狐の怪 壱


今回、7班が任務のために訪れたのは、人里を遠く離れた森の中にある、古びた寺院。
今夜は寺に住み込みで働く者達の宿舎に泊まる手筈になっている。
知る人ぞ知る由緒ある古刹らしいが、まだ子供であるナルト達にしてみれば、大きいけれどボロい寺、という感慨しかない。

「で、このおんぼろな寺で何をすればいいわけ」
ナルトの率直な言葉に、カカシが苦笑しながら答える。
「実は最近この寺の周りで幽霊騒ぎがあってね。その真偽を確かめて欲しいって依頼なんだ」
「・・・幽霊?」
カカシの言葉にナルトが青ざめる。
「怖いのか」
嘲笑を含むサスケの声に、ナルトが大声で反発する。
「ば、馬鹿言うなってばよ。全然怖くねーぞ」
震えながらそんなことを言っても全く説得力はないが、サスケはナルトを小馬鹿にした笑みを浮かべただけで何も言わなかった。

やがて現れた住職に案内され、ナルト達は寺の周囲を一周する。
「この池は初代が建立された灯篭が・・・」
相槌を打って話に耳を傾けるサクラと違い、ナルトは住職の薀蓄はあまり耳に入らない様子で欠伸をしながら列の後ろを歩いている。
頭にあるのは、こんな辺鄙な場所で夕食は期待できないなぁ、等々、くだらないことだけだ。

出発が早朝だったこともあり、ナルトが目をこすりながら歩いていると、微かに、動物の鳴き声が聴こえたような気がした。
振り向くと、木陰に小さなお堂のようなものが見え隠れしている。
先ほどからの住職の話には、このお堂は全く登場していなかったと思う。
古いと思っていた寺の本堂より、さらに年代を重ねたそのお堂をナルトは見つめ続けた。

何故だか、あの場所で誰かが自分を呼んでいるような・・・

立ち止まっているナルトに気付いたサスケがナルトに声をかけた。
「何やってんだ」
「え、うん・・・」
ナルトは視線を一度サスケに向けたが、またお堂の方を振り返る。
いつになく真顔なナルトに、サスケは怪訝な顔をした。
「どうかしましたか」
住職も心配そうにナルトに問い掛ける。

「あの建物は?」
ナルトが指を指すと、住職は「ああ」と頷いて答えた。
「あれは昔、行事の時に使われていた建物です。でも老朽化が進んだので、今は物置になっています。先代が使っていた日用品などつまらないものしか置いてないですよ」
「へぇ」
ナルトは視線を動かすことなく声を出した。

 

その夜。
宿舎を抜け出したナルトは、あのお堂の前に来ていた。
どうしても、気になるのだ。
あの時聴こえた動物の声。
あれは絶対に自分を呼んでいた。
貸し出された寺の浴衣を着ているだけのナルトは、夜風に小さく身震いした。
梟の鳴き声が微かに林に木霊するだけの、静かな夜だ。
宿舎から少し離れた場所にあるこのお堂は、間近で見るとさらに古いという思いが強くなる。
ナルトは扉に手をかけたが、たてつけが悪くなかなか開かない。
むきになってガタガタと大きな音を出していると、そのすぐ背後から声をかけられた。

「何してるのよ」
ナルトが驚いて振り返ると、そこにはナルトと同じ浴衣に丹前を羽織ったサクラが立っていた。
「サクラちゃん?何で」
「あんたが出てくのが見えたから、気になってついてきたのよ」
旅先ではいつも寝付きの悪いサクラが厠から帰ってくると、ナルトがちょうど部屋から出てきたところだった。
本当は少量の夕食に不満げだったナルトが食堂につまみ食いにいくのでは、と心配であとをつけたのだが、それは言わなかった。

「それにこれたぶん引き戸よ」
ナルトが開けられなかった戸をサクラは易々と引いた。
「・・・本当だ」
がっくりと肩を落としたナルトとサクラは並んでお堂の中へ入った。

埃っぽい空気にサクラは顔をしかめる。
小さな灯火を掲げると、住職の言ったとおり、壊れた茶碗や、破れた番傘など、ろくなものが置いてない。
「あんた、こんなところに何の用があったの」
「うーん。俺にもよく分からないんだってばよ」
ナルトは頭をかきながら答える。
呆れたように自分を見るサクラを振り返ると、その背後にある棚に、大きく「封」と書かれた紙の張られた小箱が置いてあるのがナルトの目に入った。
ナルトはまるで吸い寄せられるようにその箱を手に取る。

「何、それがどうかした」
「気になるんだ」
封の紙をはがそうとするナルトを、サクラが慌てて止める。
「ちょっと、人の物を勝手に触ったらまずいんじゃないの。何だか「封」とか書いてあるし」
「でも」
「やめなさいよ」
二人で小箱の引っ張り合いをしていると、黄ばんだ古紙だった「封」の紙はボロボロと崩れ落ちた。
『あ』
思わず声をはもらせて同時に手を離したため、小箱は見事に落下し、中身が床に転がった。

 

「ナルトはまだ起きてこないのかー。サクラも、どうしたんだ。俺ちゃんと朝食7時って言ったよなぁ」
翌日、朝食の時間になってもナルトは現れなかった。
ナルトの寝坊はともかく、サクラまでが食堂にいないことにカカシは驚きを隠せない。
「サクラはお手伝いのおばさんに様子見に行ってもらうから、ナルトはお前起こしに行って来てよ」
カカシの言葉に、サスケは嫌そうな顔をしながらも、しぶしぶ食堂の椅子から立ち上がった。

宿舎の空き部屋がちょうど7班の人数分あったため、それぞれが個室を与えられている。
盗まれるものなどないために、鍵のかけていないナルトの部屋の扉をサスケが乱暴に開いた。
「おい、起きろ、このウスラトンカチが!」
掛け布団から顔を出しているナルトは、サスケの声などものともせずに大いびきをかいている。
舌打ちをしながらも、布団に近づいたサスケは、おもむろに掛け布団をはいだ。
「起きろって言って・・・」

次の瞬間。
サスケの叫び声が宿舎全体に響いた。

食堂まで届いたその声に、何事かとカカシが急いで駆けつける。
「なんだ、どうしたんだ!?」
ナルトの部屋の扉すぐ近くに、腰を抜かしたサスケが座り込んでいるのが見えた。
「おい」
カカシが声をかけても反応はない。
その視線の先に顔を向けると、カカシ自身も硬直して動きを止めた。

熟睡しているナルトの隣りには、もう一人の人物がすやすやと寝息をたてていた。
ナルトの腕にしっかりと手を絡ませて寝ているのは、サクラだ。
寝相の悪いナルトの浴衣は腰にある紐の部分しか残っていないが、サクラの方も襟元がすっかりはだけて、足は太ももが露わになっている、かなり際どい状況だ。
サスケが仰天したのもしょうがないことかもしれない。
わらわらと他の従業員が集まってくる気配を感じて、カカシは慌ててナルトの部屋の扉を閉める。

冷や汗をかくカカシの頭にまず最初に浮かんだのは、
「何か間違いがあったとしたら、サクラの両親になんて言って謝ろう」
その事だった。


あとがき??
楽しかったです〜〜。
凄いところで区切ってしまって申し訳ない。(笑)
後編は当分先。
ナルサクは時間かかるのですよー。カカサクの方がすらすら書ける。
後編によっては前編も書き直すかもしれないです。
でも、書きたかったシーンの一つは書けたから、もう満足かな。
どこの部分かって?
うろたえるサスケ君ですよ。(笑)

カカサクが絡まない7班の任務の話をまともに書くのは初めてだわ。
後編は結構ナルサクというかサクナルというか、ベタベタがテーマなので、嫌いな人は見ない方がいいかも。
カカサク的要素は意地でも入れますけど。(笑)
カカシ先生が朝食に遅刻しなかったのは、寺の人に迷惑がかかるからです。
つまり、いつもは下忍達に迷惑かけてもかまわないと思ってるのです。修行のうちだと。最悪ですね。(笑)


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