Dear


何度も、何度も、駄目だと思った。

目に映る物は全て雪。
見事なまでの銀世界。
っていうか、真っ白。

吹雪が酷くて、30センチ先に何があるかも分からなかった。
容赦なく吹き付ける風で、顔面が痛い。
鼻水はみるみるうちに凍る。
今ならきっとバナナで釘を打てる。

この状況で死期を悟らなくて、いつ悟れというんだ。
まさか靴ひも結び直している間に、こんなに視界がきかなくなるなんて思わなかったんだよ。
身を起こしたときには、仲間はどこにもいなくなっていた。

命綱、切れてるし。

 

もう一歩も歩けないという状況で、倒れた自分の上にも容赦なく雪は降り積もっていく。
こういうとき、昔の記憶が走馬燈のようによぎるっていうのは本当なんだな。

思えば、短い人生だった。
100まで生きて孫や曾孫やその他大勢の親族に囲まれて畳の上で大往生する予定だったのに、とんだ誤算だ。
いや、敵に捕まって拷問の末に死ぬよりは全然マシだけれど。
忍者なら、敵と戦って討ち死にした方が格好いいような気がする。
負ける気なんて、全然ないんだけどさ。
凍死でも、英雄として扱ってもらえるのだろうか。

 

 

どんどん体が冷えきって、思考が纏まらなくなっていく中で、最後に思い出したのはやっぱりサクラのことだった。

可愛いサクラ。
初めて会ったときの、まだ俺の腹のあたりまでしか身長のないサクラは、今でも鮮明に思い出せる。
サクラは俺の初めての生徒の一人で、サクラはサスケを好きで、もちろんお互い何とも思っていなかった。
それが、大事な人になったのは、どういうきっかけだっただろう。
たぶん、突然変わったわけじゃない。
7班で一緒に行動して、それぞれの人となりが分かってきて、ゆっくりと気持ちが変化していったんだと思う。

サクラはどんどん成長して、綺麗になっていくから、いつでも不安だった。
でも、サクラは奇跡的に自分のことを好きになってくれて、結婚してくれて、子供を産んでくれた。
サクラのことを想うだけで、自然と笑みが浮かぶ。
疲れきった体にも、どんどん力が湧いてくる。

 

 

凄い。
サクラは本当に凄い。
俺はもう何回君に助けられたか分からない。

どんなに危険な任務も、サクラがいるから、サクラのところに帰りたいと思うから頑張れた。
今だってそうだ。
何とか身を起こした自分は、動かないと思っていた手足を引きずって、前進を始めている。
顔を横に向けたときに、微かに、明るい光が見えた気がしたから。

あの灯かりは、君に続いている。
それだけを思って、歩き続ける。

もう雪は見飽きた。
大体、自分は寒いのより暑い方が好きなんだ。
こんな雪国の任務を持ってきた奴を恨んでやる。
祟ってやる。
呪ってやる。

 

帰ったら、サクラを連れてあったかいところへ旅行に行くんだ。
南国のビーチとか。
もちろん、小桜や快も一緒に。

早くも自分の眼前には想像上の青い海、白い砂浜が広がる。
心なし、潮風の匂いまでしてきた気がする。

 

でも、寒くても、温泉のある場所になら。

行ってもいいかなぁ・・・・。

 

 

 

「温泉!!?」
「うん」
目を丸くするサクラに、俺はしっかりと頷く。

「炭焼き小屋のじーさんが見つけてくれたとき、俺がそう叫んだんだってさ。「温泉、行きたいーー」って」
雪山でじーさんと筆談した内容をサクラに話すと、彼女は呆れきっているようだった。
「カカシ先生ってば、死にそうになっているときに何をのんきな・・・。普通、「助けてくれー」とか「人がいたー」とかじゃないの?」
「いや、意識朦朧としてたからあんまり覚えてないんだけど。あんなときだから、あったかいお湯につかってゆっくりしたいなぁって思ったんだよ。きっと」
まだ呆然としているサクラに、自分は笑いながら言う。

 

会話の合間に運ばれてきた紅茶をサクラは口に含んだ。
小桜と快をナルトに預けて、久々の夫婦水入らず。
ケーキが美味しいと評判のこの店はカップルが数多くいたが、目に見える範囲、サクラ以上に可愛い娘はいない。
自然と頬が緩んでしまったけれど、サクラは自分の優越感など当然分からず、怪訝な顔で自分を見ている。

「今度、その炭焼きのおじさんのところに御礼にいかなきゃね」
「そうだね」
ケーキを口に運んだ俺は、口をもぐもぐと動かしながら応える。
「サクラも、有難うな」
「え、私?何で」

サクラは不思議そうな顔で首を傾げた。
「何で」どころか、サクラは今回の俺の生還の、一番の功労者、
でも、苦境に立ったとき必ずサクラを思い出すなんて、正直に話すのは何となく気恥ずかしい。
だから、ただ笑っておいた。

「うん。サクラはここにいてくれるだけでいいんだ」


あとがき??
きっつー。お目汚しですみません。
私、各作品ごとにキャラクターの性格を変えているのですが、カカシファミリーシリーズのカカシ先生は、私が書くカカシ先生の中で一番楽天家だということがはっきりしました。


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