死と乙女
「私が死んだら、どうする」
友人の通夜から帰ってきたサクラの、唐突な質問。
大方、恋人の死を嘆く知人の姿に胸を打たれたのだろう。
全くサクラは感化されやすい性格だ。「火葬する」
「・・・・私はそういうことを訊いてるんじゃないんだけど」
「冗談だよ」
むくれるサクラに俺は表情を崩した。
だけれど、喪服姿のサクラは沈んだ顔で眉一つ動かさない。
答えを待っている風のサクラに、俺もつい真顔になった。「そうだね。暫く喪に服したら巨乳美人の彼女を作るかな」
細身のサクラにとって胸の話題は最大の禁句だ。
案の定、サクラはみるみるうちに顔色を変えた。
「先生の馬鹿!」
烈火のごとく怒ったかと思うと、サクラは次の瞬間には瞳に涙を滲ませた。
もちろん冗談だったのだけれど、謝る気はなかった。
先に仕掛けたのは彼女だ。「サクラが意地悪なこと言うからだよ」
俺はにべも無く言い放つ。
考えたくもない。
サクラがいない世界など。
そんなことを想像させるなんて、サクラはなんて残酷なんだろう。「じゃあ、サクラはなんて答えて欲しかったの。後追い自殺でもして欲しかった?それとも、サクラを想って一生恋人を作らずに生きていくっていう答えが欲しかった?」
「やめて」
首を振るサクラに、苛立ちがつのる。
「サクラが訊いたんだろ!」
思わず声を荒げると、サクラはびくりと肩を震わせた。
サクラの瞳に怯えの色を見出して、彼女から視線をそらす。
「・・・ごめんなさい」
サクラは震える声で謝った。
もちろん、そんなことで俺の気持ちは全く晴れなかった。
悪い方へ、悪い方へと沈みこむ思考は止まらない。
普段、あえて考えないようにしていることを、サクラの方から切り出されるとは思わなかった。任務に向かうサクラを見送るたびに、これが最後かもしれないと思う。
そのときの感情は、サクラには絶対に理解できないだろう。「ごめんなさい」
サクラは繰り返し俺に謝罪する。
頬に触れる手に顔を上げると、自分を見詰めるサクラと目が合った。
悲しみを湛えた、深い緑の瞳。
サクラにそんな顔させるなんて、不本意だ。
発端はサクラだったけれど、自分の言葉でサクラを傷つけたことに、いたたまれない気持ちで一杯になる。見つめ合ったまま声を出せずにいると、ふいに、サクラは表情を和らげた。
「いち、にの、さん、で一緒に逝きましょう」
「え?」
思わず聞き返した俺に、サクラはにっこりと微笑む。
「もちろんまだまだ死ぬつもりなんてないけどね。お互いおじーさんとおばーさんになってから。約束よ」
悪戯な笑みを浮かべてサクラは言った。
多分、馬鹿だな、とたしなめるのが本当。
忍びという仕事をしている以上、どこまでも付きまとう死の陰。
それをぬぐい去ることなど、絶対に出来ないことだ。
でも、本気で言っているのだと分かるサクラの提案が嬉しかったから。
そのまま黙ってサクラを抱きしめた。「ずっと一緒にいようね」
腕の中のサクラの呟きは、共通の願い。
あとがき??
元ネタは加藤四季先生の『お嬢様と私』。
カカシ先生とサクラの冒頭の会話はそのまんま、皇帝と皇后の会話。(笑)
ギャグ話のはずなんですけど、なぜこんなにシリアスに・・・・。
史実だと、皇后は毒殺されてしまうのよね。