愛は勝つ 1


「だいぶ参ってるみたいだね〜。大丈夫」
「・・・・言うな」
どこか楽しげな口調のナルトに、カカシはげんなりとした顔で答える。
「まぁ、しょうがないよね。木ノ葉小町のサクラちゃんと結婚するんだからやっかまれても」
笑顔で言うと、ナルトはストローでジュースを吸い上げる。
空になったグラスにズズッと音が立ったが、にぎやかな午後の茶店にその音を咎める者はいない。

「昨日は何人くらいに襲撃されたのさ」
「・・・・数えてない」
カカシは注文したコーヒーに手を付けずに暗い声を出す。
サクラとの結婚が公になって以来、正体不明の暗殺者に狙われること数十回。
夜討ち朝駆け当たり前で、カカシは寝る暇もない。
式も近づき、刺客の攻撃もいよいよ苛烈になっている。
全て返り討ちにしているとはいえ、はたしてどこまで体力が持つのか定かではない。

 

「そういえば、お前は来ないな」
カカシはふと疑問に思った。
ナルトはアカデミーの頃からの自他共に認めるサクラファンだ。
その彼が何も言ってこないのはどうにも不気味だ。

「だって、“人妻”って何か良い響きじゃん」
ナルトはけろりとした顔で言う。
「カカシ先生は本妻ということで、俺はサクラちゃんの第二夫人の座を狙うことにしたんだ」
「・・・・お前、変わったな」
「そうー?」
無邪気に笑うナルトには全く悪意はなかった。

「それで、用件は何なんだ」
「あー、そうそう。カカシ先生、これ」
ナルトは鞄から取り出した封筒を差し出す。
「・・・これ」
中の手紙に目を通し、カカシはそのまま絶句した。
「案内状。先生もこう毎日ちょっかい出されたんじゃ困っちゃうでしょ。サクラちゃんも変に思うだろうし。俺が話をつけておいたから、先生がここに来てくれればみんな納得して引き下がってくれると思うよ」

ナルトにこう言われては、連日の襲撃に疲れ切っていたカカシに否と言えるはずなかった。

 

 

 

『集え!第一回サクラ争奪戦!!』

 

「・・・・この第一回ってのは」
アドバルーン付きの垂れ幕を横目に、カカシは傍らのナルトに訊ねる。
「当然、先生達が離婚したら第二回を開催するの」
幹事のナルトは舞台のセッティングを皆に指示しながら返事をした。
忙しいせいなのか、おざなりな反応しかしないナルトにカカシは段々と怒りがこみ上げてくる。
「じゃあ、このギャラリーの数は何なんだ!!どっから出てきた!」

ここ最近目立った行事がなかったせいか、『サクラ争奪戦』会場には木ノ葉隠れの里のやや半分の人口が集まっていた。
観客席は立ち見が出るほどだ。
ちらほらとジュースやアイスを売って商売をしている者も見える。
「本当にね。入場券は即日完売だってさ。こんなことならもっと座席数確保しておくんだったよ」
ナルトはチッと悔しげに舌打ちする。
そこには火影を目指し、向上心にあふれたいつものナルトはいない。
すっかり商売人の顔になってしまったナルトに、カカシは呆れてしまって二の句が継げなかった。

 

「えー、それではただ今から第一回サクラちゃん争奪戦を始めたいと思います。エリート上忍カカシ先生に挑戦する無謀な出場者の方はお集まり下さいー」

マイクの調子がいまいちらしく、柱に取り付けたスピーカーからはガガッと雑音が混じったナルトの声が漏れ出す。
特設舞台に集中したギャラリーの視線に恥ずかしさを感じながら、カカシは会場を見回した。
予選で人数がかなりしぼられたとはいえ、10人近くの精鋭が揃っている。
その中で・・・。

「・・・何で君がいるの」
不遠慮に指を差すカカシを、いのはぎろりと睨み付ける。
「あー、この大会の発案者は彼女なんだよ」
ナルトは何でもないことのように言う。
「でも、女の子じゃないか」
「そんなこと、関係ないわ!サクラを一番幸せに出来るのは、私よ!!」
いのは握り拳を作りながら熱く主張する。
「と、いうことです」
呆気にとられるカカシを横目に、ナルトは早々に次の行動に移る。

 

「大会の優勝者には豪華景品が用意されていますー。では、どうぞーー」
「はーい」
ナルトの呼びかけに応えて登場したのは、純白のウェディングドレスを着たサクラだ。
ギャラリーの歓声にサクラは嬉しそうに手を振りながら応えている。
その姿を見た瞬間に、カカシは思わずこけそうになってしまった。

ずかずかとサクラに歩み寄り、カカシは険しい顔で彼女の肩を掴む。
「君、俺の婚約者だっていう自覚ある?」
「えー、だって楽しそうでいいじゃない。私、こんなにもてもてだったなんて、知らなかったわ」
にこにこと微笑むサクラに、カカシはがっくりと肩を落とした。
それまでサクラ宛の恋文は全てカカシが握りつぶしていたのだから、サクラがこの光景に浮かれるのも無理はないかもしれない。

「・・・まさか、他の奴が優勝したら本当にそっちに乗り換えるつもりじゃないよな」
いささか不安になったカカシは急に神妙な顔つきになる。
サクラは何も言わずに意味深な笑みを浮かべるだけだ。

 

「ブレイク、ブレイクー。カカシ先生、景品に勝手に触らないように」
マイクを片手にナルトはすかさずイエローカードを取り出して警告する。
カカシが睨んでも、ナルトは平然とした顔だ。
雰囲気に呑まれ、それまで心にゆとりのあったカカシも、段々と焦りの気持ちが見え隠れし始める。

サクラのことを信じている。
が、里の人間がこれほど大量に集まった以上、勝負に負ければ後々まで後を引くことは確実だ。
ここにきて、カカシはようやく本腰を入れて勝負に挑む覚悟をした。


あとがき??
ナルトは私の分身です。(笑)相変わらずラブリ〜v
何でこんなにナルトがいとおしいのか常々不思議に思っていたのだけれど、私はただナルトが好きなのではなく、サクラちゃんのことを好きなナルトが好きなのだと最近気付きました。
ナルト=サクラちゃんが好きv、と常にイコールになっている。それでいとおしい。動かしやすいキャラだしv
・・・・この話、陰の主役はナルトです。(陰になっていないかもしれない)

内容は『ジャングルはいつもハレのちグゥ』です。
クライヴ先生=カカシ先生、ウェダ=サクラ、ベル=いの。
本当にそのまんまなので、合わせて読むと面白い(?)かも。

金田一先生、ごめんなさい。


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