性の高圧的な物言いにも、少女は笑顔で頷いた。
チラシを片手に、めぼしい店先に興行の案内をして回る。
それが、少女に与えられた仕事だ。

「悪いねぇ、カスミちゃん。人手が足りなくて・・・・」
「いいんですよ。怪我も治ったし、いつまでも寝てるわけにいかないですから」
先ほど命令をしたのと別の女性の声に、少女はにこやかに返事をする。
この場所で、身の置き所無く気まずい思いをするより、働いて気を紛らわせていた方がずっと楽だ。
「いってきます」
持てるだけのチラシを抱え、少女は元気良く町へと出発した。

 

一度も一座の芸を見たことがないのに褒め口上をするのも変なものだと思いながらも、少女は一通り決められた文句を口にしてチラシを配って回る。
明日には一座の公演が始まるのだ。
それまでに、このチラシを配り終わらなければならない。

幸いなことに、それといった娯楽のない町に、旅芸人の一座は歓迎されているようだった。
自らチラシをもらいに来る者もいて、広場にやって来た少女は瞬く間に人に囲まれる。
「はいはい。押さないでね」
人垣の中心で、少女は一人ずつにチラシを配っていく。

夕刻になり営業用スマイルももう限界かと思われたころ、少女は自分に向けられた強い視線に顔を上げた。
見ると、一人の若い男が少女を凝視している。
覆面で顔の大部分を隠したその人相を見るなり、少女は瞬時に関わり合いたくない人物だと判断した。
しかし、こちらを注視しているところを見ると、ただ興行に興味がある人なのかもしれない。

 

とことことその男に近づくと、少女は愛想笑いと共にチラシを差し出した。
「はい」
少女の笑顔を複雑な表情で見詰めた後、男はおもむろに少女の手を掴んだ。
「どういうつもりだ、サクラ」
驚いた少女が悲鳴をあげるよりも早く、男は彼女に問い掛ける。

少女は眉を寄せ、男を仰ぎ見た。
「・・・え、何?」
「連絡もよこさず、こんなところで何してるんだ。どれだけみんなが心配してると思ってるんだ、サクラ!」
わけが分からないという顔の少女に、男は繰り返して言う。

連呼される名前に、少女は段々と表情を変えていく。
「あなた・・・」
先ほどまでの訝しげな顔が一転し、少女は表情を輝かせて男を見詰めた。
男の腕を掴み、少女は彼ににじり寄る。
「私が誰だか知ってるのね!」
逆に質問を返され、男は驚きに目を瞬かせた。

 

 

「記憶喪失?」
「ええ、みたいですよ。あるんですねぇ、そういうことが」
目を丸くするカカシの横で、当のサクラはのほほんとした顔で茶をすすっている。

カカシは一先ず、サクラがやっかいになっているという一座のテントを訪れていた。
衣装部屋の隣りにあるそのスペースは、いろいろな人間が通行しており、およそ真面目な話をするのに向かない場所だ。
皿回しの猿が足下をうろついているのも気になる。
だが、公演を明日に控え、椅子を並べることのできるところは他にないらしい。
今、カカシはサクラや座長と差し向かいに座って経緯を説明されている。

「カスミちゃん、いや、サクラちゃんはここから少し行ったところにある崖の下で倒れていたんですよ。多分、雨の中足を滑らせたんでしょうね。強く頭を打ったらしく暫く意識がなかったんですが、2,3日看病したら目を覚ましまして。そうしたら、自分のことを何も覚えていないって言うんで、こっちも仰天しましたよ。ハハハ」
「はぁ・・・・」
カカシはまだ信じられずに呆然としている。
だが、サクラの言動を見る限り、座長の話は真実のことなのだ。

「名前が分からないもんだから、彼女が抱えていた花束からカスミと呼んでいたんですけど、本名はサクラちゃんですか。いや、お迎えが来て良かったなぁ。サクラちゃん」
「はい。本当にお世話になりました」
サクラはにこにこと笑って座長に感謝の言葉を述べる。
一座を離れるまでの間、カカシはずっと狐につままれたような顔をしていた。

 

 

「えっと、カカシさんは私の先生なんですよね」
木ノ葉の里へと続く道を歩きながら、サクラは傍らのカカシに訊ねる。
「・・・・元、だけどね」
「そうですか。わざわざ捜しに来てくれて有難うございます」
自分の素性が分かり気分が高揚しているサクラは、カカシの返答に微妙な間があったことに気付いていない。

座長に教えたままに、サクラはカカシのことを、ただの教師と認識していた。
カカシが素直に恋人だと言わなかったのは、ショックだったからだろうか。
初めまして、の顔で自分を見るサクラが。

「道案内よろしくお願いしますね」
敬語を使い丁寧に頭を下げるサクラに、カカシは何だか泣きたいような気持ちになってしまった。


あとがき??
前振り長いよ・・・・。
書いてる私がすでにあれな状態なので、読んでる方はもっとだろう。
すみません。
3からは元ネタが何だったのか分からないくらいオリジナル入ってきます。

サクラの持っていたブーケには、かすみ草が混じっていたようです。
だからカスミ。忍者っぽい?


駄文に戻る