帰郷 3


「何か、一昔前に戻ったみたいだなぁ」
「そうねぇ」
言いながら、アスマと紅はちらちらとカカシの方へ視線を向ける。
「・・・・何が言いたい」
「「別に」」
不機嫌そのものといった声に、二人は面白そうに笑い、揃って返事をする。

カカシは眉間に皺を寄せながら再び机へと向かう。
その背中にいらついた空気を感じ、アスマと紅は顔を見合わせて含み笑いをした。
上忍の集まる控え室には今この三人しかいず、大声で話したところで咎められることはない。

アスマが昔に戻ったようだと評したのは、サクラのことだ。
里に戻ったサクラは両親のもとから職場へと通い、すっかり以前の通りの生活を営んでいる。
記憶はなくともその働きは代わることなく、さして困ったこともない様子だ。
何もかも、サクラが波の国に向かう前と一緒。

ただ一つのことを除いて。

 

「いのの話によると、サクラは毎日サスケの後を追いかけ回してるらしいぞ」
「それにまた、ナルトがちょっかいを出していると。まぁ、昔の通りよねー」
カカシの不機嫌の元を、アスマと紅はいいように口にする。
湧き起こる怒りを何とかこらえ、カカシは静かに席を立つ。
「あれ、もう帰るのか」
アスマの問い掛けを無視したカカシは扉を乱暴に閉めて去っていった。

「素直になればいいのになぁ」
「癪に障ってるんでしょ。死ぬほど心配してたのに、その恋人が自分のことをすっかり忘れてけろりとしてるんだから」
「気持ちは分かるがな・・・」
アスマはため息をつくと、椅子の背もたれに重心をかける。

「このままじゃ、本当に別の男にサクラを取られるんじゃないか」
「それはないわね」
いやにきっぱりと紅はアスマの言葉を否定する。
「その根拠は?」
不思議そうに訊ねるアスマに、紅はにやりと笑って言った。
「女の勘」

 

 

 

「今日も逃げられちゃったわ・・・」
いのの家を訪れたサクラは、今日一日の行動を報告するようにして話していた。
サクラは仕事帰りに運良くサスケに出くわしたのだが、食事でも一緒にという誘いを見事に断られたらしい。
だが、サクラに諦める気はないようだ。
「サスケくんって、本当に格好良いわよねv私、絶対頑張るから」
サクラはあの手この手と、彼の気を引く作戦を立てている。

その様子を横目で眺めながら、いのはさりげなく訊ねる。
「サクラさぁ、カカシ先生のことどう思う」
「え、カカシさん?」
サクラは突然登場した名前に、面食らったように顔をあげる。
「何で?」
「いいから」
「・・・・そうねぇ」
腕組みをしたサクラはカカシの姿を思い浮かべるように目をつむる。

「怖い人、かな」
暫しの時間を要したその返答に、いのは思わずがっくりと肩を落とした。
「何で怖いのよー?」
「だって、顔隠してるし変な人って感じ。あとね、町でたまに見かけるんだけど、そうすると私のこと睨むようにして見てるの。私、彼に何か悪いことしたのかしら」
本当に分からないというように首を傾げるサクラを見て、いのは心底カカシに同情した。

 

やがて部屋が暗くなったことに気付いたいのは電灯のスイッチを入れながらサクラに向き直る。

「別にいいんだけど、あんた何で毎日うちに入り浸ってるのよ。自分のうちに帰らなくて良いの?」
「んー・・・」
サクラは小さく唸り声をあげていのを見遣る。
「何だかね、変なの。確かに私の家なんだけど、違うような気がして」
「・・・何、それ」
「分からない」
怪訝な顔のいのに、サクラも困ったように答える。

それはサクラが里に帰ったときから感じていたもの。
記憶はなくても、自分を知る者がいて、どこか懐かしい感じのする風景。
知る辺とはすぐに打ち解けることができ、間違いなくここが故郷なのだとサクラは実感できた。

その反面。

サクラは何か物足りなさも感じていた。
どうしても、自分が帰るべき場所がどこか他にあったような気がする。
そこには、自分を待つ人がいるはずなのだ。
生活に不自由はないとはいえ、サクラはときどき記憶がないことがひどくもどかしくなる。

 

「どこなんだろう。どこに帰りたいんだろう・・・」

いのから視線をそらし、サクラは答えを捜すように窓の外へ顔を向ける。
夕日はすでに半分以上が地平に消え、近隣の家には家族の帰りを待つ灯りがともり始めていた。


あとがき??
次で最後かな。やはり、糸が切れてきた感じ・・・・。
早く、早く書き終えなければ!

分かり難いけど、アスマ先生といのはラブな関係なのです。
それならば、少しは匂わせろ、という感じですか。(汗)


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