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死の森で怖いのは、ライバルとなる下忍達の存在よりもまず、生息している獣達の襲来。
飢えている獣にしてみれば、彼らは格好の獲物だ。
穏便に話し合いで解決、というわけにいかない。
ここにいる動物の殆どが夜行性ということもあり、視界のきかない夜間はさらなる緊張が強いられる。
交代の見張りはナルトの番だったが、そうした役目がなくとも、ナルトは寝られそうもなかった。

膝を抱えて座るナルトは、寝息を立てる仲間へと顔を向ける。
獣避けの焚き火の火はごく小さなものだが、白い包帯が巻かれたサクラの腕や顔は闇夜に浮き上がって見えた。
再び火もとへと視線を戻すと、ナルトは辛そうに顔を歪ませる。
サクラを見るたびに、罪悪感に胸がつぶれそうだった。

 

ナルトが目覚めたとき、サクラの髪はすでに無くなっていた。
それがただのイメージチェンジではないことは、強打されて腫れた顔、傷ついた手足を見れば分かる。
でも、強がっているサクラを見ていたら、何も言えなかった。

リーやいの達は、サクラのために戦った。
自分だけが何もできず、さらにはサクラによけいな気を遣わせている。
唇を痛いほど噛みしめたナルトの瞳からは、涙が零れだしていた。

 

 

「ナルト」
傍らで横たわるサクラは、いつしか目を開けてナルトを見上げていた。
不安げな瞳は、ナルトの涙に気付いたからだ。

「どうかした?」
「・・・ごめん。サクラちゃん、ごめん」
後から後からこみ上げてくる涙は、もうナルトには抑えられない。
ナルトは顔を袖口で拭きながら、しゃくり泣きを続ける。
「俺が、俺が全然役立たずだから、サクラちゃんが苦労して。沢山怪我して。大事にしてた、髪だって。俺が動けなかったから・・・」

いろいろな感情がごちゃまぜになり、ナルトは自分でも何を話しているか分からなくなった。
半身を起こしたサクラは、嗚咽を漏らすナルトと真正面から向かい合う。

 

「何でナルトが泣くの?」
不思議そうな声に顔を上げると、サクラは小首を傾げてナルトを見詰めていた。

「だって、当たり前のことでしょ」

ナルトの頭に手を置き、サクラは柔らかく微笑む。
「仲間を守りたいと思うのは、当然のことよ。怪我は治るし、髪だってまた伸びるわ。だから、ナルトが謝る必要はないの。こういうときは、「ごめん」じゃなくて「ありがとう」って言わなきゃ」

 

 

痛々しく包帯を巻いたサクラは、どこか誇らしげに笑っている。
仲間を守るために負った傷は名誉の負傷だというように。

思い出すのは、どこに行っても厄介者扱いをされていた過去。
冷たい視線に晒され、自分はいらない人間だと思いつづけた。
寄る辺のないナルトにとって、自分を守るのは当前なのだと、平気で明言するサクラは神様のように見えた。
いくら言葉を並べても、この感動は彼女には伝わらない。

 

「俺、サクラちゃんのこと、絶対絶対守るよ!」
「鼻の頭赤くして言っても、説得力無いわよ」
手厳しい言葉とは裏腹に、サクラは優しい眼差しをナルトに向けていた。

 

 

 

ナルトの名誉挽回のチャンスは、思いの外早く訪れた。
度重なる事件のために、曖昧なまま中断した、中忍選抜試験。
カカシの非常招集によって集まった7班だったが、その帰り道、サクラは一人帰路につくナルトを追いかけた。

 

「ナルト」
サクラはのんびりと歩くナルトの後ろ姿に声をかける。
「あなたがあの砂の奴から助けてくれたんですってね。何で黙ってたのよ」

砂の我愛羅。
サクラの意識があったときでさえ、彼は尋常ではない力を持った異形のものだった。
さらに完全体になったそれを、ナルトが一人で撃退したという話はまだ信じられない。
ナルトなら、誇張を含めて、真っ先に自慢しそうなものだ。

 

両手を頭の後ろで組みながら遠くを見ていたナルトは、振り向くなり、サクラに笑いかける。

「だって、当たり前のことでしょ」

こともなげに言うナルトに、サクラは目を丸くした。
いつか、耳にした覚えのある言葉。
にこにこと笑うナルトに、サクラもゆっくりと顔を綻ばせる。

「うん。有難う」


あとがき??
かなり前から書きたかった話。
いくらナルトが馬鹿でも、気付かないはずないですよ。サクラの怪我の理由に。
ちょっとフォローしてみました。
我愛羅戦のとき、ナルチョが、サクラちゃんは俺が守るーってしつこく主張していたので。
サスケも含め、7班の下忍3人は特別。大好き!3人揃って、ラブ!!ずっと一緒にいてくれ!!

この話を書こうと思ったのは、似たような経験をしたからですね。
何の気なしに言った言葉だったのに、何十倍もの親切を返されまして、「当たり前」と同じように言われました。
情けは人のためならずという言葉を噛締める日々です。


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