狐の怪 参


カカシとサスケが情報収集のために外に行ってしまうと、ナルト達はとたんに暇になる。
寺の境内の長椅子に腰掛けているナルトの傍らには、彼に凭れ掛かるように寄り添ったサクラの姿があった。
サクラは相変わらずナルトにくっついて片時も離れない。
サクラの着替えや風呂などの細々とした身の回りの世話は寺のお手伝いのおばさんに頼んでやってもらっているが、それですら扉の向こうからナルトが絶えず声をかけてないと泣き出してしまう。
食事もナルトの手ずから口まで運ばないと食べることはない。
傍から見るとラフラブ新婚カップルにしか見えないその状況に、カカシは食事のたびに恨みがましい視線を向けている。

日々、とくにすることのない二人は付近を散策をするか、こうして椅子に座って日向ぼっこをしているかのどちらかだ。
だが、こうした生活も明日には終わる。
住職は「札が完成したので、明日封印の儀式を行います」とナルト達に告げた。
その前に。
ナルトにはどうしても挑戦したい野望があった。

 

「サクラちゃん!」
ナルトはサクラに向き直り、その名を呼ぶ。
サクラは嬉しそうに微笑むといつものようにナルトに抱きついてきた。
「うわ。ちょっと、違うってば」
これはこれでとても喜ばしいことなのだが、ナルトが今やろうとしているのは別のことだ。
ナルトはサクラの肩を掴んで身を離すと、その顔を覗き込む。

「好きって、言ってみて」

ナルトからは何十回と言い続けてきた、その言葉。
だが、サクラから同じ言葉が返ってきたことは、ついぞ無い。
この状況を利用するのは、我ながら卑怯だと思うが、それでも、サクラの声でどうしても聞きたかった。
初めての「好き」という言葉を。

ナルトの真剣な声音に普段と違った空気を感じたのか、サクラはきょとんとした顔をしている。
「好き。分かる?す、き」
ナルトは自分の口元を指差すと、大きく口を開いて何度も同じ単語を繰り返す。
いくらナルトがやっきになっても、サクラはただ不思議そうにナルトを見詰めるのみだ。
ナルトの言葉を理解しているようには、到底見えない。

 

やっぱり駄目か、とナルトが肩を落とした時。
ふいに、サクラが顔を近づけてきた。
驚く暇もなく、唇を合わされる。
ナルトが硬直してまるっきり動けないでいると、やがて顔を離したサクラがにっこりと笑って言った。

「なると  すき」

ナルトの瞳が大きく見開かれる。
とっさに声が出なかった。
望んでいたことのはずなのに、実際に耳にすると頭が真っ白だ。
「すき すき すき」
その間にもサクラはまるで壊れたレコードのように繰り返している。

以前事故で他の奴とキスをしたときは、気持ち悪いとしか思えなかった。
でも、今のサクラとのキスは。
やわらかくて天にものぼるくらい、気持ち良かった。

「どうしよう。すっげー嬉しい」
思わずこぼれた涙を袖口で拭うと、ナルトはサクラをきつく抱きしめた。
サクラもナルトの背に手を回してそれに応えてくる。

サクラの中にいる狐が、意味も分からず「好き」と言ったのであって、サクラに言われたのではない。
分かっている。
分かっているのに、たまらなく嬉しい。
ナルトは自分の腕の中の暖かい存在を離したくないと、強く思った。

「このまま二人でどっかに逃げちゃおうか」

サクラの額に自分の額を合わせて見詰め合う。
その時ナルトの口から漏れた言葉は、紛れもなくナルトの心からの気持ちだった。

 

「ビンゴだ」
夜中になって帰ってきたカカシは、ナルトの部屋に入ってくるなり、勢い込んだ様子で言った。
「やっぱり幽霊事件は、無くなった狐の陶器と関係していた」

調べによると、最近入山した小坊主が賭け事にのめりこみ、借金の返済のために狐の陶器を盗み出し売りさばいたのだ。
遠い地に売られた陶器に宿った狐の霊が、寺にいる片割れを捜すために夜な夜な現れたのが幽霊の正体だった。
こちらの場合は封を解かれなかったために、手近な人間に取り付けなかったようだ。
それなのにわずかな時間とはいえ思念体が封を破って抜け出していたとは、二匹の狐の間にはよほど強い絆があるのだろう。

「・・・その霊が妻を捜してるって言っていたのは?」
「だから、封印された狐はつがいだったの」
つがい。
つまり、雄雌の一対。
サクラの中にいるのは、たぶん雌の方の狐。
「これで明日サクラに憑いた狐を封印して、二つの陶器を並べて置いておけば、元通りだよ。良かったなぁ」
カカシはナルトの隣りにいるサクラの頭をなでながら言った。
晴れやかな笑顔と浮かべるカカシとは対照的に、ナルトは終始全くさえない表情で俯いていた。

 

その夜だった。

サクラを連れたナルトが、人知れず寺を抜け出したのは。


あとがき??
また終わりませんでしたーー!!申し訳ない。(土下座)
みーんなナルトのせいです!予想外の展開に私もビックリだよ。
なーんにも考えないで書いてたら、段々ナルトが勝手に動き出しちゃってー。
一体、どうなるんだ!!!まて次号!

補足。サクラに取り付いた狐が喋れないのに、もう片方はちゃんと人語を喋っているのは、こっちの方が長く生きてたからです。
そんだけ。

続き、本当にどうしよう・・・・。(オロオロ)ナルトの馬鹿―!!


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