青いセーター


綺麗な色。

それがサクラの編むセーターを見たナルトの、最初の感想。

 

「誰にあげるの?」
「ないしょ」
ナルトの問い掛けに、サクラは笑いながら答える。
「ちぇっ」
つまらなそうに舌打ちしたナルトだったが、本当は知っていた。
サクラがサスケの背を借りて採寸しているのを見たから。
セーターは、同じペースで編めばあと2、3日で完成するところまできている。

「でも、大事な人にあげるんでしょ」
サクラはセーターから目を離してナルトを見る。
長い期間、丹念に編み込まれたサクラの思いがこもっているセーターだ。
ナルトは馬鹿な質問をしたと思ったが、サクラは嫌な顔をせずに返事をした。
「そうね」

柔らかく微笑したサクラは、ナルトが思わず見惚れてしまうほど綺麗だった。

 

 

 

3日後。
完成したセーターはナルトの手の内にあった。

もちろん、サクラから手渡されたわけではない。
任務終了後、サクラがうっかり置き忘れた荷物にこのセーターを見付け、気が付いたときにはナルトはそれを持って走っていた。
サクラの家とは、逆の方向に向かって。
生まれて初めての窃盗行為に、罪悪感が、ナルトの心を苛んでいく。
それでも、ナルトの足は止まらない。

綺麗な色のセーター。
サクラが、大事な人にあげるのだと言っていたもの。
任務の合間の休み時間、不器用なサクラが一生懸命に編んでいるのを、ナルトは傍でずっとずっと見ていた。

 

手にした瞬間に、ナルトはセーターを川に捨ててしまおうと思った。
自分のものにならないのなら、せめて。
誰の手にも渡らないように。

 

 

たどり着いた河原で、最初にナルトの脳裏をよぎったのは、セーターを編む手を止めて自分に微笑んだサクラの姿。
サクラは今頃、置き忘れたセーターを必死になって捜している。
長い逡巡の時間のあと、セーターを川に投げることができず、ナルトはその場にうずくまった。
瞳からは、涙が止めどなく溢れている。

自分が本当に欲していたのは、このセーターではない。
これは、単に求めるものの象徴だ。
そのことに、ナルトは気付いてしまった。

 

 

 

「ナルト?」
夕方、サクラの家を訪れたナルトを見て、彼女は目を丸くした。
暗い顔で俯くナルトからは、ただならぬ空気を感じる。
「どうしたの」
取り敢えず家の中に招き入れようとするサクラに、ナルトは首を振った。
「・・・・これ」

差し出されたセーターを見るなり、サクラは瞳を輝かせる。
「有難う!ナルトが見付けてくれたのね。今日、ずっと捜してて・・・」
「違うんだ」
ナルトは激しくかぶりを振った。
「俺が、サクラちゃんの荷物から盗ったんだよ」

思いがけない告白に、サクラは目と口を大きく開けた。
驚きのあまり、なかなか声が出てこない。
悪戯好きのナルトだが、人のものを盗むような人間ではないことをサクラは十分に分かっている。

 

「ごめん」
「・・・・どうして」
謝罪するナルトにサクラは我に返って訊ねる。
「羨ましくて」
ナルトはこぼれだした涙を袖口で拭いながら答えた。
「サクラちゃんのセーターをもらえる奴が」

暫しの沈黙のあと、サクラは徐々に顔を綻ばせていく。
「馬鹿ねぇ」
サクラは苦笑すると、ナルトの手からセーターを受け取る。
「これ、最初からあんたのために編んでたのよ」
「え!!?」
「よく見てみなさいよ」

広げると、セーターの隅に小さくNの文字が入っている。
ナルト(NARUTO)のN。

「本当は誕生日にあげるつもりだったんだけど、失敗ばかりでなかなかはかどらなくて、今になっちゃったのよ」
サクラははにかむように笑ってナルトを見た。
「ナルトがいないときに、サスケくんでサイズを合わせてみたんだけど。大丈夫よね」
サクラはセーターをナルトの体に合わせて翳してみる。
肩幅も、袖の長さも、ぴったりだった。

 

「ナルトの瞳と同じ色を選んだのよ」
サクラの優しい笑顔は、セーターを大事な人に渡すのだと言ったときと、同じもの。
「綺麗な色でしょ」
「・・・・うん」

ナルトの欲しかった笑顔が、すぐ目の前にあった。


あとがき??
つ、辛い。これ書いてるとき、凄く苦しかったのです。
駄目なんですよ、私。ナルト視点の話を書くと、すぐに感情移入してしまって。
青ってのは“幸せの青い鳥”とかけてるのかもしれないです。
綺麗な青は、セーターの色であり、サクラを見詰めるナルトの瞳でもある。
その眼差しが自分に向けられていると気付けずに、自分自身に嫉妬したナルトの話。
なんだ。ラブラブじゃないか。

ちなみに、私のナルサクテーマソングは島谷ひとみの『市場に行こう』。
これを聞くと、ナルサクを書きたくなる。(夢見すぎ)

原作に近い話にしようとして、似ても似つかない二人になってしまいました。
かんべんしてください。(汗)
日頃のご愛顧に感謝して。


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