嘘のない話


「ごめんごめんー。今日は大きな荷物背負ったおばあさんがいたから、家まで送ってきたんだ」
「・・・・・」
のろのろとした足取りでやってきたカカシに、下忍達は揃って冷ややかな視線を向けた。
カカシの今日の遅刻はきっかり4時間。
一度や二度ならまだしも、カカシの遅刻は毎日続くのだ。
下忍達もすでにカカシの言い訳を聞きながらうんざりとしている。

「先生、もう嘘はいいから本当のこと教えてよ!毎回毎回遅れるのは、何か理由があるんじゃないの」
サクラの詰問に、カカシは心外だとばかりに口を尖らせる。
「ひどい侮辱だ。先生は生まれてから一度も嘘なんてついたことないぞ」
「それが嘘だっていうのよ!!!この大嘘つきー!」
サクラは声を荒げてカカシの体をぽかぽかと叩いた。

どうやら出掛けに髪のハネをなおす時間がなかったらしく、彼女は朝から不機嫌だ。
ナルトとサスケは飛び火を恐れて遠巻きに二人を傍観している。

 

「えーと、今日は午後から雨が降るから早くに仕事切り上げて帰るぞ」

カカシは何とかサクラをやり過ごそうと目的地へ向かって歩き始める。
見上げると、晴天の空。
「また嘘!!」
カカシに追随しながら、サクラは乱暴にカカシの言葉を否定する。
「サクラの今日の弁当には卵焼きが入ってる」
「嘘!」
「サク・・・」
「全部嘘!!」
ついにはカカシが何も言わないうちに、サクラは大きな声を出した。

歩みを止めると、カカシはうんざりとした様子でサクラを振り返る。
「・・・・あのな、そうやってずっとふくれてると、ブスになっちゃうぞ」
「嘘!」
サクラはけんもほろろで取り付く島もない。
暫し沈黙したカカシは少し屈んでサクラと目線を合わす。

「サクラが好き」
「嘘!」
「どうしてそう思う?」
この時ばかり、カカシは間をおかずに聞き返した。
その顔が珍しく真顔で、サクラは思わず言い淀む。

 

「先生―。それで今日はどこに行くの」
二人の数メートル後を歩いていたナルトが、カカシに向かって呼びかけた。
「木ノ葉公園だよ。ガーデニングの手伝いだ」
ナルトの言葉にくるりと振り返り、カカシはサクラから離れる。

サクラは何故かホッとした気持ちでカカシの後ろ姿を見詰めていた。

 

 

「美味しそうな卵焼きだね」
サクラの弁当を覗き込んだナルトが羨ましそうに言う。
「・・・・あんたにあげるわよ」
サクラは自分の食べかけでない方の卵焼きを箸でつまむ。
寂しく菓子パンを啄んでいたナルトは嬉しそうにそれを口に入れた。

サクラはひどく奇妙な気持ちで自分の弁当箱を眺める。
これで当てずっぽうだと思っていたカカシの言葉が一つ的中したことになる。
サクラが顔をあげると、公演のベンチで弁当を食べる下忍三人に対し、カカシはいつの間に食事をすませたのか木陰で昼寝をしている。
何となくその方角を見ていると、木の幹にもたれていたカカシが急に下忍のいる方へと顔を向けた。
カカシは天を指差して何か合図をしている。

次の瞬間、ぽつりとサクラの肩をぬらした雫。

「・・・・雨だ」
ナルトの口から呟きがもれた。

 

 

数日後、7班のいつもの集合場所に一人の老婆がやってきた。
しきりに頭をさげ、カカシに礼を言う老婆に、下忍達は不思議そうな顔をしている。

「あの人、誰だったの?」
彼女が去ったあと、ナルトはすぐにカカシに駆け寄る。
「この前話した重い荷物を持っていたおばあさん。名前言わなかったのに、俺が毎日この場所に来ることを調べたらしい」
風呂敷に包まれた重箱をカカシはナルトに手渡す。
「お礼に手作りのおはぎだって。昼にみんなで食べようか」

 

重箱を両手に浮かれるナルトと対照的に、サクラは思案顔で俯いている。
いつの間にかサクラの傍らにいたカカシは、サクラの頭を撫でながら言った。

「本当だよ」

顔を赤くしたサクラを、カカシは面白そうに見詰めていた。


あとがき??
なんだか、まったりとした話。ついでのように告白しちゃう先生がいい感じ(?)です。
カカシの予言。
卵焼きは前日にサクラママがスーパーで卵を購入しているところを目撃したからですけど、雨は、どうして分かったんでしょうかねぇ。写輪眼?
カカシ先生、さりげなく荷物になる重箱をナルトに持たせているあたり・・・。

全く関係ないけど、この話のカカシ先生、私とシンクロ率120%です。「生まれてから一度も〜」の台詞は私の口癖。
信じてくれた人は今まで二人だけ。(純真だなぁ)


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