ニセモノパパ


「何でこんなことになったのかしら・・・」
「何でだろうねぇ」
首を傾げるサクラとナルトの傍らで、小桜が落ち着きなく走り回っていた。
リビングを一周して戻ってきた小桜は、ナルトの服の裾をグイグイと引っ張る。
「ここ、ナルトの家?ナルトの家??」
「そうだよ」
それが抱っこの合図だと分かっているナルトは、小桜を抱えながら答える。

「いつまででも居ていいんだからね」
「わーいv」
「・・・カカシ先生、明日、寝坊しないで任務行けるのかしら」
はしゃぐ娘を見つめながら、サクラは家に一人残してきたカカシを思い、小さくため息を付く。
留守がちなせいで、靴下のしまってある場所も満足に分からない人だということを、サクラは十分に承知している。
口喧嘩の勢いで荷物をまとめて小桜と共にナルトの家にやってきたサクラだが、今となっては怒りも冷め、心配を募らせるばかりだ。

 

ことの発端は、1時間ほど前のこと。
一ヶ月ぶりにカカシが帰宅したことから始まる。

 

 

 

「ただいまーー」
「お帰りなさいv」
玄関の前で座り込んでいた小桜は、扉を開けたカカシが入って来るなり飛び付いていった。
小桜を高く持ち上げたカカシは、満面の笑みを浮かべる。
「ハハハ。小桜はまだまだ軽いなぁ」
「先生が今日任務から帰ってくるって聞いてから、この子、朝からそこで待ってたのよ」
「そーか、そーか。有難うなー」
あとからやってきたサクラの言葉に、カカシは一層顔を綻ばせる。
頬ずりしながら小さな額に唇を寄せると、小桜はくすぐったそうに身をよじった。

「パパはチューが好きねぇ」
「大好きだからするんだよ。サクラもね」
「はいはい。お帰りなさい、ね」
小桜を抱いたままのカカシの頬に、サクラはつま先立ちしてキスをする。
出掛けや帰宅時、寝起きや就寝前と、家族間で頻繁にする行為だが、両手に花状態のカカシは心の底から嬉しそうだ。
そして、小桜を下に降ろそうとしたときに、カカシは足下にある靴の存在にようやく気づいた。

「誰か来てるの?」
「ナルトよ。この頃仕事の休憩時間に、うちでご飯食べてるの。私が家事してる間に小桜の面倒見てくれてて助かってるわ」
「ふーん」
「今日は徹夜明けに来たらしくて・・・・」
ぱたぱたとスリッパを鳴らして廊下を歩くと、サクラはダイニングに続く扉を開く。
「ほら、寝てる」

 

テーブルには食べかけの茶碗がそのまま置かれ、ナルトは箸を片手に椅子で熟睡している。
傍らに歩み寄ったカカシはナルトの肩を強くゆすった。
「おい、ナルト。食べるか寝るかどっちかにしろ」
「んーー・・・」
唸り声をあげたナルトは、ひどく緩慢な動きで瞼を開けた。
ぼんやりとした眼差しでカカシを見つめていたかと思うと、ぶいに頬を緩ませる。

「あれー、パパお帰りーー」
「誰がお前のパパだ。寝ぼけるな」
カカシに頭を叩かれてもナルトはだらしなく笑顔を浮かべている。
「俺、三日間徹夜だったんだもんよー。腹は減ってるけど、眠くて、もうどうしようもなくて」
話す途中から、ナルトは自分の袖を小桜が引っ張っているのに気づく。
「ん、何?」
「ナルトにも、おはようのチュー」
顔を近づけたナルトに、小桜は身を乗り出して唇を合わせる。
ほんの一瞬のことだったが、それを目の当たりにしたカカシの衝撃は計り知れないものがあった。

「さ、さ、サクラ、あれ、あれは」
「いつものことよー。先生が何かにつけ小桜にキスするから、抵抗ないのね」
「い、いつものことって」
「先生と私とナルトの三人、小桜の大好きな人限定でしてるみたいだから大丈夫よ」
明るく微笑むサクラだったが、カカシは全く笑えない。
むしろ、表情を険しくしてナルトを見据える。

 

「俺は許さないぞ!ナルト」
「へ?」
「俺が目を話した隙に、よくも娘を傷物にしてくれたな!!」
「傷物って、そんな、大袈裟な・・・。子供のすることだし」
ナルトの膝の上にのった小桜はきょとんとした顔でカカシを見ている。
その無垢な表情がまた、カカシの怒りを増長させた。

「この場で成敗してやる!」
「いい加減にしてよ、時代劇じゃあるまいし。ナルトはうちの家族みたいなものでしょ」
興奮したカカシを押し止めようとしたサクラを、カカシは睨み付けた。
「もとはと言えば、サクラがちゃんとしつけないからいけないんだ」
「・・・何で私が悪いのよ。大体、仕事ばかりで家にあまりいない先生がいけないんでしょ。ナルトの方が全然私のこと手伝ってくれてるわよ」
「俺はお前達のために働いてるんだ」
「だからって、一ヶ月も家にいないなんて、ひどすぎるわ!小桜がナルトに懐いて当然じゃない」

突然始まった夫婦げんかに、ナルトも小桜もどうしていいか分からない。
二人が息をひそめて見守る中、顔を怒りに赤くしたサクラは金切り声をあげる。

「もういいわよ!小桜にナルトのこと「本当のパパ」って呼ばせちゃうから!!」
「・・・パパァ?」
サクラの言葉に反応し、ナルトの顔を見上げた小桜が小さく呟く。
その一言が、カカシの心に大打撃を与えたのは言うまでもない。

 

 

 

 

「そんなに心配しなくても大丈夫だって。カカシ先生だって曲がりなりにも上忍なんだから」
「うーん・・・」
その日の深夜、夜具に入ったあとも、サクラはまだカカシのことを気に掛けている。
セミダブルのベッドで三人は川の字で横になっているが、寝入っているのは真ん中にいる小桜だけだ。

「俺の予想だとねー、カカシ先生、明日あたりに泣きべそかいて迎えに来ると思うよ」
「ナルト、あんたカカシ先生のことどんな風に認識してるのよ」
「サクラちゃんにべた惚れの幸せなヘタレ上忍」
「・・・・本人にそう伝えておくわ」

サクラが冷ややかに呟いた直後に、どこからかけたたましい音が聞こえてきた。
インターホンはきちんとあるのだが、ナルトの家の扉が叩かれている音だ。
「あれ。一日も保たなかったかー」
ベッドから這い出たナルトは面白そうに笑って言う。
明日にでもサクラと小桜に手料理をご馳走しようと思ったのだが、それはまた次の機会になりそうだった。

 

「俺が悪かった」
家の中から出てきたサクラを見るなり、カカシは開口一番に謝罪する。
「だから、だから、戻ってきてくれ、サクラ・・・」
パジャマ姿でしゃくり泣きするカカシは、何故か片手に枕を抱えている。
独り寝をしようとベッドに入ったものの、寝付けず、そのままここに直行したのかもしれない。

「・・・これでいいのかしら。曲がりなりにも、上忍なのに」
「幸せなら、万事OKじゃない?」
半ば呆れて自分を見るサクラに、ナルトは笑いながら答えた。

 

 

取り敢えず、カカシを家にあげようとスリッパを用意したナルトはその足音に振り返る。
ウサギのぬいぐるみを引きずって歩く小さな影は、頼りなげな声をあげた。
「ママ・・・・どこ?」
「小桜」
反射的に答えたのは、カカシだ。
寝起きのせいか、小桜は少し考えるような仕草をしてから、笑顔を見せた。
「あ、ニセモノのパパだ」

意味などもちろん分かっていない。
だが、カカシを打ちのめすのにこれ以上の言葉はなかった。

「もう、許してくれ。長期任務は減らして家にいるようにするから、一緒に遊んであげるからーーー」
泣き崩れるカカシに、思わず同情的な眼差しを向けてしまうナルトとサクラだった。


あとがき??
ごめんなさい。カカシファミリーシリーズのカカシ先生は、私が書く中で一番へなちょこな性格の先生です。
今日はナルトの誕生日なもので、いい目を見させてあげよう(小桜のチュー)と思って書いたらカカシ先生がえらいことになってしまった。
先生、サクラに好いてもらって良かったねぇ・・・。
ちなみに、以後小桜のナルトに対するチューはカカシ先生によって禁止されました。

このシリーズ、幸せオーラが全開バリバリなので毎回毎回死にそうになりながら書いてます。あてられて。
ああ、ナルトのベッドがなぜセミダブルかというと、泊まりに来る女友達が何人もいるからです。特定の恋人ではなく。
すみません、不純な話で。(笑)これでも小桜の将来の旦那様なのですよ。ナルチョは。
いつまで続くのだろう、このシリーズと思いつつ、ラストの話だけはしっかり決まってます。小桜12歳の話。いつになったら書けるかな。


駄文に戻る