涙のわけ


その日サクラがナルトの誘いに応じたのは、ほんの気まぐれだった。
周りの人に言うと何故かとても驚かれるが、サクラの特技は料理だ。
普段ろくなものを食べていないナルトをサクラが心配して料理の方法をレクチャーしている時に、
「じゃあ、サクラちゃんが俺の家に来て直接教えてよ」
とナルトが言った。
特に用事もなくて暇だったので、一回だけだからね、とサクラは念を押して了解した。
まず、ナルトの家にはろくな材料がないと判明し、任務終了後に二人で買出しに行くことに決めた。

 

・・・何だか、見られてる??

ナルトとショッピングセンターに来たのはいいが、先ほどからどうも視線を感じる。
周りの子供は普段と同じに無邪気に遊んでいる。
もっぱらの視線の持ち主たちは大人だ。
それにしても、サクラには視線を向けられる理由が全く分からなかった。
このショッピングセンターには何度も来たことがあるが、このようなことは一度もなかった。
ナルトもサクラも別に特別変な行動をしたり、変わった服装をしているわけでもない。
不思議に思いつつも、買い物カゴを手に食材を選別していると近くの主婦たちの会話が耳に入った。

「嫌だわ。あの子が来てるじゃないの」
「本当、早くいなくなってくれないかしら」

その瞬間、サクラは視線を集めていた理由を悟った。
私じゃない。皆ナルトを見ていたんだ。

わざとナルトに聞こえるように言っているのが分かり、サクラは憤りで頭に血がのぼるのが分かった。
「ちょっと、おばさん!」
「サクラちゃん!!」
思わず主婦たちに怒りの言葉を浴びせようとしたサクラを止めたのは、ナルトだった。
「いいんだよ。あんなの慣れてるから平気だよ。早く行こう」
ナルトは自分をかばったサクラまで悪く言われたくないと思ったのだ。
その気持ちがサクラにも伝わってきた。
怒りの気持ちが消えて、サクラは何だか無償に悲しくなってしまった。
何が平気なのよ。そんなに泣きそうな顔をして。
先を歩くナルトの背中がとても寂しそうに見えた。

 

帰り道はお互い言葉を発する気持ちになれず、無言で歩いた。

「俺のせいで、嫌な思いさせてごめんな。サクラちゃん」
ナルトが思い切ったようにサクラに話し掛ける。
ナルトはサクラが暗い顔をしているのは、まださっきのことを怒っているからだと考えて、しきりに頭を下げてサクラに謝っている。
しかし、サクラの胸中にあったのは怒りではなかった。

 

同じ班になって、近くにいて分かった。
ナルトは良い子だ。
私は今まで何度も何度もナルトを殴ったり蹴ったりしたけど、ナルトが私に手を上げたことは一度もない。

そして今日ナルトと行動してみて、初めてナルトの立場を理解した。
何で里の大人たちがナルトを悪く言うのかは分からないが、これではただの集団いじめだ。
きっとナルトにはこのようなことなど日常茶飯事なのだろう。
大人たちの理不尽な行動がひどく醜いものに見えた。

でも、自分もそんな大人たちの言葉を信じて、ナルトが本当はどんな子なのか知ろうともしなかった。
私だって、あのおばさんたちのこと言えない。
今まで自分がナルトに投げつけてきた冷たい言葉が思い出される。
酷いことばかり言った。
本当に醜いのは、私だ。
それなのに、こうして自分を気づかって謝っているナルトを見ていたら、申し訳ない気持ちでいっぱいになって涙が出た。

 

「サ、サクラちゃん?」
突然泣き出したサクラに、ナルトは思いきり動揺する。
「ナルト、ごめん。ごめんねぇ」
サクラはナルトに謝罪しながら泣きつづけている。
ナルトはサクラの涙の理由も、謝罪の理由も分からずオロオロするばかりだ。
泣いている女の子の器用な慰めかたなど、ナルトが知るはずもない。
それでも、何とかサクラに泣き止んでほしくて、普段使わない頭を総動員して必死に考える。

「サクラちゃんさ、俺が昔怪我した時のこと覚えてる??」
突然何を言い出すのかと、サクラは顔を上げてまだ涙にぬれている瞳をナルトに向ける。
にっこり笑ってナルトは話を続ける。
「あの日は森で初めて実戦を想定しての戦闘訓練の日で・・・」

 

ナルトは今と変わらず人一倍はしゃいで、無茶をして、手に軽い怪我をしてしまった。
心配して保健室へ行くように言うイルカに、つい意地を張って
「大丈夫、大丈夫」
と言った直後、その傷をつけた張本人であるサクラにひっぱたかれたのだ。
「馬鹿!黴菌が入ったらどうするのよ。死んじゃうかもしれないでしょう!!」
イルカ以下、その場にいた生徒全員がサクラの剣幕に一言も口をはさめないうちに、ナルトはそのままサクラに引きずられるようにアカデミーの保健室へ向かったのだった。

 

「あの時もサクラちゃん泣いてた。でも俺、すっごく嬉しかったんだ」
保健室へ行く途中、涙声で小さく「ごめんね」と呟いたサクラが強く印象に残っている。
それ以来、ナルトにとってサクラは、とても気になる存在になったのだ。
ナルトはどんな言葉を言われても、サクラは本当は優しい子なのだと分かっていたからあまり気にしていなかった。
しかし、サクラはその時のことを全く覚えていない。
サクラは自分がとっくに忘れてしまった記憶をナルトが大切に覚えていた事がとても意外で、不思議な気分だった。

「怒られてビックリしたけど、あれは俺を心配してくれてたんだって分かった。それまで俺のために怒ってくれたり、泣いて心配してくれる人なんていなかったから。俺、頭悪いからサクラちゃんが今何で泣いてるのかよく分からないけど、もう、俺のためには泣かないでほしい。サクラちゃんにはいつも笑っていて欲しいんだ」

サクラは、これはナルトなりに自分を一生懸命励ましているのだとようやく気づいた。
今まで子供っぽいと思っていたナルトが急に大人びて見えた。
ナルトは自分が辛い時でも、他人を思いやることができる強い心を持っている。
いつまでも泣いているだけの自分が恥ずかしくなる。

「もう泣かないわよ」
サクラは涙を拭きながら決意する。
今までの償いを含めて、これからはナルトになるだけ優しく接しようと。
まだまだ頼りないナルトを自分がフォローできれば良いと思う。
「来週も一緒に買い物に行くからね」
決意も新たにサクラは握りこぶしをつくりながらナルトに力強く言った。
「え、それって」
「あんなおばさんたちなんかに負けないわよ!毎週あんたの家に料理教えに行ってあげるから」
「本当――!?」
目をキラキラ輝かせるナルトの顔を見て、そんな大げさに喜ばないでよね、とサクラは笑う。
ようやく笑顔を見せたサクラに、ナルトは心底ホッとした表情をした。

 

ナルトの家に向かう足取りは先ほどよりもずっと軽いものになっていた。

「あのさ、俺サクラちゃんのこと好きなんだ」
「そう」
「サクラちゃん、まだ俺のこと嫌い?」
「前ほどじゃないけどね」
「あのさ、あのさ、それじゃあ、俺が火影になれたら、お嫁さんになってくれないかな」
「・・・・」
歩みを止めたサクラに合わせて、ナルトも立ち止まる。
いきなり大きく出たナルトにサクラは呆れ顔だ。
そんなサクラの態度を全く気にした様子はなく、ナルトはニコニコ顔でサクラの答えを待っている。
しばらく考えていたサクラがポツリと呟く。
「・・・火影の奥さんってのも悪くないわね」
相手がサスケくんなら文句ないし、という内なるサクラの言葉も知らず、ナルトはもう火影になったつもりで
「ヤッター」
と飛び上がって喜んだ。


あとがき??
なに、これ??サクナル?ナルサク??
多分ナルトとサクラの話を書く人は誰でも書いてるだろう話。
パクリだーと思われてたらどうしよう。どきどき。
ナルトの口調が違うのはわざとです。私には「〜だってばさ」の言葉の使い方が分からない。
おかげで別人28号。どうしようー。


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