高嶺の花 2
ナルトなんて嫌いだ。
いつでも本音を心の内に隠して、表面的な優等生を演じているサクラ。
対して、ナルトはいつもまっさらだ。
裏表無く、正直な気持ちをそのままぶつけてくる。
彼の中には、1mmの悪もない。そんなナルトといると。
サクラは自分がひどく打算的で、嫌な人間に思えてきてしまう。これ以上ナルトが傍にいれば、きっと自分のアイデンティティーは破壊されてしまう。
「サクラ、このごろ変だよ」
振り向くと、カカシが真面目な顔つきでサクラを見詰めていた。
サクラは不機嫌そうに眉を寄せる。
せっかく早くに任務が終了したというのに、わざわざ呼び出され、しかも第一声がそれ。
サクラは憮然として言い返す。
「何がよ」「ナルトのこと、さけてるだろ。どうして?」
「・・・・」
サクラは睨め付けるようにしてカカシを見た。
静かな、それでいて、逆らうことを良しとしない視線がサクラに向けられている。
無言の重圧。長いようで、短い時間が経過し、先に音を上げたのは、サクラの方だった。
「・・・嫌いだから」
目をそらしたサクラは、しょうがなく、口を開く。
たった一言の弁解。
それ以上の追求を拒むように、サクラはカカシに背を向けている。カカシはため息混じりに呟いた。
「・・・まぁ、いいけどさ。目の前でいちゃつかれるよりは。でも」
いったん言葉を切り、カカシはことさら口調を強くして言った。「あいつ、今にも死にそうな顔してたぞ」
サクラは重い足取りで家路を歩いていた。
カカシの言うとおり、サクラは必要以上にはナルトに関わらないようにしてきた。
これまでと同じようで、全く違う。
ナルトが話しかけてきたら、乱暴にだが、サクラはきちんとした口調で答えていた。
でも、ここ最近は、冷たい調子で二つ三つ言葉を返すだけだ。
ときには、返事すらなく、無視することもあった。それなのに。
ナルトは全くくじけずサクラに接してくるのだ。
必死な様子で、サクラのあとを付いてくる。傷ついていないはずはないのに。
考え事をしている間に、サクラは家の前までたどり着いた。
でも、なかなか玄関先にまで進もうとしない。
カカシの言葉が、気に掛かっている。サクラの前では、明るく振る舞っていたナルト。
でも、カカシの目には、全てお見通しだったらしい。
たぶん、そちらのナルトが正しい姿なのだ。考えるよりも先に、サクラは踵を返し、家とは逆方向へ走り出していた。
その場所へたどり着いたサクラは、すぐに目的の人物を見つけだす。
頭に、昔のナルトと同じゴーグルを付けた子供。
彼ならば、たぶん、知っている。「ねぇ、ナルト、どこにいるか知らない?」
息を切らしたまま訊ねる。
他の子供達と遊んでいた達木ノ葉丸は、驚いた顔でサクラを仰ぎ見た。
『ナルトの兄ちゃんなら、今日はダルマ池の方に行ってるよ。何しに行ったのかは知らないけど』
木ノ葉丸から入手した情報。
サクラは言われたとおり、池のほとりまでやってくる。
だが、そこには全く人影がない。
木立の中にあるこの池には、普段からあまり人気がないのだ。「本当にここに来てるのかしら」
サクラは半信半疑に呟く。
それでも、暫らく周囲をうろついていると、サクラはふと、あるものに目を留めた。
見覚えのある履物。
ナルトの、普段履いているものと一緒だ。サクラが近づいてみると、近くに鞄も置かれていた。
「うずまきナルト」と汚い字で書かれている。
その二つは間違いなく、ナルトのものと思ってみていいだろう。
だが、肝心の本人がいない。「どこに行ったのよ、あいつ」
サクラは不満気にぼやく。
脱ぎ散らかした履物の先は、池がある。
ナルトの次の行動を、サクラは何となしに予想してみた。
『あいつ、今にも死にそうな顔してたぞ』
サクラの脳裏をよぎる、カカシの忠告。
直後、サクラは真っ青な顔をして池の淵を見詰めた。まさか。
思い余って自殺を。
「ナ、ナルト!!!」
サクラは半ば悲鳴まじりに呼びかける。
だが、池は波紋ひとつ立たない。
視界の隅に入るナルトの靴が、いっそう不安をあおる。
今の季節は冬だ。
まともな神経なら、裸足で歩くことはしない。
まして、冷たい池に入るはずもない。思わず、サクラは池の中に足を踏み入れた。
「ちょ、ちょっと、冗談じゃないわよ!!」
数センチ浸っただけで、池の水は凍りつくような冷たさ。サクラの歯がガチガチと鳴った。
これは、寒さのせいだけではない。恐怖だ。
「ナルト、出てきなさいよ!いるんでしょ!!」
強く呼びかける。
だが、返事は全く返ってこない。
池は小規模なもので、この付近にいるのなら、サクラの声は絶対に聞こえるはずだ。
「ナルト!!!」
サクラの必死な声は、周りの木々に吸い込まれていく。
絶望的な気持ちだけが、サクラの心に広がる。
上空では、サクラの心情に呼応するかのように、雲が太陽を覆った。
それだけで、木立の風景は一変する。
わけの分からない虫や鳥の鳴き声が、強調されてサクラの耳に届く。知らずに、サクラの瞳から涙がこぼれた。
こんなはずではなかった。
ただ、ナルトが自分から少しばかり距離を取ってくれればいいと思っていたのだ。
「やだ、出てきてよぉ・・・」
サクラの嗚咽が響く。
感覚が麻痺してしまったのか、膝まで水に浸かっているというのに、サクラはすでに冷たいとも思えなくなっていた。
あとがき??
つーづいちゃったー。
一応カカシ先生を登場させたので、カカサクもクリアということにしておいてください。(詐欺!)
何か、いろんな話をミックスさせた感じになってしまったので、元ネタばらしは3で。
というか、続きを全く考えないで筆の赴くままに書き綴っているので、変な話だわ。
もーーっと短い話だったはずなんですけど。あれ。
唐突にラブになってても、許してください。