観用少女 −はじめてのチュウ−


風呂からあがり、タオルで髪を拭きながら居間に来ると、珍しくサクラがTVの画面を夢中で見ていた。
サクラは家にいるとき、大抵寝ているか本を読んでいるかだ。
そんなに面白い番組をやっていたのかと、冷蔵庫から取り出したビールを片手にTVに近づく。

画面が映していたのは、二年ほど前にはやったドラマの再放送だった。
長い間喧嘩友達だった男女が、ある日突然、恋に目覚める。
陳腐なストーリーだが、主演俳優が美男美女だったことがヒットの要因だったと思い出す。
挿入歌が流れ出し、やがてドラマはラストに突入した。

サクラに目をやると、彼女は何が気に入ったのか食い入るように画面を見詰めている。
そして、画面に主人公カップルのキスシーンが映し出されるなり、サクラは不思議そうな顔をして首を傾げた。

 

 

ドラマが終了すると、サクラは傍らにあったクマのぬいぐるみに唇を近づけた。
ドラマの登場人物達の真似をしているのだろう。
サクラは手近にあるコップやペン立てにも次々キスをしていく。

「サクラ、駄目だよー。それは人同士が口にするものだから」
サクラが何か固いものを間違って飲み込んだら大変と、俺はサクラから物を遠ざける。
膨れ面のサクラを横目に、俺の頭に妙案が浮かんだ。
唇を指差して、サクラと向かい合う。
「サークラ。俺にするんだったら、いいぞ」
サクラはきょとんとした顔をして俺を見詰めている。

 

かなり、かなり期待して待っていたのだが、サクラはふいに目を閉じてコテンと横になった。
忘れていた。
サクラはそろそろ就寝の時間だった。

「サクラ。寝るならその前に、おやすみなさいのキスしてよー!」
往生際悪くゆすってみたが、サクラはうんともすんとも言わない。
深々と溜息をつくと、俺はしょうがなくサクラを抱え上げベッドのある部屋へと向かう。

 

 

玄関付近を横切ろうとしたときに、チャイムの音が鳴った。

「はいはいー」
サクラを抱えたままに鍵を開けると、その人物は勝手にノブを回して入ってきた。
すっかりうちに入り浸っている、サスケだ。
「・・・何の用?」
あからさまに邪険な態度を取ったが、サスケは飄々とした顔をしている。
「サクラの顔を見に来た」

思わず握り拳を作りそうになったが、何とか堪える。
今は、腕の中にサクラがいる。
彼女を床に落としたら、大変だ。

 

サクラはというと、いつものように、サスケの声に反応してパチリと目を開ける。
下ろせ、といように俺の腕を掴んできたけれど、俺は離さなかった。
当然だ。
視界に入る範囲でいちゃつかれてたまるか。
俺の頑なな態度にようやく諦めたのか、サクラはサスケに向かって小さく手招きをする。

思えば、このときもっとサクラの行動に注意しておくんだった。

「サクラ」
近くにやって来たサスケに、サクラはにっこりと微笑む。
あっという間もなかった。
身を乗り出したサクラがサスケの唇にキスをしたのは、ほんの一瞬の出来事。
さすがに驚いたのか、サスケは目を丸くして一歩後退した。

「さ、さ、サクラーー!!!」
俺の嘆きを合図に、サクラは再び眠りについた。
今度こそ、何を言っても目覚めなかった。

 

おやすみなさいのキスだ。

サクラは俺に言われるままに実行したのだろう。
物と人の違いも分からないのだから、サクラに非はない。
呪うは、うかつな自分自身だ。

よりにもよって、目の前でサクラのファーストキスを他の男に奪われるなど。
今まで生きてきた中で、一番悔やまれる事件だった。

 

 

むやみやたらとキスをしないようサクラを教育するまで、サスケはうちに出入り禁止にした。


あとがき??
那智さんが読みたいとおっしゃったので、復活しました。(笑)
カカシファミリーシリーズがカカサクナルなのに対し、プランツはカカサクサスですね。
あと二、三個書こうかと思います。カカサクだけじゃないですが。
ちなみに次はリーサクです。

今回のは以前書こうと思ってたのとは、別の話。
那智さんがカカサクサスがお好きらしいので、考えてみました。
創作時間5分なので、短くて申し訳ない。(^_^;)
サクラがドラマを熱心に見ていたのは主演男優がサスケにちょっと似てたからです。
キスしたのも、そのせい。

サクラはカカシとサスケ、どっちを好きなんだ、とか訊かないで下さい。
『ドラえもん』もドラえもんとのび太、どっちが主役だか分からないでしょ。(←関係ない)


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