かなわないこと


サクラはすっかり意気消沈していた。
サスケに振られたのは、これで何度目だろう。
アカデミー時代から数えたらきりがない。
諦めに似た思いが胸中をよぎっても仕方の無いことだ。
遠ざかっていくサスケの後ろ姿を見詰めながら、サクラは大きくため息をつく。

「ねぇねぇ、サクラちゃん。あんな奴放っておいて、俺とどっか遊びに行こうよ」
任務も終了し、サクラのもとにはナルトだけが残っていた。
サクラは力なく傍らのナルトを見やる。
好意の塊のような視線。
サクラの目に、自分にしつこく言い寄ってくるナルトと、サスケを必死で追いかける自分の姿が、重なった。

このままじゃ駄目だと、サクラははっきりと感じた。
自分がナルトに何の興味も持っていないように、きっとサスケも自分のことを何とも思っていないのだろう。
そう考えると、ナルトが急に憐れになってくる。

「ナルト」
サクラはナルトを横目に見ながら声を出す。
「もしさ、火影になるのをやめたら私がナルトのこと好きになるって言ったら、どうする?」
「え・・・」
「逆にね、火影になったら私はナルトのこと嫌いになっちゃうのよ。よーく考えなさいね」
ナルトに口を挟む間を与えず、サクラは矢継ぎ早に質問をした。

 

ナルトの夢。
火影になり、里の皆に自分の存在を認めてもらうこと。
それを十分に承知したうえでの、サクラの問いかけ。

思ってもいない案を提示されたナルトは驚きに目を瞬かせている。
その様を、サクラは面白そうに見詰めた。
憂鬱な気分を晴らすための、遊び心半分の嫌がらせ。

“火影”になることと、“サクラ”。
どちらが大事か。

ナルトが“火影”を選べば、サクラは怒ってナルトを相手にしなくなる。
“サクラ”を選べば、サクラはナルトの夢はその程度の気持ちだったのかと罵るだろう。

ナルトが困るのを見ようというサクラの思惑に反し、彼はあっさりと答えを返してきた。

 

「俺は火影になるし、サクラちゃんも手に入れる」
ナルトは、断言するように、力強い声を出した。
「え!?」
思わず聞き返したサクラに、ナルトは大真面目な表情で返す。
「両方諦めないよ。だって、どっちも大切だもん」

呆れかえったサクラは怒気を含んだ声でナルトに向かった。
「あんたね、どっちか選べって言ってるんでしょ!」
「選ばない」
「それじゃ答えになってないのよ」
「俺、考える。両方とも手に入る方法」

一歩も引かないナルトは、少しもサクラの意見を聞こうとしない。
怒る気も失せ、サクラは額に手を当てた。
よくよく考えると、いかにも、ナルトらしい答え。
思わず、苦笑をもらしたサクラはナルトの頭を軽く小突いた。
「・・・我が儘ね」

当然のことだが、本人が駄目だと思ってしまったら、夢は夢のまま終わってしまう。
本当に夢を叶える人というのは、もしかしたらナルトのように我が儘で子供な、諦めの悪い人間のことを言うのかもしれない。

 

「何か、元気出てきたわ。ありがとね」
自分の言いたいことだけを告げると、サクラはあっさりと踵を返す。
その顔は、すっかりいつもの明るい表情を取り戻している。
ナルトとのやり取りはすでに消え失せ、頭の中は明日どのようにサスケにアプローチをするかで一杯だ。

残されたナルトは一人首を傾げている。
ナルトにはサクラの一連の行動の意味が全く見えてこなかったが、サクラが元気になったのは良いことだと単純に思っていた。


あとがき??
これ、思いついたときはナルヒナな話だったんですけど、書いたらナル→サク→サスになってしまった。あら?
ヒナタちゃん、影も形もないよ。うーん。おかしいなぁ。
私にはナルヒナは向いていないのか。やはり。一度は書いてみたいんだけど。(一度で良い)
人様の描くナルヒナは大好きなのだが。自分では無理そう。
いや、私ナルヒナよりネジヒナ、キバヒナ好きーだし。紅ヒナ、シノヒナも良い。
・・・ヒナタちゃんってば、本当にお姫様だなぁ。(羨)

ナルトは「選べない」でなはく、「選ばない」人なのです。
藪蛇(=余計なことをしてかえって悪い結果になる)状態のナルトの話でした。


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