式日


木はまだ紅葉には早く、あまり色づいてはいなかった。
青々と茂る緑は、風の揺らぎと光の加減で、様々な顔を見せる。
大きく息を吸い込むと、冷えた空気がどんどん体の中に入っていった。
森の新鮮な空気は、気持ちがいい。

昔よくやっていたように息を止めてみたら、2分もしないうちに咳き込んでしまった。
同時に涙と鼻水が大量に出て、急いでポケットのティッシュをさぐった。
鼻をかみながら強く思う。
もう二度とやらない。

 

 

人間、息をしなければ死ねる。
道具を何も使わず簡単なようで、これがなかなか難しい。
高い場所からジャンプして骨折したり、風邪気味なのに池に飛び込み肺炎になりかけたり、人目を引きたいのか自殺したいのかよく分からないことを繰り返してた頃に、火影になれば皆に認められると教えてくれたのは火影自身だ。
何か目標があるというのは良いことで、その夢が叶うまで死なないと決めた。

それにどれほどの意味があるのか。
当時も今も、あまりよく分かっていないのだけれど。

 

小さいときの記憶は曖昧にしか残っていない。
辛いことが多すぎて、思い出さないようリミッターを付けているように。
唯一、親身になってくれた人間といえば、火影だけだった。
その火影も慈愛に満ちた眼差しを向けると思えば、時折、冷たく突き放すような言動をする。
本人も無意識のことだったのかもしれない。

外へ一歩出れば、憎しみのこもった大人達の視線が集中した。
自らの出自が関係してのことだとうすうす気付いたが、具体的なことは誰も何も話してくれなかった。
理由を知っていれば、もう少し世間に怯えずに生きて来られただろう。

里を滅ぼしかけ、仲間の忍びを数え切れないほど殺めた化け狐。
それが身に宿っているという恐ろしい事実でも。
わけも分からず他人から蔑まれ、不安な毎日を過ごすよりは、数倍ましだった。

 

 

 

森を抜けて町へと続く小道を歩いていると、両腕を組み、仁王立ちする少女が見えた。
非常に嫌な予感がする。

「ナルト、朝からどこほっつき歩いていたのよ!!」

案の定、開口一番に怒声を浴びせられ、首をすくめた。
反論するよりもまず萎縮してしまうのは、彼女の怒鳴り声に対する条件反射だ。
彼女のことは常日頃、騒がしい子だと思っていた。
好ましいという意味で。

同じ年頃の子供が持つ輝きを、彼女も確かに放っている。
憧れてやまない、愛されている子供だけに許された、光。
それが眩しすぎて。
時々少しだけ、彼女を遠く感じる。
どんなに近くにいても。

 

目の前までやってくると、彼女は手に持っていた紙袋を高々と掲げた。

「これ!」
ぶっきらぼうに言われ、首を傾げてその紙袋を見詰める。
「何?」
「あげる」
短く答える彼女の頬は、ほんのりと赤かった。
怒っているのではなく、たぶん、照れている。
何に?

「見ていいの」
こくりと頷く彼女に、紙袋の上部を留めたシールを外し、中身を取り出す。
毛糸の帽子だ。
オレンジ色のそれは見るからに暖かそうで、これからの季節に丁度良い。

 

「誕生日、おめでとう」

 

唐突に言われ、耳から入った言葉を頭で理解するのに、たっぷり15秒は費やしてしまった。
たぶんその間、とんでもない馬鹿面をしていたことだろう。

「・・・・知ってたの」
「うん」
彼女は、当然、という顔で言う。
「だって、同じ班の仲間でしょ」
腰に手を当てえらそうに顎を上向きにする彼女の姿に、思わず笑みがこぼれた。

 

誕生を祝ってくれる人がいる。
生まれてきて良かったと、言ってくれている。

普通の人なら当然かもしれない、それらが。
やけに奇妙なことに思えた。
喜ぶよりも早くに。

いつの間にか卑屈な人間になっていたのだと、思い知らされた気がした。

 

「サクラちゃんは、いい人だねぇ・・・」
しみじみと響く声に、彼女は目を丸くする。
「何、言ってるのよ。イルカ先生も、カカシ先生も、サスケくんも、他のみんなもあなたを捜してるわよ」
「何で?」
「あなたに「おめでとう」を言いたくて!」

どうして分からないのかと、彼女は語調を荒くする。
何故か、いらついているような雰囲気だった。

 

 

 

皆が待っているという場所に向かう間に、隣りを歩く彼女の手を握ってみる。
ぶらぶらと動く彼女の手を視界に入れたときの、とっさの思いつき。

ちらりとこちらを伺い見た彼女は、何も言わずに再び前方へ視線を戻した。
握り返された手は、痛いほど強い力で。
プレゼントよりも、そっちの方が嬉しかったと言ったら、彼女はやっぱり怒るだろうか。

 

「生きてて良かったな」
「大袈裟!!」

心からの言葉に、彼女は呆れたように笑う。
心情を理解してくれないのは悲しかったけれども。
繋いだ彼女の手の温もりが優しかったから、他のことはどうでもよくなった。

 

 

或る、秋晴れの午後の風景。


あとがき??
ナルトが好きです!(一言ですんでしまう感想)

「そういえば明日はナルトの誕生日だー」と思って急いで書き始めた話。
うちのナルトはわりと大人しい性格です。(暗いともいう)
たまにこうしたものを書きたくなります。つるりするりと簡単に出来てしまう。
ナルト愛の力か!?
時間を掛けてない割に、お気に入りの話。ナルト愛!!

火影様の描写がちらりと出てますが、火影様がもうちっとナルトを気に掛けていたら、ナルトももっと火影様になついていたんじゃないかなぁと思って。
ナルトも初めて認めてくれたのはイルカ先生だって言ってるしさ。
その間、ナルトどうやって生きてたんだよーー??(涙)


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