高嶺の花 1


「お花みたいだ」

 

すれ違ったくの一クラスの女子達を遠目に眺めながら、ナルトがポツリと言った。

場所は、アカデミーへと続く道の途中。
サクラは図書館へ本を借りに、ナルトはイルカに会いに。
同じ道を並んで歩いていた二人だが、ナルトは立ち止まったまま動こうとしない。

「はぁ?なに言ってるのよ。突然」
変わらぬ歩調で歩いていたサクラは、数歩さがった場所にいるナルトを訝しげに見る。
「うん。女の子ってお花みたいだなぁって思って。それぞれ個性があるけど、皆可愛いよね」
顔を背けたまま、呟くナルト。
ナルトが真顔なものだから、サクラもどう対応したらいいのか困った。
そうね、とでも言うべきなのだろうか。

「でもね・・・」
ナルトは視線をくの一達からサクラに移すと、にっこりと微笑んだ。

「一番可愛い花は、サクラちゃんだよ」

ナルトはにこにこ顔で、さらりと浮いた言葉を口にする。
一瞬の間をあけて、サクラは耳まで真っ赤になった。
これが冗談だったら笑って済ませるのだろうが、ナルトが大真面目に言っているのが分かるだけに、始末に負えない。

 

「あれ、サクラちゃん顔赤いよ」
サクラの異変に気付いたナルトが、気遣わしげな視線を向ける。
「熱でもあるんじゃ・・・」
「う、煩いわね。あんたにはついていけないわ!」
乱暴な口調で言うと、サクラはそのままナルトを睨むようにして見る。

「昼間っから寝ぼけたこと言ってるんじゃないわよ。馬鹿!」
捨て台詞を残して、サクラは唐突に駆け出した。
その剣幕に、ナルトが驚いている間にも、みるみるうちにサクラの姿は遠ざかっていく。
途中まで一緒に行こうと言ったのは、サクラの方だったというのに。
サクラが怒り出したわけが分からず、ナルトは首をかしげてサクラの後ろ姿を見送った。

「俺なんか悪いこと言ったかな・・・」

 

 

その日の夕方。

サクラは母親から買い物を頼まれ、散歩がてらに遠回りをして帰路を歩いていた。
余った小銭で少しばかり買い食いをし、近所の公園を突っ切る。
この公園を通れば、自宅まではもう目と鼻の先だ。

公園の出入り口付近に差し掛かったとき、ふいに耳についた声。
サクラは立ち止まって暫し耳をすます。
その声は、確かにサクラの知る辺のものだった。

習慣から、気配を消して近づき、木の影から様子を窺う。
数メートル先のベンチに座っているのは、ナルトと木ノ葉丸。
先ほどの声はこの二人のものだ。
彼らは何やら熱心な様子で話し込んでいた。
サクラの位置からは横顔しか見えないが、何をそのように真剣に話しているのかと、サクラは気配を殺したまま二人の会話に耳をそばだてた。

 

「あのサクラって姉ちゃんのどこがいいわけ?」

最初に聞こえてきたのは、意外にも自分の名前。
同じ名前の別の人間かとも思ったが、どうやらサクラ自身のことだ。
どうもサクラは二人の前に出て行くタイミングを逃してしまった。

「確かに顔は可愛いけどさ、頭が良くて気が強いなんて最悪じゃん。でこも広いし。俺はこの前ナルトの兄ちゃんといたヒナタって子の方がいいと思うな」
サクラが聞き耳を立てているとは露ほど知らず、木ノ葉丸は好き勝手言っている。
呼応するように、ナルトはくすくすと笑い声を立てた。
「そうだね」
あっさりとした肯定の返事。

サクラのこめかみの血管が大きく波打つ。
震える手で握りこぶしを作ったサクラはさっそく飛び出していこうと構える。
怒りは最高潮だ。

「でもさ・・・」
サクラがずいと足を進めると同時に、ナルトが口を開いた。
そして、続くナルトの言葉に、サクラの動きはすっかり止まってしまった。

「でも、俺はサクラちゃんがいいんだ」

 

はにかむようにして笑うナルトに、木ノ葉丸は少し顔を赤らめた。
子供の木ノ葉丸でさえ、ナルトの純真さは関心するものがある。
「・・・ナルトの兄ちゃんって結構凄いことはっきりと言うよね」
「そう?」
とぼけているのか、本心からなのか、ナルトはけろりとした顔で返す。

その時、覚えのある気配に気付いたナルトが視線を動かした。
「あれ、サクラちゃん?」
木ノ葉丸がギョッとして振り返ると、確かに目と鼻の先でサクラが佇んでいる。
サクラの姿を認めると同時に、ナルトは顔を綻ばせる。
彼女に会えた事が、嬉しくて仕方が無いというように。
「サクラちゃん」

 

悪口を聞かれたかと青ざめた木ノ葉丸とは対照的に、ナルトは邪気のない様子でサクラに駆け寄った。
「何、買い物?」
サクラの鞄を見て、笑いながら問い掛ける。
と、ナルトの表情がそのまま固まった。
「さ、サクラちゃん?」
狼狽した様子で呼びかける。

泣いていたからだ。
眼前にいるサクラが。

 

「・・・私、あんた嫌いよ」

サクラは袖口で涙を拭いながらくぐもった声を出す。
泣き続けるサクラに、木ノ葉丸は右往左往し、ナルトはただ当惑気味に眉をひそめた。


あとがき??
ナルサク、という要求しなかったので、そのまんま。
カカサクは、果たして入るかな。頑張ろう。


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