地球の王様 2


「すっかり新婚さんだねぇ・・・」
夕方、買い物帰りのサスケとサクラを見付けたカカシは顔を綻ばせて言った。
食材の入った袋を片手に、サスケは嫌そうな顔つきになる。
「サスケくんの手料理、とっても美味しいのよ。今度先生も食べに・・・」
「よけいなこと言うな!」
にこにこ顔のサクラに、サスケが隣りでがなり立てた。
そんな二人のやり取りを、カカシは微笑ましく見詰めている。

「サクラは料理しないの?」
「私は、全然駄目なの」
「こいつの料理は食べれたものじゃないぞ」
しかめ面で言うサスケを見て、カカシは素朴な疑問を思い付く。
「魔法で料理は出せないの。パパッと」
「ご主人様の願い以外の魔法は使えないんです。それに壺の外にいるときは、普通の人間の体と全く変わらないんですよ」
「へぇ。結構、不便だねぇ」

何気なくサクラの頭を撫でたカカシは、自分のしていたマフラーを彼女の首に巻き付けた。
驚いて顔をあげたサクラに、カカシはにっこりと微笑む。
「あげる」
首もとの開いた服を着ていたサクラには、最適なプレゼントだ。
自分のマフラーすら持っていないサスケには、そこまで気が回らない。

「・・・行くぞ」
サクラの腕を引くと、サスケは不機嫌そうな声で促した。
「あ、有難うございまいした」
振り向きながら言うサクラに、カカシは笑顔で手を振る。

「わっかりやすい奴だなぁ」
幸いなことに、カカシのくすくす笑いはサスケの耳に全く届いていなかった。

 

 

 

「あれ、サクラちゃんは?」

この言葉を聞くのは、これで10回目だ。
不思議そうな顔をしている知り合いに、サスケはそっけなく言う。
「家で留守番してる」
こうして答えるのも、10回目。
サスケが一人で表を歩いていると、必ずサクラの所在を訊かれる。
それだけ二人が年中一緒にいるということだ。

親しい人間を作るつもりはなかった。
必ず、隙ができるから。
忍びとしての技量を磨かねばならない身として好ましくない。
それなのに、この状況はどういったことなのだろう。

その日任務で失敗したこともあり、サスケはいらついた気持ちで家路を歩いていた。

 

 

サスケが玄関の扉を開くと、飛び出してくるはずのサクラが姿を見せない。
サスケは嫌な予感と共に、リビングへと足を進める。
案の定、リビングの光景はサスケの神経を逆撫でするのに十分なものがあった。

「ああ、おかえりなさい」
振り向いたサクラの手元には、一匹の子犬。
「どういうことだ・・・・」
感情を押し殺したその声に、サクラもサスケの機嫌が悪いことをすぐに察する。
「えーとね、散歩に行ったらこの犬が捨てられてて。可哀相でしょ」
「そういうことを訊いてるんじゃない。どうして部屋がこうなったか訊いてるんだ!」

子犬が走り回ったとみられる部屋は、足の踏み場がないほど散らかっていた。
足下には、サスケが日々特訓に使っている大事な巻物。
子犬がかじったらしく、破れかかっているそれを見て、サスケはついにぶち切れた。

「出てけ!!この疫病神!!!」

 

 

 

「可愛い精霊に向かって、あれはないわよねぇ・・・」

公園の片隅のベンチに座るサクラはしょんぼりと肩を落としている。
腕の中の子犬が心配そうにサクラにすりより、サクラは少しだけ口元を綻ばせた。
「このままだと、凍死するかもね」
深夜の公園の気温は、0度以下まで下がっている。
サスケに怒鳴られてすぐに出てきたせいで、サクラは羽織るのものを忘れてしまった。
抱きしめる子犬の持つ温もりだけが、頼りだ。

「サスケくんも、楽しかったと思うんだけどな」
かじかんだ手をこすりながら、サクラはしんみりと呟く。
「一人は・・・・、寂しいし」

サスケと過ごした日々は、サクラにとって今までになく充実したものだった。
壺の精霊は、人の願いを叶えるためだけに存在する。
自分の物など、ごく身の回りのものしか持たなかった彼女に、サスケは名前をくれた。
涙が出るほど嬉しかったことを、彼は知らないだろう。

 

耳に付いた足音に、サクラは期待と共に振り向いたが、それは望んでいた人間ではなかった。

「あれ、サクラ?」
たまたま通りかかったカカシは、目を丸くしてサクラを見詰める。
「何してるの、こんな時間に」
「・・・追い出されたの」
歩み寄ったカカシは、何も言わずにサクラと子犬に目を向ける。
事情は分からないが、このままだとサクラが風邪をひくことは確実だ。
同じ年頃の生徒を受け持っている身として、何となく放っておけない。

「うち来る?汚い部屋だけど、ここよりはマシだと思うよ」
有り難い申し出だったが、サクラは首を横に振る。
「ごめんなさい」
「・・・サスケが迎えに来ると思ってるんだ」

 

サクラは膝に乗る子犬の頭を優しく撫でる。
ダンボールに入れられたこの子犬を思わず拾ってきてしまったのは、その瞳がサスケに似ていたからだ。
人を威嚇し、突っ張っているように見えて、離れようとすると寂しげな眼差しになる。
今では寒さに凍えるサクラを気遣う仕草を見せている子犬を、サクラは大事そうに抱え直した。

「今頃ね、反省してると思うの。強く言いすぎたかなって」
笑いながら言うサクラに、カカシは思わず苦笑をもらす。
「よく分かってるね」

 

 

 

カカシが立ち去ってすぐに、サクラの予想を裏切ることなく、サスケが公園へやってきた。
その首には、サクラの手編みのマフラー。
寒がりのサスケのために、サクラがこっそりと編んでいたものだ。

カカシにもらったマフラーが意外に暖かかったこともあり、サスケの分も、とサクラは思った。
部屋の片づけの途中でサスケはそのマフラーを見付け、怒りはすっかり消え失せてしまった。
あれほどしつこく引っ付いていたサクラが近頃留守番をしていたのは、このせいだったのかと思い当たる。

ふと見回すと、がらんとした部屋は、まるで他人の家に入り込んだような空虚感あった。
いつもなら、サスケがリビングにやってくるとサクラが煩いほど話し掛けてくる。
元通りになっただけなのに、以前は何とも思わなかった静けさが、心に突き刺さるような感じがした。
テーブルにはサクラ用のカップが一つ、ぽつんと置かれている。
持ち主の失ったそれは、ひどく寂しげに見えて。
気が付いたときには、サスケはサクラのコートを手に外へと歩き出していた。

 

 

「・・・マフラー、使ってくれたんだ」
「こんなものするのは、俺くらいだろう」
むくれた顔で言うサスケは、サクラから僅かに視線を逸らしている。
不器用なサクラが作ったものらしく、編み目は所々とんでいて、長さも微妙だ。
確かに、サスケの言う通りかもしれない。

「ねぇ、本当に願いごとはないの?」
ベンチに座ったままのサクラは、眼前に立つサスケに再び問い掛ける。
彼の願いを、心底叶えてあげたいと思った。
壺の精霊だからではなく、一個人として。

「望めば、地球の王様にもなれるのよ」
「そんなものに興味はない」
言い切ったサスケを見詰め、サクラは破顔する。
「贅沢な人」
楽しげに笑うサクラに、サスケは手に持っていたコートを放り投げた。

 

「帰るぞ」

サクラの手から離れた子犬を抱え、サスケは踵を返す。
すぐさま走って追いかけたサクラは、肩で息をしながらも顔は満面の笑みだ。
主人が願いごとを言わないかぎり、精霊は壺の中へは戻れない。
やっかいだと思っていたその決まりごとに対し、サクラは感謝の気持ちで一杯だった。


あとがき??
バナーを作って下さった英さんへのお礼駄文。
お題は「パラレルでサスサク」。
タイトルは、私のサスケのイメージです。天上天下唯我独尊。
どんな話にするか1ヶ月ほど悩んでいたんですが、このタイトルを使おうと思ったらストーリーがすぐに出来ました。
最初はサスサクでイタサクな学園ものだったのですが、長々と書いていたわりにボツに・・・。(^_^;)

タイトルは喜多尚江先生だけれど、内容は萩岩睦美先生の『悪魔という名の天使』がベース。
二ノ宮知子先生の『のだめ カンタービレ』も入っています。
続きが書けそうな終わり方ですね。(笑)
カカシ先生が幅を利かせているのは、私がカカサク好きーだからでしょうか。

英さん、長らくお待たせしてしまって申し訳ございませんでした!!(>×<)


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