過去が未来に復讐する 3


目覚める直前まで、サクラは彼と同じ場所で対話をしていた。

 

「心配だったんだ。カカシが誰にも心を開かず、友人も作らず、一人でいるのは撲のことが原因だから。でも、君達下忍を受け持ってから、あいつはまた以前のように笑うようになってくれた。それが凄く嬉しかったんだ」
彼はサクラに向かってにっこりと微笑む。
「有難う」
「いえ、私は何もしてませんし・・・それよりも」
サクラは浮かない表情で彼を見上げる。
「カカシ先生ともっと話していかなくていいんですか」
「いいんだよ。カカシに会って、謝罪することが僕の願いだったから。君の身体も、僕が消えればすぐに戻るはずだよ」

言葉の通り、思いを遂げた彼の身体は、話す間にも徐々に光に包まれていく。

最後に、彼は思いだしたようにサクラを振り返った。
「カカシのこと、頼むよ。あいつ、意外と泣き虫なんだ」
「え、嘘!!?」
思いがけない言葉に目を丸くするサクラを見て、彼は軽やかな笑い声をたてたような気がした。

 

 

数日後、カカシとサクラは、再び彼の墓所を訪れていた。
不思議なことに、サクラが最初に森に入ったときのような威圧感は、感じない。
煩かった蝉の声もピタリと止んでいる。

その場所には前回同様に、先客がいた。
ほっそりとした身体の、若い女性。
同じ花が桶にいけてあることから、おそらく同一人物だ。
サクラの目に、その女性は先日に会ったカカシの旧友とうり二つの面立ちに見えた。
「・・・先生」
見上げると、カカシは緊張した面持ちで彼女を見詰めている。

 

「兄が、夢に出てきてくれたんです」
女性はカカシの視線を受け止め、静かに告げた。
以前、カカシに激しい怒りをぶつけた彼女とは思えないほど、口調も表情も穏やかなものだ。
「兄に言われました。あなたを責めないで欲しいって」

彼女は顔を伏せると、兄に面影を思い出すように瞳を閉じる。
「あなたが兄の命を奪った事実は忘れません。でも、私はあなたのことを許します」
女性はカカシに一礼をすると、踵を返して歩き出す。
その後ろ姿に、カカシも返礼して彼女を見送った。

「・・・サクラ、有難うな」
「何でそんなこと言うの」
サクラは片眉を上げて訊ねる。
「お前がいなかったら、ずっとあいつの気持ちに気づけなかった。頼りない俺を放っておけずに、あいつも成仏できなかっただろうな」
「私は何もしてないよ」
カカシも彼も、どうして自分に礼を言うのかサクラには分からない。
訝しげなサクラに、カカシは彼女の頭に手を置いて微笑んだだけだった。

 

 

墓を丁寧に洗い清めたころにはすでに日は傾き始めていた。
帰りの道々、サクラは無言で歩くカカシの手を掴まえて握りしめる。
「何?」
「泣いちゃうと嫌だから」
首を傾げるカカシに、サクラはふふっと笑う。
「町に着くまで、こうして帰ろう」
カカシはサクラに逆らうことなく、その手を握り返した。

人の温もりに、どうしてか安心する。
今までは近くに他人の気配があると、気を抜くことが出来ずに疲れる感じがした。
そうした感情が、すっかり消え去っている。
サクラは人が自然に気を許してしまう、何かを持っているのかもしれないとカカシは思う。
そうした人柄だからこそ、彼もサクラを頼ったのだろうと。

 

見上げると、木々の葉は僅かに色づき始めている。
風がいつの間にか秋の気配を感じさせるものに変わっていたことを、カカシは肌で感じていた。


あとがき??
タイトルは『ケイゾク』から。印象的だった。
2001年の2月に書いて途中で止まっていた話・・・・。(今、2002年8月)
これを見ると、当時の私がどんな漫画を読んで影響を受けていたのかがもろ分かりでなかなか楽しかったです。
三分の二を書いて筆が止まっていた。
残りも大部分は書き直し。骨組みは同じだけど。
先日墓参りに行った際にこの作品のことを思い出しまして、ちょっと完成させてみました。
啓示があったらしい。

たぶん、書きたかったのは「どうして殺したの」の台詞だった。(うろ覚え)
何故こんな長々とした話になったのか。
こういう話は、「書くぞー!!」と勢い込まないと完成できないのでエネルギーを使う。虚構すぎて。
だから止まっていたんだけど。

ちなみにサクラの霊症は実際にあった話。
うちの母が、遠縁の人の墓参り(ちょうど作中に出てくる墓と同じような場所)に行った翌日から歩けなくなってしまったのですよ。
怖かった!
うちの母は底抜けに人が良いので、霊も付いてきやすいのかも・・・。


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