ノゾミのなくならない世界


任務の合間の休憩タイム。
サクラちゃんはいつものようにサスケに弁当の包みを持っていく。
受け取ってもらえたためしがないのに、毎日作ってくる。
俺には健気で可愛いと映るのに、サスケにはそうではないらしい。

木陰に座って様子を見ていると、案の定、サクラちゃんはとぼとぼと肩を落としてこっちに向かって歩いてくる。

「あげる・・・」
「俺、パン持ってきてるんだけど」
「そんなの夕飯に食べなさいよ」
サクラちゃんはサスケ用の弁当を無理矢理俺に押しつける。

一応断わったけれど、これは毎日のお決まりの会話。
同じことを何度も繰り返す彼女に、密かにこれはサクラちゃんなりの気遣いなのかと思ってしまう。
菓子パンの弁当の続く俺を憐れんでの。

 

 

「サクラちゃん、料理の天才なんじゃないの!」
サクラちゃんを喜ばせるための美辞麗句ではなく、本当にそう思う。
弁当のおかずはどれも食べたことのない味で、俺はひたすら「美味い」を繰り返した。
この弁当を拒むサスケはとんでもないあほんだらだ。
「馬鹿ねぇ」
サクラちゃんは苦笑して、でも嬉しそうに俺を見る。

「ねぇ、あんたは悩みなんてないんでしょう」
自分の弁当を食べ終えたサクラちゃんは、ちらりとサスケのいる方角に視線を向けてため息をつく。
サクラちゃんの目下の悩みは恋愛ごと。
俺の悩みは・・・・。

「あるよ」
「嘘!」
俺の返答に、サクラちゃんは弾かれたように振り返る。
よほど意外だったらしい。
「何、何?言いなさいよ」
「・・・・内緒」

直後、サクラちゃんに後頭部をはたかれた。

「馬鹿!」
「どうせ、馬鹿だよ、俺は」
憤るサクラちゃんに、俺は開き直った。

 

 

誰にもうち明けることの出来ない、悩み。

たとえば。
俺の中にいる九尾の妖狐の存在を知っても。
サクラちゃんはこうして俺に接してくれるだろうか。

ふざけて俺の頭を叩いたり。
笑いかけてくれる?

 

 

「馬鹿だよ・・・本当に」
自嘲気味な呟きがもれる。

 

 

そんなこと、あるはずないのに。

だって、妖狐がいる。
里を滅ぼしかけて、里の人間を大勢殺した化け狐が。

以前は、里の人間達からの理不尽な扱いに怒りが先に立った。
だけれど、真相を知った今では仕方がないと思う。
自分ですら怖いのに、他人が狐つきの俺を遠ざけようとするのも。

きっとサクラちゃんも。
全てを知ったら、大人達のように嫌悪と怯えがない交ぜになった目で俺を見るようになるんだ。

 

それは彼女が悪いわけではなく。

当たり前のこと。

 

 

「・・・どうかした?」
箸を握り締めたまま黙り込んでいる俺に、サクラちゃんが不安げに呼び掛ける。
首を振った俺は、何とか笑顔を作った。
つもりだけど、うまく頬は綻んでいなかったかもしれない。
サクラちゃんが心配そうに自分を見詰めていたから。

 

サクラちゃんがいて。
イルカ先生がいて。
サスケがいて。
カカシ先生がいて。
そうした仲間と呼べる大事な人達に囲まれて。

ずっとこのままでいられたらいいのに。

 

それは俺にとって、あまりに過ぎた願いで。
知らずに、涙がこぼれた。


あとがき??
・・・・あれ、ナルト一人称ってもしかして初めて?(うろ覚え)
タイトルは『ブラック・マトリクス』から。


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