ずるい奴


ナルトはずるい。

カカシに頭を撫でられ嬉しそうに笑うナルトを横目で見ながら、サクラは思った。

くの一クラスで、どのテストでも満点の成績を修めるサクラは教師達から贔屓的な扱いを受けていた。
そしてサクラはそのことに対してとくに思うところはなかった。
サクラにとってそれは当然のことだったから。
サクラの高慢な態度は周りの女子から反感を買うことが多かったが、サクラはただの僻みと思い気にしなかった。

だが、イルカが担任になってからというもの、状況が全く変わってしまった。
イルカは成績優秀なサクラを特別扱いすることはなく、むしろ、万年最下位の成績で悪戯ばかりするナルトを可愛がっていることは、誰の目から見ても明らかだった。
親しげにナルトに声をかけるイルカを見るたびに、サクラは叫びだしたい気持ちをなんとかこらえる。

どうして。
私の方がもっと上手く何でもできるよ。
ナルトなんか見ないで私の方を見てよ。

そうしたサクラの思いは下忍になり、担任がカカシになってからさらに強くなった。
だが、下忍として引き受ける任務で、サクラが必死に頭に詰め込んだペーパーテストでの知識が役に立つ依頼が来ることは少ない。
体力的に不利なサクラにとって、それは致命的なことだった。

さらにサクラは波の国で自分の能力の限界を鮮明に確認させられた。
カカシに教わったチャクラを使った木登りの練習で、サクラは一番に教わったことを器用にこなしてみせ、カカシもサクラを褒めてくれた。
でも、違うのだ。
問題はそれから先。
サクラがどんなに頑張ってもすぐにナルトやサスケに追いつかれ、更に自分ができないところまでいってしまう。
サスケはサクラの想い人で、うちは一族だということから許容できるが、ナルトは違う。

ナルトは失敗ばかりで、サクラがついていないとてんで駄目なように見えるが、それでいて周りの人達を惹きつける不思議な魅力を持っている。
サスケは普段はナルトと仲の悪いように見えるが、実はナルトの実力を認めている。
カカシは生徒をみな平等に扱うが、三人の中でもナルトの成長を一番好ましい目で見つめている。
サクラはそれらの事に気づいている。

いつも、いつも、ナルトばっかり。

今日もクナイを投げる練習で一番多く的に当てたのはサクラだったが、前回より多く的に当てたということでカカシが最初に労いの言葉をかけたのはナルトだった。
自分を見ていることに気づき、手を振るナルトからサクラは思い切り顔を背けた。

 

その夜、サクラは父親に電話で呼び出された。
傘を持ってくるのを忘れたので届けて欲しいとのこと。
サクラは母親の差し出した傘を受け取り、不満げな顔で父の職場へと向かう。

外に出てみると、夕方から降り始めた雨はかなり酷い降りになっていた。
傘を差していても、それがあまり役に立っているとは言いがたい。
サクラは一刻も早く帰りたいという思いから、公園を通る近道を選んだ。

雨の中、夜の公園はさすがに人っ子一人いない。
持ち主に忘れ去られた子供用スコップが砂場に寂しそうに放置されている。
昼間とは違った雰囲気の公園にサクラは軽く身震いし、足早に横切ろうとする。
だが、サクラは人の気配を感じて立ち止まった。
かすかに耳に届く、何かのぶつかるような音。
なんだろう。
不審に思いサクラは物音のする方へ足を向けた。

公園の中でも一番木の密集する場所に、サクラと同じくらいの背丈の子供が立っていた。
「あれ、ナルト?」
暗がりに目を凝らしてサクラが呼びかける。
それはまさしくナルトだった。
振り返ったナルトは目を丸くしてサクラを見る。
「サクラちゃん。どうしてこんなところにいるんだってばよ」
「それはこっちの台詞よ」
サクラはずぶ濡れのナルトに近づき自分のさしている傘の中にナルトを入れる。
「何してたの」
「秘密特訓。でも、ばれちゃったから秘密じゃないか」
ナルトが頭をかきながら笑った。

「今日の7班の練習で、俺ずいぶん的はずしちゃったからさ、ちょっと特訓しようかと思って」
サクラが木々の間に視線を向けると、確かに的が掲げられ、周りにクナイが刺さっている。
屈託のない笑顔を見せるナルトに、なにもこんな雨の中やらなくても、とサクラは呆れた顔をした。
「馬鹿。風邪ひいちゃうでしょ!よく拭きなさいよ」
サクラは鞄から取り出したタオルでナルトの顔をごしごしとこする。
「それに、こんな時間まで特訓なんてしてたら家の人が」
と、そこでサクラは言いかけた言葉を切った。
うっかり失念してしまったが、ナルトは一人暮らしだ。
待っていてくれる人がいないからこそ、こんな時間まで特訓をしていたのだろう。

サクラが気まずそうにナルトを見やると、微笑んでいるナルトと目が合った。
「何よ」
サクラは訝しげに訊ねる。
「うん。嬉しくって。心配してくれて有難う」
「・・・本当に馬鹿ね」
より一層ニコニコと笑うナルトからサクラは視線をそらした。
何故だか涙が出そうになるのを、サクラは必死でこらえていた。

ナルトを取り巻く状況が厳しいことは分かっている。
本当は自分が羨むような境遇では、決してない。
面倒くさがりでいい加減なように見えて、ナルトは見えないところでこうして努力もしている。
サクラがナルトにすぐに追い抜かれてしまうのは、体力面の問題だけでなく、自分が鍛練を怠っているせいもあるだろう。
なのにサクラはナルトを妬む気持ちを止められない。

「今日はもう帰りなさいよ。この傘貸してあげるから」
サクラは父親のために持ってきた傘をナルトに渡す。
「え、でもこれ」
「お父さんのだけど、この傘使って二人で帰るからいいわよ」
サクラが自分の傘を示して言った。
ナルトはサクラから彼女の父親の傘を素直に受け取る。
「サクラちゃんはやっぱり優しいね」

 

やっぱりナルトはずるいわ。
そんなこと言われたら、どうしたってナルトのことを嫌いになれそうにない。
自分がどんなにそっけなくしても、いつだってひたむきは視線を向けてくるナルト。
優しいのはあんたの方よ。

そして。

「私さ、たぶんあんたのこと好きなんだわ」

何気なくサクラの口から漏れたその言葉に、傘を片手に散らばったクナイを拾い集めていたナルトは驚いて振り返った。
佇むサクラの顔はそれまでと変わらず全くの無表情。
あまりに突然の告白、そしてサクラのつれない態度からナルトは今の言葉は風雨の中で聞き間違ったのだと思った。
確認したくても、にこりともせずにナルトを見つめているサクラに、なんとなく切り出せない。

サクラの中で、ナルトになんか負けたくないという卑屈な思いは、いつしかナルトに置いていかれたくないという切実な願いに変わっていた。
ナルトを憎らしいを思う気持ちと全く同じ比率で、ナルトを大切だと思う気持ちがサクラの心に混在している。
これが恋愛感情なのかどうかなんてサクラには分からない。
それでも、自分がナルトに惹かれていて、その成長を喜ぶ人間の一人なのだということをサクラは十分理解していた。

「あまり遠くに行かないでね」
曖昧な顔でサクラを見るナルトに、彼女は小さな声で呟いた。


あとがき??
サクナル(ナルサク)と秘密特訓という条件はクリアしたものの、「涙のわけ」のようなイメージというのからはかけ離れてしまった。
済みません、済みません。
でも、リクエストがなかったら頭に浮かばなかっただろうし、書くことはなかった話。

ジレンマに陥るサクラちゃん。
自分が一番でありたいという思いと、自分に好意を持ってくれているナルトへの思いが交錯している様子。
好き好きーって言ってくれて、さらにその人が良い人だったりしたら嫌いになれる人はめったにいないと思う。
サクラ、嫌な娘になってしまって、きっと嫌われちゃうわ。(オロオロ)

リクエスト小説なんてはじめてなもので、どうなることかと思ったけど、無事書き終えてよかったわ。
できはともかく。(汗)
もっと時間かかると思ったのに、書き始めたらすらすらと筆が進んだ。不思議。

たつ子様、1234HIT、有難うございました。


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