ママが泣いた日 1


その知らせは、突然やってきた。

真夜中の2時過ぎ。
家に駆け込んできたその上忍は、パパが任務の途中、行方不明になったということを伝えた。
雪山での遭難。
吹雪がやんでから、捜索を一週間も続けたのに、パパは見つからなかった。

山に入る前、パパが持っていた食料は二日分。
知らせにきた上忍の口振りから、もうパパが死んだものと思っているのは確実だった。

 

玄関でその話を聞いた私は、足の震えが止まらなくて、立っていることができなくなった。
泣くのはまだ早い、泣くとパパの死を認めたことになる。
そう思うのに、涙が溢れてきて、止まらなくなった。
上忍のパパの仕事はいつだって危険が伴う。
私も今年からアカデミーに通って、忍びのことを少しは分かっているつもりだった。
でも、実際こうした現実を突きつけられると、全然忍びとしての覚悟なんて出来ていなかったのだと思い知った。

死など、どこかで遠い世界のこと。
自分には、関係がない。
自分の周りの人達はいつも変わらず存在するのだと、信じていた。

「お姉ちゃん?」
一人、訳が分からないといった顔をした快が、私のことを心配そうに見詰める。
まだ3つの弟。
そのいとけなさが、羨ましかった。

「でも、まだ捜索は続けているのでしょ」
「まぁ、一応は。規模はかなり縮小しましたけれど・・・」
言いにくそうにする上忍に、ママは場違いなほど明るい笑顔で言う。
「大丈夫ですよ。先生は生きてますから」

 

 

 

「ちゃんと食べないと、駄目だよ」
「・・・・うん」

パパの悲報を聞いて一週間。
私は食べ物がろくに喉を通らなくて、アカデミーも休みがちだった。
心配したナルトが、こうして外に連れ出してくれたけど、全然気分は晴れない。
レストランの席で、いつもはよろこんで食べる料理は、見るのも嫌。
ナルトがあんまり勧めるから、ヨーグルトを何とか口に運んだ程度だった。

「サクラちゃんは、どんな感じなの?」
向かいの席に座るナルトは、不安げに訊ねる。
ママの名前に、私の眉間のしわは深まった。
「元気よ、すっごく!馬鹿みたいに」

パパがこんなことになったっていうのに、いつもと変わらず、否、いつも以上に笑顔のママ。
朝昼晩の食事をきっちりと作り、自分ももりもりと食べる。
昼間は快の世話や家の細々とした仕事をして、はつらつとした様子だった。
涙の影など、みじんもない。
私はそんなママの姿に、正直幻滅していた。

 

「こんなときなのに、何で笑っていられるのかしら」
「・・・・それは、心配だな」

ぷりぷりと怒る私とは反対に、ナルトは沈痛な面持ちで呟く。
その深刻な表情に、私は目を見開いた。

「何がよ?ママは元気だって言ったでしょ」
「だから心配なんだよ」
ナルトは私に向き直ると、真顔で言った。

「サクラちゃんはね、普段喜怒哀楽が激しいんだけど、本当に辛いときや苦しいときは逆に笑顔になるんだ。無意識に、周りの人に気を遣わせないようにしているのかもしれない」
「・・・・」
「今は、きっと小桜ちゃんや快がいるから、自分がしっかりしてなきゃ駄目だって気を張っているんだよ。サクラちゃんが暗い顔していたら、君達だってよけいに不安になるだろ」

 

ふいに、ママの、不自然なほど明るい笑顔が思い出される。
パパの知らせに、動揺していないはずがない。
あれだけ仲の良かった二人なのだから。

どうして気付けなかったのだろう。
毎日毎日、気丈に振る舞うママは、本当は泣きたいのを必死に堪えていたのかもしれない。
ママではなく、私の方が大馬鹿だ。

 

「緊張の糸が切れたらどうなるか、怖いよ・・・」

ナルトの困った顔を見て、私は初めてママの不安定な内面を知った気がした。


あとがき??
何か、暗い、ような・・・・。
自分で書いてて泣けてくる。(←馬鹿)
サクラが辛い話は、嫌だ。嫌い、嫌い。


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