君の世界
朝、珍しく30分程度の遅れでやってきたカカシは、下忍達に向かって紙縒を差し出した。
数は下忍の人数分ある。「一人ずつ、引いてね」
「・・・何これ」
「あとで教えるよ。早く選んで」
カカシにせっつかれ、下忍達はそれぞれ紙縒をカカシの手から抜き取る。
長く伸びた紙縒の先は、ナルトとサクラのものが一本に繋がり、サスケのものは途中で切れていた。
「はいはい、これで決定ねー」
訝しげな下忍達にカカシは手を叩きながら注目を促す。「これから紙縒が繋がっていた人物に変化してもらって、一日過ごしてもらうから。入れ替わっていることは誰にも内緒。気付かれないように注意してね」
「え!!?」
「他人に化けて潜入操作することもあるだろうし、どれだけ仲間のことを観察できているかも、ポイント!夕方、またここに集合だから、別行動してろよ」
「そ、そんな、突然言われても・・・・」
「ねぇ」
戸惑ったように言うと、ナルトとサクラは顔を見合わせる。「俺は?」
「サスケは俺に変化してね。俺はサスケになるからさ」
カカシは手に持っていた書類の数々をサスケに手渡すと、さっそく術を使って姿を変える。
「よーし、今日は一日子供に戻って羽を伸ばすぞーー!!」誰にも変化の術がばれないように、と言ったのは確かにカカシだ。
だが、両手を高く突き上げ、満面の笑みを浮かべるサスケは違和感大爆発な光景だった。
「突然ナルトになれって言われてもねぇ・・・」
取り敢えず、材料を買い込みナルトの自宅に戻ったサクラは昼食を作り始める。
包丁もまな板も鍋も、台所用品は一通り揃っているが、使われている形跡はない。
日頃、お湯しか使わないラーメンばかり食べている証拠だ。
「今度強く言って聞かせないとね」厳しい口調で言ったサクラだったが、何となく、ナルトが料理をする気にならないのも分かる気がした。
一人分を作るというのは、どうにも億劫で、材料が中途半端に余ってしまう。
かといって沢山作っても、何日も同じメニューが続くことになり、飽きてしまう。完成したパスタ料理とスープ、サラダを食べながら、サクラはたった一人の食卓に何とも言えない侘びしさを感じた。
どんなに美味しく作っても、それを共有できる人がいないと味気ない。
いつも食べるよりも少な目に作ったつもりだが、サクラは皿に盛った食事を半分も残してしまった。「・・・何だか気分が滅入っちゃった」
暫くTVを眺めていたが、面白い番組は全くやっていない。
ブラウン管の中の人物達が楽しそうにしていればしているほど、孤独感が増していく気がした。
リモコンでスイッチを切ると、サクラは椅子から立ち上がる。「外に出るかな」
ナルトの視点で見る木ノ葉隠れの里は、今までとは、全く違っていた。
目に映る風景は変わらない。
違うのは、その空気。
どこに行っても、視線を感じた。
それも、あまり好意的でない。振り返ると、ひそひそ話をしていた大人達の会話はぴたりと止まり、彼らはサクラと目を合わせないようにいなくなる。
それは町に行っても同じだった。
にぎやかだった店が、サクラが一歩踏み入れただけで、しんとなる。
そして、暫くしてから、それぞれの場所でぎこちない会話が始まる。
まるで、フィクションの世界に迷い込んだようだった。全ては、ナルトの姿をしているからだと、サクラは分かっている。
それだけ、自分の変化の術が冴えているということだ。
頭では理解していても、敵意のこもる瞳で見つめられたことのなかったサクラには、強い衝撃だった。
どこかに、逃げ出したくなる衝動。
だけれど、帰る場所など、どこにもない。
待っていてくれる人も、いない。
絶望というものがあるのなら、こういうことではないだろうか。
息が詰まりそうな苦しさを感じて、サクラは立ち止まる。
誰かに肩を叩かれなければ、いつまでも道端で立ちつくしていたかもしれない。
「何、ぼーっとしてるのよ」
振り向くと自分が、いや、サクラの姿をしたナルトがいた。
辺りに目を配ったナルトは、サクラに顔を近づけて囁くように言う。
「サクラちゃんの家に一度帰ったんだけどさ、お母さんには全然ばれてないから平気だよ」自分に明るく笑いかけるナルトを、サクラは目の覚めるような気持ちで見つめた。
いつも通りの、何でもない会話をしているだけだ。
それが、何故こんなにも嬉しく思えるのか。
サクラは溢れてきそうな涙を、必死に堪えた。「・・・違う」
「え?」
「全然違うわよ、ナルト。あんたの変化の術は最悪だわ。私は、そんな風に笑わない。あんたに優しく声をかけたりしてない。あんたのこと何も分かっていないのに、いつもいつも、偉そうに説教ばかりしてる。本当に最悪よ」
声を荒げるサクラに、ナルトは目を丸くする。
だが、サクラが怒っていたのはナルトに対してではなく、自分にだ。
罪悪感で、サクラはナルトの顔をまともに見ることが出来なかった。
「でも、俺にはサクラちゃんはこんな感じで見えてるよ」
うなだれるサクラに何か感じ取ったのか、ナルトは優しく話しかける。
「失敗ばかりで、サクラちゃんにはいつも叱られてるけど不思議と頭にはこないんだ。俺のことを思ってくれてるって分かってるから。俺がこうしていられるのは、サクラちゃんやみんなのおかげなんだよ」
ナルトの気持ちは、その言葉の端々に現れていた。
顔を上げたサクラを目が合うと、ナルトは頭を下げて付け加える。
「俺のせいで何か嫌な思いをしたのなら、ごめん。誰かに何か言われた?」自分が詫びなければならないのに、逆に謝られ、サクラはどうしたらいいか分からなくなった。
八つ当たりをした自分に比べて、人を気遣う余裕のあるナルトの方がずっとしっかりしている。
7班で一番子供っぽいナルトが、全然別人のようだ。
今日一日で、サクラはナルトに対する見方が随分と変わった気がした。「・・・あんたって、凄いわ」
翌朝、サクラが7班の集合場所にやってくると、いつも以上に無愛想なサスケがいた。
サクラが何を話しかけても、無視だ。
特に彼を怒らせた覚えはなく、サクラは困惑気味にナルトに近寄る。「サスケくん、どうしたの?」
「カカシ先生が、サスケの姿でいろいろやったらしいよ」
「何を」
「・・・いろいろ」
サスケの視線を気にしてか、ナルトは声をひそめて言う。
ナルトが話によると、昨夜はサスケのところに苦情が殺到したそうだ。
銭湯の女子風呂を覗いた、女性のスカートをめくった、尻に触った、等々。
子供のすることだからと注意されるだけですんだが、カカシが本来の姿でそれらのことをしたら、しゃれにならない。
サクラの脳裏に「羽を伸ばすぞー」と言ったときのカカシの晴れ晴れとした顔が思い出される。
と、同時にぞっとした。
カカシがサクラに変化していたら、どのような悪さをされたか想像するのも怖い。「カ、カカシ先生の紙縒に当たらなくて良かったーー」
「俺も、俺も」
額の汗を拭いながら呟いた二人に、サスケの機嫌はさらに悪くなっていた。
あとがき??
ナルトいじめ駄文。これだからうちのナルトは原作とは別人だと言われるのだろうか。(悩)
以後、ナルトの家には週一でサクラが通ってご飯を一緒に食べるようになりました。
紙縒は“こより”と読んでね。・・・カカシ先生がサスケの姿であれらのことをしたと思うと、物凄く怖かったりする。
妙な駄文ですみません。サスケくんもごめんなさい。
元ネタは、ハレグゥでクライヴ先生とハレの体が入れ替わる話でした。