おねがい天国


任務の帰り道、7班は偶然にガイの率いる班と遭遇した。
何かとカカシと張り合うガイは、当然のようにカカシにちょっかいを出してくる。
熱いガイの主張を、カカシが涼しい顔でやり過ごしているのが、どことなく笑いを誘うコンビだ。

「カカシ先生とガイ先生って、仲良いよね」
ガイの班が去ったあとに、サクラはカカシの傍らを歩きながら言う。
「そうかぁ」
嫌そうな顔で語尾を上げるカカシに、サクラはくすりと笑った。
「ただの腐れ縁だと思うぞ」
「でも、昔のカカシ先生を知ってるなんて、羨ましいよ」
「写真なら、サクラにも見せただろ」
以前下忍時代のアルバムを見せたことを思い出し、カカシは怪訝な顔で振り返りる。

よく見ると、サクラの表情は愁いを帯びた寂しげなもの。
顔を上げたサクラは、口元に微かな笑みを浮かべて呟いた。
「・・・そういうことじゃないのよ」

 

 

カカシがその部屋にやってくると、時間がまだ早いのか下忍担当の教師はアスマしかいなかった。

「女の子って難しいなぁ・・・」
ため息と同時に呟かれた声に、後ろの席にいたアスマが振り返る。
「何の話だ」
「サクラだよ。毎日ちょっとずつ違う顔を見せる。ナルトやサスケと違って、段々何考えてるか分からなくなってきた」
「女は男よりも成長が早いもんだろう」
「うーん。そうなんだろうけどね、何だか、何だかなぁ・・・」
カカシは必要なファイルを棚から出しながら、一人ぶつぶつと言っている。

「結局、何が言いたいんだ、お前は」
「嫌な感じがするんだ」
カカシはファイルの中の書類から目を離さずに答える。
「サクラが俺の知らない顔で理解できないことを言うたびに、どうしたらいいのか分からなくて、落ち着かない気持ちになる」
漠然とした不安。
カカシはそれを上手く言葉にすることが出来ない。

その会話を最後に、二人はどちらからともなく沈黙した。
かりかりと書類に筆を走らせる音と、時折紙をめくる音だけが室内に響く。

 

報告書を書き終え、カカシが壁際を見ると時計の針は夕方の5時をさしていた。
この部屋に来てから、1時間ほど時間が経過しただろうか。
カカシは書類を片手に椅子から立ち上がる。

「お前、ロリコンだからサクラが大きくなるのが嫌なんだろう」

アスマの手元で書類をとじ合わせるホチキスがパチリと音を立てた。
「あ、出て行くならエアコン切ってくれ。少し寒い」
アスマはその方角に向かって顎をしゃくる。
調節するスイッチは部屋の出入り口のすぐ近くにあった。
「ああ」
報告書を手に、カカシは振り返ることなく扉の前まで歩く。
他の教師が帰ってくる気配はなく、控え室は変わらず静かなままだ。
カカシが『切』ボタンを押すと、ピピッと機械の停止する音が小さく鳴る。

「・・・真顔で言うなよ。怖いから」

言い終わるかどうかという瞬間に、カカシはぴしゃりと扉を閉めた。

 

 

「カカシ先生」
報告書を提出し建物から出てきたカカシに、サクラが駆け寄る。
「サクラ?」
何で居るのか、といった声音に、サクラは不満げな顔になった。
「先生、この間私にアイスおごってくれるって言ったじゃない」
「・・・そうだったか?」
「そうよ」
首を傾げるカカシに、サクラは断言する。
どうも覚えがなかったカカシだが、こうきっぱりと言われたのでは否定できない。
「じゃあ、行こうか」
カカシが手を差し出すと、サクラはにっこりと笑ってその手を掴んできた。

 

鼻歌混じりに歩くサクラを横目に思う。
つい自然に手を繋いでしまったけれど、こうした気安い空気もサクラが中忍試験に受かってしまえば、いずれ消えてしまうものだ。
班は解散し、元下忍達はそれぞれの才能に見合った部署に所属することになる。
そう思った瞬間に、カカシはここ最近のもやもやした感情の理由を知った。

サクラが大人になることが嫌だったのではない。
サクラが変わっていくことで自分から離れていってしまうことが。
こうして一緒に過ごす時間がなくなってしまうのが、ひどく憂鬱だった。

生徒の成長を恨めしく思うなど、これでは教師失格だ。
心なし肩を落としたカカシに、サクラは全く気付かない。

 

「ねぇ、先生」
「え、な、何だ」
唐突に呼びかけられ、カカシはややうわずった声を出す。
「これから先、先生と一緒に仕事をすることがなくなっても、たまにはこうしてどこかに食べに行ったりしようね」
カカシを見上げ、サクラは柔らかな笑顔を浮かべる。
「ね」

サクラの笑顔を見詰め、カカシは暫し無言になる。
心を見透かされたようだと、思った。

「そうだなぁ・・・」
本当は泣きたいほど嬉しい言葉だったけれど、カカシは鉄の自制心で押さえ込む。
「サクラのおごりならいいぞ」
「何、それ!」
とたんにサクラは頬を膨らませながら不平を並べる。

それでも、サクラは目的地に着くまで繋いた手を離すことはなかった。


あとがき??
カカシ先生ロリコン疑惑を晴らすらそうとしたら、よけいに裏付けてしまった気が・・・。あれ。
ああ、アイスの約束はサクラの出任せです。
カカシ先生と行きたいなーと思ったので、嘘をつきました。(カカシ先生がサクラとの約束を忘れるわけないし)
でも、可愛いから許す!!(←この世の真理)

たんに、アスマ先生の台詞が書きたかっただけです。元ネタは魔狼王か?(アスマ先生が水城で(笑))
タイトルは超適当。大江千里の曲のタイトル。


駄文に戻る