恋愛詐欺師


週末、サクラの家を訪れたいのは、サクラから驚くべき報告をされた。

「結婚!!?カカシ先生と?」
「うん」
こぼれるような笑みを浮かべるサクラは、幸せそのものといった顔で頷いた。
対して、いのは第一声を放ったときのまま、大きく口を開けている。
「そんなに意外かなぁ」
「そうよ!だって、あんたこの間までサスケくん、サスケくんって言ってたじゃない」
照れくさそうに言うサクラに、いのは激しく詰問する。
「んー。そうなんだけどね」
「一体何があったのよ。どうしていきなり結婚なわけ!」
驚きのあまり台詞全てにビックリマーク(!)の付くいのに、サクラは苦笑いした。

「何があったと思う?」

 

 

 

「プロポーズされたの?桔梗屋のどら息子に?」
「そうなの・・・」
サクラはさめざめと泣きながら返事をする。
「前の任務で桔梗屋の仕事をしたんだけど、その時に何が気に入られたのか交際を申し込まれて」
「ふーん。いい話じゃないの。案外」
カカシは人ごとといった風にそっけなく言う。
桔梗屋は木ノ葉の里でも3本の指に入ろうかというくらい有名な呉服問屋だ。
その一人息子の嫁となれば、一生左うちわな生活が待っていることだろう。

「冗談じゃないわよ!私はまだ結婚なんてしたくないの!!それにあのどら息子、女好きで有名じゃない!方々に愛人作られるのがオチよ」
「なら、嫌って言えばいいじゃない」
カカシのあっさりとした切り返しに、サクラはぐっと言葉に詰まる。
それまで無責任なカカシの言動にいきり立っていたサクラは、急に気落ちした表情をした。
「・・・でも、うちの両親がこの話にかなり乗り気なのよ。権力に弱い人達だから、すっかりお金に目が眩んで」
再びサクラの目に涙が滲み始め、カカシは小さくため息をつく。
「家から一歩も出ないで仕事も無断欠勤は両親への反発のつもりなの?」
「それもあるけど、どら息子にストーキングされてるからよ。そのカーテンの陰から見てみてよ!」

サクラに指示されたとおり、カカシはさりげなく窓の外をのぞき見る。
すると電信柱の陰から、確かにこちらの様子を窺っている人物がいた。
「・・・・本当だ」
「もー、気が狂いそうよ!!だから先生、心配して様子を見に来てくれたのは嬉しいけど、私当分ここから出ないつもりだから」
拳を握りしめ、サクラは瞳に決意をみなぎらせる。
その様子を眺め、カカシは額に手を当て考えるような動作をした。

 

「サクラ、結婚しよう」

カカシの口から出た言葉に、サクラは耳を疑った。
信じられないといった顔で振り向く。
「先生まで私にどら息子と結婚しろなんて言うの!!」
「違う違う」
金切り声をあげるサクラを、カカシはなだめるように言う。
「俺と、しようって言ってるの」
「・・・・・」
口を閉ざしたサクラは、呆れとも怒りとも付かない複雑な表情になった。
「・・・・先生。私は結婚をしたくない、って言ってるんだけど」
「それは聞いた。だから俺を偽装結婚をしようって提案してるの」
「偽装、結婚!!?」
素っ頓狂な声をあげるサクラに、カカシは首を縦に振る。
「俺と結婚してるから、もうあなたと結婚できないわよーって言うんだよ。木ノ葉の法じゃ重婚は犯罪だしね。それで諦めるんじゃないの」
「・・・・」

サクラは両腕をくみ、暫し思案にふける。
たいして妙案とは思えなかったが、カカシに言われると段々とそのような気になってきた。
「偽装よね、偽装。あとで嘘だったって言うのよね」
「うん」
念を押すサクラに、カカシは素直に頷く。

 

「分かった。先生の案に乗らせて頂きます」
「はい。じゃあ、これ書いてね」
サクラの了承を得るのと同時に、カカシは一枚の紙切れを取り出した。
「・・・・何これ?」
「婚姻届」
「・・・・・」
サクラは無言でその紙切れを見詰める。
紙には木ノ葉のマークと“婚姻届”の文字が大きく印字されていた。
確かに本物だ。
「・・・別にここまでしなくても」
「念には念を入れてね」

カカシが去ったあと、彼が何故あんな紙を持参していたのかとふと疑問に思ったが、結婚問題から解放されるという喜びの方が大きく、サクラはすぐにそのことを忘れてしまった。

 

 

数日後。
サクラはお礼の菓子折を片手にカカシ宅を訪れた。

「破談よ破談。向こうからそう言ってきたの!」
サクラは諸手をあげて万歳をしている。
「先生が桔梗屋に言ってくれたんでしょ」
「うん」
「何から何まで有難う」
晴れ晴れとした笑顔を浮かべるサクラに、カカシも微笑を返した。

「ところで先生。あれ、どこにしまった?」
「ん、何」
「偽の婚姻届。破って捨てちゃうから、出してよ」
「ああ、あれね」
手を差し出しているサクラに、カカシはにこやかに言う。
「役所に提出しちゃった」

瞬間、サクラの顔は紙のように真っ白になった。

硬直したように動きを止めたあと、サクラはぎしぎしと音が鳴りそうなぎこちなさでカカシを仰ぎ見る。
「・・・うそ」
「本当―」
カカシは明るく笑ってサクラの頭をなでる。
「悪い悪い、ついうっかりとね。で、新婚旅行、どこに行こうか」
「・・・・」
サクラはただただ唖然としてしまって声が出ない。
どこの世界に、うっかり婚姻届を役所に届け出る人間がいるのか。
浮き浮き顔で取り寄せた旅行会社のパンフレットを見るカカシには1mmの罪悪も感じられなかった。

「ね、サクラはどこがいい?」
抜け殻のようになっているサクラに、カカシは再度問い掛ける。
混乱の極みに有るサクラは、一言だけ呟いた。
「・・・・無人島」

 

 

 

「ってな感じじゃないの」

いのの推理話に、サクラは口を尖らせている。
「あんた、カカシ先生のこと何だと思ってるのよ」
「公衆の面前で18禁小説を読む、常識無しの破廉恥教師」
「・・・・・」
事実なので、サクラも全く反論できない。

「で、どうなの、私の推理は当たってた?」
面白そうに笑ういのに、サクラは歯切れ悪く答える。
「・・・大体」
「え!?本当に」
冗談で話したつもりだっただけに、いのは驚きに目を見開いた。
「婚姻届はまだ出してないわよ。先生が嘘ついてたの」

いのの語ったことはほぼ真実だ。
すっかり騙されたサクラは、なし崩し的にカカシと付き合い始めて今に至っている。
結果が良ければ、全て良しというところだ。

「いのってば、名探偵の素質あるんじゃないの」
「・・・あはは」
真剣な眼差しのサクラに、いのは乾いた笑いで応える。
「あんたが任務で桔梗屋に行ったのを知ってたから、そこから考えたんだけどね」
「ふーん・・・」
サクラは感心したように呟く。

 

実は、いのの推理は当てずっぽうなものではなかった。
以前、いのはカカシと桔梗屋のどら息子が飲み屋で意気投合し、何やら怪しげな密談をしていた場面を目撃したことがある。
意外な組み合わせなだけに、そのときの光景はいのの記憶に残ることになった。
何となしに全てを察してしまったいのは、気まずい気持ちでサクラの顔を見詰めていた。


あとがき??
椎名桔平、格好良いですよねぇ。いえ、私、タイトルのドラマ観たことないんですが。
カカシ先生、知能犯。


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