papa


「ああ、サクラさんだったら、2階の病室ですよ。旦那さんもいらしてます」

にっこりと微笑んだ看護婦の言葉に、カカシはぽかんと口を開ける。
「は?旦那??」
「ええ。赤ちゃんのお父さんも少し前にお見えになられていますよ」
ねんのため聞き返したが、看護婦は笑顔のまま同じことを繰り返した。

混乱したカカシは病院を間違えたかと思い、わざわざ外まで確認しに行く。
だが、表の看板には自分の妻が入院している病院名がしっかりと書かれていた。

 

 

「しょうがないわよ。カカシ先生、今日初めてここに来たんだからー」

カカシの話を聞くなり、サクラはそう言って笑い飛ばした。
むくれるカカシの隣りですまし顔をしているのはサスケだ。
カカシが任務で里を離れている間、彼がカカシの代わりにほぼ毎日病院に通っていた。
おかげで、看護婦達は今日までサスケのことをサクラの夫だと勘違いしていたらしい。

「どうも、すみません」
「気にしなくていいですよ」
申し訳なさそうに頭を下げる看護婦に、サクラは優しく言う。
今日は出産のために入院していたサクラの退院日だ。
カカシが病室にやってきたときには、サクラはすでに身支度を整え、あとは帰るだけという状態だった。

「あ、来た来た」
嬉しそうに顔を綻ばせるサクラに、カカシは振り返る。
扉を潜る看護婦が腕に抱えているのは、この病院で先日生まれたばかりの赤ん坊。
サクラは手を伸ばし、危なげのない手つきでその赤ん坊を受け取った。

「ほら、先生。可愛いでしょ」
サクラがカカシに笑顔を向けると、腕の中の赤ん坊も釣られて微笑む。
サクラと、サクラそっくりの娘の愛らしい笑みに、任務帰りのカカシの疲れは一気に吹き飛んだ。
「うん、可愛い、可愛い。サクラ、有難うな!」
カカシは赤ん坊ごとサクラを大事そうに抱きしめる。
我が世の春といった様子のカカシは、ここが病院ということも、看護婦やサスケの存在もすっかり忘れきっていた。

 

 

 

「先生、もうちょっと頑張ってね」
「んー」
サクラが乳児用のベッドを準備している間、カカシはおっかなびっくりといった様子で赤ん坊を抱いている。
何しろ、今まで赤ん坊と接する機会など全くなかった。
それぞれのパーツが小さく柔らかい赤ん坊はまるで人形のようで、少し力を入れただけで壊れてしまうのではと心配になる。
そうした気持ちが伝わるのか、赤ん坊の方も不安げな眼差しをカカシに向けていた。

「先生、今度ちゃんとサスケくんにお礼言っておいてね。今回、本当にお世話になったから」
「・・・うん」
「はい、出来たわよ」
てきぱきとシーツを敷き、サクラはカカシから受け取った赤ん坊を寝かせる。
横になってからもじっと母親のいる方角に目を向ける赤ん坊に、サクラはにこにこと笑った。
何とも微笑ましい情景だったが、傍らにいるカカシは先ほどからずっと浮かない顔をしている。

 

「サクラ」
「何?」
「ごめんな。そばにいられなくて・・・」
言うなり、カカシは暗い表情で俯いた。

長期の任務で、妻の出産という大事な場面に立ち会えなかったことに、責任を感じる。
日に日に大きくなる腹を抱えて、サクラは一人きり。
何もかも初めてで不安だったろうに、そうしたことを彼女はおくびにも出さない。
そのことが、逆にカカシの心に重くのしかかっていた。
上忍のカカシは常に多忙で、これからもサクラには寂しい思いをさせてしまうのは明白だ。

 

「先生が忙しい人だってことは、最初から分かってたもの」
穏やかな声音で言うと、サクラはベビーベッドの柵の上にあるカカシの手を握り締める。
頼りなげな表情のカカシにサクラは優しく笑いかけた。
「それでも私は先生と一緒にいたいと思ったのよ。それに、今度から赤ちゃんが一緒だから寂しくないわ」
「サクラ・・・・」
「これからも元気で帰ってきてね」

サクラの眼差しからは、カカシを包み込むような暖かな想いが感じられた。
感極まったカカシはサクラの手を強く握り返す。
彼女がいとおしくて、たまらなかった。
そして、何があっても自分の帰る場所はここだということを、切に実感した。

「女の子が生まれたって知らせをもらってから、ずっと名前を考えてたんだ」
「うん」
「俺にとって一番特別な名前を、この子にもあげるよ」

 

 

 

 

新鮮な空気を満喫できる、気持ちの良い朝。
早朝の静寂を破る声は、カカシの家の子供部屋から響いてきた。

 

「待て!せめてあと10分!!」
「30分前にも同じ事言っていましたよ。もうきりがないですから」
「あああーーーー」
同僚の上忍達が、カカシの両脇を抱えて無理やり家の外へと引きずっていく。

「俺が目を離してる隙に小桜が立ったり歩いたり喋ったりしたらどうしてくれるんだ!」
「生まれてすぐの赤子は立ったり歩いたり喋ったりしません。今度の任務は3日ほどで帰って来られますから」
「小桜―――!!!」
今生の別れのような悲痛な叫び声を残し、カカシは部屋から完全に姿を消した。
この騒ぎの中、すやすやとベッドで寝息を立てている小桜はかなりの大物だ。

 

「悪いわねー、サスケくん。毎回、毎回迎えに来てもらって」
「本当にな」
苦笑混じりのサクラの謝罪にサスケは正直に頷く。
リュックを背負うサスケはこれからカカシに同行して里を離れる予定だ。
たまたまカカシと同じ部署に配属されたため、彼は毎度こうしてカカシの家に参上する羽目になっていた。

「馬鹿な亭主を持って幸せだな」
「うん」
皮肉のつもりが綺麗な笑顔を返され、サスケは小さくため息をついた。


あとがき??
いやー、カカシファミリーシリーズにサスケ初登場。(笑)
記念すべき(?)シリーズ第一作「
family」には名前だけ出てるんですけど。
サスケが出てくると辛いので、もう二度と出しません。
このシリーズのサスケは、サクラのお兄さん的立場。
ナルトとサクラは彼にとって、可愛い弟分、妹分なのですよ。
滅多に顔合わせ無いけど、本当にピンチのときは駆けつける感じ。

ちなみにカカシ先生はサクラ&小桜の写真を持ち歩くことで何とか通常通り任務に行けるようになりました。
自分の娘の名前にも“さくら”を入れたかったパパの話でした。
全体的に恥ずかしくて、もうこの駄文は読み返せません。幸せすぎて怖い・・・・。

ケイ太さんからのリクエストは、小桜が生まれた時のカカシ先生の心境&サクラへの想い。
凄い分かり難いのですが、そこはかとなく感じ取って頂けたでしょうか??(^_^;)
長い間お待たせして、すみませんでした。

今回イメージソングはHYの『AM11:00』。(笑)ずっと彼らのCD聴きながら書いていたので。好きv


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