観用少女 ―初恋―


「兄さん、僕あれが欲しい。絶対欲しい」
しきりにねだる弟に、兄は心底困った表情をした。
「あれは、そう簡単に手に入る代物じゃないんだよ」
「でも、欲しい。お小遣いためるから、お願い。買って」

弟は、この道を通るたびに、駄々をこねて兄を困らせた。
その場所は、名人の称号を持つ職人の工房の手前の道。
柵の間から垣間見れる庭園には、時折、その工房で作製されたであろう観用少女が姿を見せた。
少女は皆それぞれ愛らしく、見るものはため息をつきながら通り過ぎる。
庶民には到底手には入らない価格の商品だということを、知っていたからだ。
その兄弟にしても同じ事で、高価なものということを十分承知していた弟は、それまで我が儘を言ったことはなかった。

 

「どうしたんだい、お前は。いつからそんな分からず屋になったんだ」
「・・・・」
兄の詰問に弟は俯いて唇を噛む。
弟にしても、大好きな兄を困らせるようなことをしたくはなかったのだ。
だけれど、今回だけはどうしても引くことはできなかった。
「あの子が、僕を呼んでるような気がしたから・・・」
「そうなのか?」
鉄の柵越しに、兄は弟が食い入るようにして見る観用少女へと目を向ける。

一般の人間には立ち入ることのできない敷地内。
今、彼女は大樹にもたれかかって虚空を見詰めている。
薄紅色の髪と緑の瞳を持ったその観用少女が、稀なる極上品ということは、誰の目にも明らかだ。
しかし、兄にはその一体だけが他の少女と異なっているようには見えなかった。

結局弟の再三のおねだり攻撃に、兄が折れたのは三日後のこと。

夜、弟を寝かしつけながら、兄は枕辺で言った。
「分かったよ。今度、父さんが里に帰ってきたら二人で頼んでみよう」
「本当!」
瞳を輝かせる弟に、兄はしっかりと頷く。
そのときの弟の喜びは、いかばかりのもだったか。

 

 

あの頃は、何もかもがきらきらと輝いていた。
未来は明るいものと信じていたし、幸せは永遠に続くものなのだと。
今思うと、子供らしい馬鹿げた幻想だったと、笑ってしまう。

欲しくて、欲しくてたまらなかった。
そして、手にはいることのなかった観用少女。

 

彼女の名前は、何といっただろうか。

 

 

 

「サスケ」
ふいに名前を呼ばれ、遠い日に思いをはせていた俺は一気に現実へと引き戻される。
振り返ると、それは上司であるカカシという名の男だった。
「何してるんだ、こんなところで。うちはもっと先だぞ」
「・・・ああ」
俺は応えるともなしに、声を出す。

懐かしい夢を見たせいか、俺は縁のある場所を散策している最中だった。
ちょうど、呼び出しをかけられた上司の家の付近だったということもある。

観用少女を作る工房だったその場所は、何年も人が住んでいないらしく、空き家になっていた。
草は覆い茂り、噴水の流れる美しい庭園は見る影もない。
付近の住人には、お化け屋敷と呼ばれていると聞いた。
何か、物哀しいと思いながらも、昔のままの光景を留めていなかったことに、安心したりもする。

流れていく時を、俺は自覚しなければならない。
幸福だった過去はけして戻らない。
昔を懐かしむ暇があるのなら、他にすることは沢山あるのだ。

 

 

「で、頼み事というのは何だ」
「俺が任務で里の外に出てる間に、たまにこの家によって世話をしてもらいたいんだよ」
カカシの住居のある建物にたどりつき、俺達は階段を上りながら会話をする。
俺がこのような口をきくと、たいがいの上の人間は嫌な顔をしたものだが、新しい上司のこの男は一度として注意したことがない。
変な奴だと思うが、上司は上司だ。
俺は渋々ながらも彼の頼みごととやらを聞く。

「世話って、ペットか?それとも植物」
「うーん。両方かなぁ」
カカシは曖昧に答える。
その意味は、家にあがるなりすぐに露見した。
「彼女の面倒をみてもらいたいんだよ」
玄関をくぐりリビングに入るなり、俺は硬直したまま動くことが出来なくなった。

 

夢の続きなのかと思った。
俺が喉から手が出るほど欲しいと切望していた観用少女が。
そこにいた。

 

「サクラ」

 

知らずに、名前が口をついて出る。
工房の職人が呼んでいた、彼女の名前。
その名を呼ぶことを、幼い自分は何度も頭で思い描いた。

「え、何か言ったか?」
遅れてやってきたカカシが訝しげにこちらを見ていたが、気にならなかった。
俺の呼びかけに反応し、ソファで横になっていた彼女が目を開いたからだ。
昔のままの、透明な緑の瞳。

目が合うなり自分の胸に飛び込んできた少女を、俺は何の疑問も持たずに抱きしめた。

 

知らない者が見れば、長い間会うことの出来なかった縁者の抱擁と見えたかもしれない。
首筋に腕を巻き付けてくる少女は、これが現実であることを証明する重みと温かさを持っていた。
夢ではないことを実感し、心から安堵する。
俺には、彼女が離れていた十年分の思いを伝えているように感じられた。


あとがき??
・・・あれ、サスサク?カカシ先生、大ピーンチ!いえ、これカカサク前提のサスサクなんですが。一応。
カカシ先生、リベンジなるか!!?
サスケくんは唯我独尊タイプなので、非常に苦労することと思われます。(合掌)
私、基本的にサスサクは好きです。自分が書く作品以外は。だって、うちのサスケって、偽物すぎる。
人様の描かれるサスサクが好き。(微妙な)

今回の話、2のあとがきを書いたときに考えてた話とは、全然違います。
これはこれで楽しいから、いいか。
サスケとサクラの出会いなんだけど、こんなことがあったらカカシ先生が嫉妬するのもしょうがないですわ。(笑)
でも、何にも考えないで書いてるのがよく分かる。伏線なんて、私の駄文に存在しないですよ。(全般的に)
何か、パラレルすぎてこれがNARUTOだなんて言えない・・・。(泣)

 

当然続きがあるんですが(サスケ視点のカカサク)、書くかどうかは不明。
なんか、ここで終わってもいいような気がしてきたよ。(弱腰)
書かなかったら、想像で補ってください。
ちなみに、10年前にサスケが見たサクラは、このサクラではありません。ナルトのサクラ。(わけ分からん)
サスケくん、現在15、6歳の設定。原作同様、復讐者。


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