蛙と蛇と蝸牛 Part2


日が沈み気温が急速に低下し始めた頃、サスケはようやく日課である自主鍛練を終了しようとしていた。
汗をタオルで拭くと、鞄から取り出したスポーツドリンクを片手に夜道を歩く。
寒さが身にしみる風がふく中、道行く人は皆、服の襟元を立てるようにして家路を急いでいる。
その中の一人にサスケは目を留めた。
随分前を歩いている、桜色の髪の少女。
サスケは小走りに彼女に近づき、声をかける。

「サクラ」
彼女は振り返ると、サスケを見て嬉しそうに笑った。
「サスケくん。いつもこんな時間まで特訓してるの?頑張ってるね」
「まぁな」
サクラが尊敬の眼差しで見つめてくるのが照れくさいのか、顔を背けたサスケは、はたと気づく。
サクラは自宅とは別方向に向かって歩いていた。
それに大きなリュックサックを背負っている。
「こんな時間にどこに行くんだ」
サスケは眉間にしわを寄せながら言った。
サクラは珍しくいいよどみ、サスケから視線をそらす。
「うーん。誰にも言うなって言われたけど。サスケくんならいいかなぁ・・・」
その後、二人の会話に妙な間が開いてしまった。

サスケはサクラの様子に疑問符を浮かべながらも、手にした飲料容器の中身が残りわずかなことに気づく。
なにやら思案中のサクラを横目で見ながら、サスケは容器の中身をいっきに口に含んだ。

「実はカカシ先生の家に泊まりに行くの」

ブハッ。
ようやく口を開いたかと思うと、サクラのその第一声に、サスケは口の中のものを全て噴きだした。
しかも飲料が器官に入ったのか、激しく咳き込んでいる。
「だ、大丈夫?」
サスケの失態に驚きで目を見張ったサクラは、心配そうにサスケの背中をさする。

「お、お、親は知っているのか」
サスケはまだ苦しい息をしながらも、サクラに訊ねる。
言葉がどもってしまっているのは、咳の影響だけではない。
「うん。前もイルカ先生のところ泊まりに行ったことあったしね。あの時はいのやヒナタが一緒だったけど」
サスケは思わず額に手をあてた。
イルカとカカシでは同じ教師でも全然違う。
サクラの両親がそのようなことを知るはずもないが。

「カカシが泊まりに来いって言ったのか」
「そうよ。楽しいこと教えてくれるって。なんだろうね」
「・・・・・・楽しい事・・・」
サクラは無邪気に笑っているが、サスケの頭の中で危険信号がチカチカと点灯している。
「やめた方がいいんじゃないか」
「どうして?それに、泊まりに行くって言ったのに帰ったらお父さんとお母さんに変に思われちゃうよ」
サクラはサスケの言葉の意図に気づかず、きょとんとした顔をしている。
はっきり「お前の身が心配だから行くな」と言うのは、強情っぱりのサスケには無理だ。
サスケは俯いて考え込む。

「サスケくん、私そろそろ行かないと。先生待ってるし」
サクラの言葉に反応し、サスケは唐突に彼女の肩を両手で掴んだ。
「ここで待ってろ。すぐ戻ってくるから。いいな。絶対に待ってろよ」
「え!?」
真顔で言ったかと思うと、サクラの返事も聞かずにサスケは駆け出した。
「そこを動くなよーーぉぉーーー」
という言葉を残して、サスケの姿はあっという間にサクラの視界から消える。
ガイ先生もびっくり、というようなスピードだ。
「・・・なんだったんだろう」
意味が分からず呆然としながらも、サクラはサスケの指示に従ってその場に暫し留まっていた。

 

サクラが玄関のチャイムを鳴らすのと同時に、カカシが満面の笑みで彼女を出迎えた。
「いらっしゃい。どうぞ、あがって」
「こんばんは。お邪魔しま〜す」
サクラは早速下履きを脱いであがろうとしたが、あることに気づいて室内に戻ろうと背を向けたカカシを呼び止める。
「先生。もう一人いるんだけど」
「もう一人?」
サクラの言葉の後に、サスケがドアの影から姿をあらわした。
振り返ったカカシは露骨に嫌そうな顔をしてサスケを見ている。

「途中で会ったの。先生のところに泊まりに行くって言ったら、サスケくんも来たいって言うから。駄目だった?」
サクラはカカシの顔色を窺うように小声で言った。
「いや。全然かまわないよ」
カカシはサクラの表情を見て笑って言った。
サクラもカカシにつられて笑顔で「良かった」と言うと、カカシの用意したスリッパを履いて室内に入っていった。

だが、サクラの姿がなくなると、玄関先での雰囲気は一変する。

「どーいった風の吹き回しなのかな、サスケくん。サクラには興味ないんじゃなかったの」
「班内の不純異性交遊など、俺の目が黒いうちは絶対に許さん」
カカシとサスケの視線が火花を散らす中、サクラが部屋の中から顔を出して呼びかける。
「二人とも、そんなところでなにしてるのよ。ケーキ持ってきたから早く食べよ!」

 

(カカシ)アホか。お前はいつから風紀委員になったんだ。
(サスケ)この変態エロオヤジが!!生徒に手を出すなんて言語道断!
(サクラ)ケーキ3つ持ってきて良かったぁ。本当は私2個、先生1個の割合だったんだけどね〜。

 

サクラを仲介して、三人の会話は滞りなく進んだ。
一見ほのぼのした雰囲気をつくりながらも、カカシとサスケの表情は和やかとは程遠いものがあった。
牽制しあう二人の様子に、サクラは全く気づかない。

すでに時刻は12時をすぎ、サクラは欠伸をかみ殺しながら言った。
「先生―。私もう眠くなっちゃった」
サクラはしきりに目元をこすっている。
「じゃ、もう寝るか。ところで、うちには客用布団が一組しかないんだけど、どうする?」
カカシはニヤニヤ笑いでサクラを見つめる。

「じゃあ、サスケくん、私と一緒に寝ようか」
「却下」
サクラの爆弾発言にカカシは即座に否の返事をする。
「やーねー。冗談よ冗談」
けらけらと笑うサクラに、カカシはそうは見えなかったぞ、と苦虫をつぶしたような顔をしている。
対してサスケは珍しく頬を赤くしていた。
それがまたカカシは面白くない。

「サクラ、俺と一緒に寝るか」
「却下だ」
カカシの言葉に今度はサスケが即答する。
だが、それと同時にサクラから発せられた返答は全く別のものだった。
「いいよ」

サクラの言葉に部屋の時間が止まった。

「・・・サクラ、今なんて言った」
カカシが恐る恐る声を出す。
「いいよ、って言ったのよ。先生、一緒に寝よー」
サクラの言葉がカカシとサスケの明暗をはっきりと分けた。
浮かれるカカシと、お通夜に行く途中のような顔のサスケ。

 

(カカシ)サクラってば、大胆〜〜。そうか、サクラも俺と同じ気持ちだったんだな!!
(サスケ)・・・・邪魔してやる。
(サクラ)ふふふ。カカシ先生が寝静まったところで覆面とって素顔を見るのよ。

 

「で、どうしてお前はこの部屋に布団しくかなぁ」
客間からカカシの寝室にせっせと布団を運ぶサスケに、カカシは不満顔だ。
「楽しくていいじゃない。ナルトも呼べば良かったね」
最初のうちははしゃいでいたサクラも、ベッドに入ると30分もしないうちに熟睡していしまった。
カカシはサクラの寝顔を身近で見られるという役得があったものの、サスケの無言の重圧にサクラに手が出せなかったことは言うまでも無い。
サクラ一人ならいくらでも言いくるめる事ができたのに、とカカシは舌打ちする。
結局二人は一睡もしないうちに夜が明けてしまった。

 

カカシの家で朝食をごちそうになったサクラとサスケは、並んで帰り道を歩く。

「そういえば、先生の言ってた楽しいことってなんだったのかしら?」
サクラは思い出したかのように呟いた。
睡眠不足のサスケには、朝の日差しがやけにまぶしく感じられる。

「あーあ。先生の素顔が見られると思ったのにな」
「なんだ。お前それが目的であいつと一緒に寝るなんて言ったのか」
残念そうに呟くサクラにサスケは呆れた口調で言う。
「そうよ。そういえば、サスケくんはカカシ先生の素顔みようと思って一緒の部屋で寝てたんじゃなかったの?」
問い返すサクラに、サスケは一瞬言葉をつまらせる。

サスケは咳払いすると渋い顔をしてサクラに言った。
「もうカカシの家に一人で行くなよ」
「え、どうして?」
「どうしてもだ」
サスケはサクラの疑問に答えてくれそうになかったが、サクラがそれを気にした様子はない。
サスケがぶっきらぼうなのはいつものことだ。
サクラは笑顔でサスケに話し掛ける。
「なら今度、サスケくんの家に泊りに行ってもいい?」

 

元くの一クラスの女子の間で“お泊り会”がブームになっていることをサスケが知ったのはずっと後のことだった。


あとがき??
サスケ、なんて答えたんだ。(笑)
私が小学生の時、こういうブームあったんですけど。銭湯ブームとか。
最近銭湯見かけないけどね。
小悪魔サクラちゃん。彼女はこんなに無邪気じゃないっての。(笑)
なんかサスサク色が強いような・・・。(不可抗力)
前回、弁当食べた時にマスクの下見れたんじゃないのか?というつっこみはしないように。(汗)


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