過去が未来に復讐する 2


不安な気持ちを抱えたまま眠りについたせいか、その夜のカカシの夢にサクラが現れた。

 

「カカシ先生」

どこか、遠くでサクラの声が聞こえる。
その声のする方角へ。
サクラの傍に行きたいと思うのだが、身体が思うように動かない。
薄ぼんやりとした視界は一切の感覚を遮断している。

「先生」

向こうが接近したのか、こちらがもがいた甲斐があったのか。
ようやく確認できたサクラの顔は、今にも泣き出しそうなもの。
サクラは必死な様子でカカシに呼びかけている。

「ここにいるよ」

 

誰が?

 

そう思うのと同時に、カカシはサクラの隣にいる人影に気付いた。
いや、それは最初からいた。
目が見ることを拒絶していただけで。
サクラの隣で微笑んでカカシを見詰めているのは。

カカシがその手で殺めた。
嘗て親友だった男。

 

 

カカシは自らの叫び声で眠りから覚醒した。
時計を確かめると、時刻はまだ深夜の3時。
呼吸は荒く、寝汗で服はベタリと身体にはりついていた。
果たして今のはただの夢なのか。
それとも、何かを警告しているのか。
いくらベッドの上で考えても答えは出ない。
ただ、サクラが自分を呼んでいた姿が妙に生々しく思い出される。

カカシは湿った服を脱ぎ、新たな服に着替えると足早に玄関へと向かった。

 

 

「やっぱりお前か」
部屋に入るなり、カカシは臆することなくその人物と対峙する。
その強い眼光に、彼はこぼれるような笑みを返した。
「今度は僕から目を逸らさないんだね」

サクラの部屋の窓は鍵がかかっていたが、上忍のカカシに開けることは造作もない。
夢の通り、彼はサクラの枕辺に寄り添うように座っていた。
女のように柔和な顔立ちは、死んだ当時のまま。
少しの変化もないことが、彼の時が止まっていることをカカシに実感させる。

無言のまま相対する中、カカシは視線を彼からサクラへと移した。
月明かりが頼りの室内で、サクラはぴくりとも動かない。

「生きてるよ」
カカシの心情を察したのか、彼は静かに告げる。
「君ってば最初にこの部屋に見舞いに来たときから分かっていたのに、絶対に僕と目を合わせようとしないんだから。相当強情だよね。夢の中にまで登場してアピールしたのに、来てくれなかったらどうしようかと思ったよ」
「何故サクラに憑いているんだ」
カカシは彼の言葉を無視して問いただす。
彼は肩をすくめてカカシを見遣った。

「波長が合ったんだよ。ごくたまにいるみたいだね。そういう人の傍にいると霊力が強まって、僕のことが見える人物が増えるんだ。今の君みたいに」
一度言葉を切ると、彼は視線をサクラへと下ろす。
「まぁ、彼女と波長が合ったのは、僕達に共通する気持ちがあったからかもしれないけど・・・」
意味深に呟かれた言葉の真意が読めず、カカシは眉を寄せた。

 

「サクラをどうするつもりだ」
「どうって」
彼はカカシの神経を逆撫でするように笑う。
「彼女、可愛いよね。このまま連れて行こうかなって言ったらどうする」
彼はサクラの寝顔にキスをした。
もちろん霊なので実体はない。
そういう仕草をしただけだ。
それでもカカシには十分だった。

「そんなことをしてみろ。お前を殺す」
「だって、僕は死んでるんだよ」
「関係ない。何度だって殺してやる。サクラに、俺の大事な生徒に手を出す奴は絶対許さない!」
カカシの顔は真剣そのものだ。
強い気迫のこもった声が、彼の意志をそのまま表していた。

暫しの間、彼らは互いの心を探り合うように睨み合う。
どれほどの時間が過ぎたのか、先に表情を崩したのは、彼の方だった。

 

険しい顔のカカシと相反しての、晴れやかな笑み。
生前の彼が自分に向けたものと全く同じ、一片の邪気もないその笑顔にカカシははっと息を呑む。

「ごめんな」

穏やかな口調で言うと、彼は忽然と姿を消した。
カカシに何事も訊ねる隙を与えず。

 

 

訳が分からない。

彼は復讐をしに来たのではなかったのか。
彼の命を奪った自分を、ずっと恨んでいたはずだ。
だから怨霊となって、自分の大切な存在を連れて行こうとしていたのではなかったのか。
それなのに、あの謝罪の言葉は・・・。

「カカシ先生」

その時、カカシの思考を中断させるように、サクラの声が聞こえてきた。
「サクラ」
歩み寄ったカカシがその手を取ると、サクラはしっかりとカカシを見詰め返した。
「先生、私、見えたの」
「・・・見えた?」
「そう。あの人が私の身体に憑いたとき、いろんなものが見えたの。あの人の気持ちとか、その時の状況とか」

 

里を追われた彼の罪。

唯一の肉親である妹の病を治すため、彼は木ノ葉の情報を他国へ売って大金を手に入れた。
いつかばれることは承知の上だ。
妹の手術が終わったあとになら、公になっても構わない。
自分の命を引き替えにしてでも、彼は妹を助けたかった。
そして彼の罪に最初に気付いたのは、彼の一番の親友であるカカシだった。

「俺は、上から命ぜられるままに奴の命を奪ったんだ。それを、あいつが恨んでいないはずはない」
サクラは首を横に振る。
「先生、黙ってたじゃない。妹さんの手術が終わるまで。それに、先生が妹さんの面倒を見るって最後に言ったから、あの人は安心して逝けたんだよ」
「じゃあ、何であいつは今までこの世でふらふらしてたんだよ。思い残すことがなかったら、とっくに成仏しているはずだろ!」
「分からない?」
間髪入れずに、サクラは訊ねる。
困惑するカカシの瞳を、サクラは覗き込むようにして見た。
答えは、知っているはずだというように。

 

彼がこの世に未練のあったもの。
妹でないとすると。
カカシには一つの回答しか出すことが出来ない。

「俺、か?」

震える声を出すカカシに、サクラはゆっくりと頷いた。

カカシはずっと、悔いていた。
彼を救うことが出来なかった自分を。
彼が罪を犯す前に、何もすることが出来なかったことを。
彼のことを思わない日はないほどに。
だけれど、まさかそれが原因で彼が成仏出来ていなかったなど思いもしなかった。

「先生のことが、心配だったんだって。妹がひどいことを言って、ごめんって何度も言ってた」
サクラは呆然とするカカシの手を強く握った。
「あの人ね、妹さんと同じくらいカカシ先生のこと大事に思ってたんだよ」


あとがき??
ここで終わってたはずなんだけどなぁ。
次がエピローグ。短め。早く終わらせたい!
というか、どうやって終わるんだろうか・・・。

元の話ではもっとカカサク的メロメロな台詞があったけど、削除!
今の私では耐えられない。


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