帰郷 4


近所の店に菓子を買いに行った帰り道。
通りの向こうにサクラの姿を発見し、ナルトは迷うことなく駆け寄った。

「サクラちゃん」
呼び声に反応し、サクラは振り返る。
その顔を見た瞬間に、ナルトは怪訝な顔つきになった。
「サクラちゃん、身体の調子でも悪いの?顔色悪いけど」
心配そうに訊ねるナルトに、サクラは苦笑いをして答える。
「有難う、大丈夫よ。ただ最近寝付きが悪くて。眠れても、変な夢ばかり見て・・・・」

そこで、ふいにサクラの言葉が途切れた。
不思議に思うのと同時に、ナルトはその手を捕まれる。
「さ、サクラちゃん!?」
驚くナルトが目を見張ると、サクラは何故かがっかりとした表情をしていた。
「違う・・・」
「な、何が?」
神妙な顔つきで繋いだ手を見詰めるサクラに、ナルトは困惑して訊ねる。

「夢の中でね、私、誰かと手を繋いでいるの。その手が大きくて暖かくて、私凄く幸せな感じだったんだけど、誰だか確かめる前に目が覚めちゃった。ナルトくんかと思ったんだけど、違ったみたい」
サクラは顔をあげて、寂しげに微笑む。
「変なことばかり言ってごめんね。なかなか記憶が戻らなくてみんなにも迷惑かけちゃって」
「・・・・」

 

ナルトはどう答えて良いか分からず、そのまま黙り込んだ。

自分も不安だろうに、周りを気遣うことのできるサクラを、心から尊敬する。
だけれど、一人思い悩む彼女はひどく辛そうで。
見下ろすことのできるようになった、サクラの小さな身体を抱きしめてあげたい。
そう思うのに。
彼女が求めている手は自分ではないと分かっているから、どうすることもできない。

 

「いのちゃんと約束があるから。じゃあね・・・」

サクラは無理に作った笑顔で言うと、そのまま振り返ることなく立ち去った。
サクラがいなくなっても、ナルトは暫くの間その場に立ち尽くしていた。
菓子の入った袋を片手に佇むナルトに、最初に声をかけたのはイルカだ。

「ナルト、何してるんだ。こんなところで」
イルカは、知り合いでもいるのかときょろきょろと辺りを見回す。
だが、イルカの知りうる範囲での顔見知りはいない。
「ナルト?」
振り向いたイルカは、ナルトがぼろぼろと涙をこぼしていることに気付きギョッする。
「な、ナルト、どうしたんだ。腹でも痛いのか?」
「イルカせんせ――」
ナルトは菓子を持っていない方の手でごしごしと顔をこすった。
「俺ってば、凄く嫌な奴なんだよーー」

 

 

ナルトは密かに願っていた。
このまま、サクラの記憶が戻らないことを。
そうすれば、自分にもまたサクラを手に入れるチャンスが巡ってくると思っていた。

でも、それは大きな間違いだった。

記憶はなくても、サクラは覚えている。
自分を一番に愛していてくれた人を。
おぼつかない記憶をたよりに、それでも、捜している。

サクラの記憶が戻らなければいいというのは、彼女の気持ちを無視した、ただのエゴだ。
サクラはあんなに苦しんでいるというのに。

 

 

「まぁ、そんなに気に病むなよ。サクラの記憶が戻らないのはお前のせいじゃないんだし」
「・・・うん」
なじみのラーメン屋にナルトを連れてきたイルカは、何とかナルトを慰めようと優しい言葉をかける。
自分の心情を吐露してすっきりとしたのか、ナルトも幾分落ち着いたようだ。

「イルカ先生・・・」
ナルトは手にしたコップの水を見詰めながら声を出す。
「ん、何だ」
「俺さ、サクラちゃんのこと大好きなんだ。だからさ、本当はサクラちゃんが俺以外の誰かと一緒になっても、彼女が幸せなら嬉しいんだよ」
真剣な眼差しで告げるナルトに、イルカは相好を崩す。
「そうか」

二人の会話が終わるのを見計らったように、注文したラーメンを持った給仕が器をテーブルに置いて去っていった。


あとがき??
いきなり番外編・・・。本当に次で終わるのか。(ゴクリ)
5は当分先です。

ナルト好きだー!ってのが詰まった話。
あまりのいとしさに、一本話作っちゃったよ。(笑)
ナルトは数年後には絶対いい男になるはずなんです。(力説!)
私、カカサク好きーなもので、あんまりいい目に遭わせてあげられなくて悪いなぁと思っております。


駄文に戻る