猫が行方不明


その猫はいつのまにかうちに住み着いていた。

目立つピンクの髪に、深い湖面のような緑の瞳。
コケティッシュな雌猫。
愛らしく微笑む彼女に、俺はベタ惚れだ。

 

「ごはん」

キッチンのテーブルにつき、彼女は早くも食事の催促をする。
そのくせ好き嫌いが多いから、こちらも気を使う。
彼女が料理を美味しいと思っているのか、そうでないのかは見ていれば分かる。
本音がすぐに顔に出てくる子だから。
彼女がにこにこと笑って食べてくれると、またこの顔が見たいなぁと思って新たなメニューを模索したりする。

それなりに幸せな毎日。

 

 

彼女は腹が減ると家に戻り、気が向くと外に出て何日も戻ってこない。

とくに捜したりはしないけれど、姿を見ないと思い始めて3日後。
彼女が新しい飼い主と歩いているところを見た。
彼女の好みそうな秀麗な顔立ちをした、若い男。

すれ違う瞬間に、彼女はちらりとこちらを見て笑ったような気がした。
気のせいだったのかもしれない。
とにかく、今日からは彼女がいつ帰ってきてもいいように飯を用意するのは止めることにする。

 

 

それから半年ほど経って、家に帰ると玄関に女物の靴があった。

「ごはん」

いなかった期間が一週間くらいだったのかと思われるほど同じ姿の彼女。
俺は言われるままに飯を作った。
あり合わせの材料で作ったにしては良くできた代物で、彼女も美味しそうに食べてくれた。

彼女が戻ってくる予感は何となくしていた。
彼女の飼い主は死んだと、風の噂で聞いていたから。
忍びという職業柄、隣人がある日突然消えてしまうのはよくあることで、驚くことでもない。

それでも、彼女は飼い主に必ず忍びを選ぶ。
才知で財を成す商人でも、大地と共に生きる農人でもなく。
儚い命を持つ、忍人を。

そしてより良い飼い主を探すように、彼女は宿を転々とする。

 

 

せわしなく食事をする彼女に、俺はある品物を差し出した。
「首輪の代わり」
箸を片手に首を傾げる彼女に、薄く微笑む。
「迷子にならないようにね」

キラキラと輝くダイヤが付いていたからなのか。
それとも別の思惑があるのか。
彼女は嬉しそうにエンゲージリングを指にはめて見せた。

 

果たして、これで彼女の放浪癖が治るのかどうか。
気ままな猫の気持ちは分からない。
分かるのは、自分が彼女を愛しているのと、彼女にずっと側にいて欲しいと願っていることだけだ。


あとがき??
このタイトルで話が書きたかっただけ。
猫は飼ったことがないのでどんなだか知りません。

こういう話はつるつると書けてしまうので楽です。短いし。
登場する猫はかなり我が侭ですが、男の人はこういう方が好きらしい。
タイトルからして、ご主人様のこれからの苦労を暗示しています。
まぁ、そんな彼女が好きなんだから、しょうがない。

なにげにお気に入りの作品『ピンク・フラミンゴ』に似た感じ。


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