シーソーゲーム


その日の7班の任務の内容は、いつもどおりの迷い犬捜し。
7班の面々は犬が迷い込んだとされる森の前まで来ていた。
しかし、人数は5人。
平常より、一人多い。

 

「はい、今日は昨日言ったとおり、カブトくんも一緒に仕事するから」
「はーい」
カカシの声に、ナルトとサクラが揃って返事をする。
喜々とした声音で。

カブトの班の上忍が急な任務で里を離れ、スリーマンセルのメンバーが相次いで体調を崩したため、一人残った彼は急遽7班のメンバーと行動を共にすることになったのだ。
カブトの仲間は皆1週間後には仕事に復帰するため、ごく短い期間。
すでに事情を聞いていたナルト達は喜んでカブトを迎え入れる。
いつもなら不平の多い雑務任務だが、今日ばかりは新たなメンバーの手前、皆和やかな雰囲気だ。
中でも、カブトの加入を一番喜んだのは、意外なことに、サクラだった。

 

「カブトさんv」

普段、サスケの傍を離れないサクラが、今日は終始カブトにまとわりついている。
そしてカブトの方も、まんざらでもなさそうな顔でサクラとにこやかに談笑している。
ナルトは何とか付いて行こうとするが、サクラに遮られてしまった。
「私とカブトさんはこっちを捜すから、あんたは、あっちを捜しなさいよ!」
言下に撥ね付けられる。
そうなると、ナルトにはどうすることもできない。
親しげな様子のサクラ達を遠巻きに眺める、ナルトとその他二人。

「おい、サスケ。お前何とかしろ」
仲良くくっついている二人を親指で指し示し、カカシが不機嫌そうにサスケに命じた。
こうなれば、この状況を打破できるのは、サクラの想い人である彼しかいないと思ってのことだ。
「何で俺が」
「上司命令!!」

カカシの切り札に、サスケはぐっと言葉に詰まる。
にぃっと笑う上忍を憎々しげに睨みつけるものの、命令が撤回されることはなかった。

 

「さ、サクラ。昼飯、一緒に食わないか」

サスケは外野からの指図どおり、精一杯の“さわやかな笑顔”を浮かべて言う。
口の端が僅かに引きつっているのはご愛敬だ。
「え?」
「俺と一緒に飯を食おう」
何かの間違いかと訊き直すサクラに、サスケはもう一度繰り返す。

喜ぶよりも先に、サクラは眉をよせて非常に複雑な表情をした。
「・・・サスケくん、何か変なもの食べた?」
怪訝な顔で訊ねる。
嬉しそうな気配は全く、無い。
これだけで、普段のサスケのサクラに対する態度が知れようというもの。
恥ずかしさと混乱で固まっているサスケに、サクラは申し訳なさそうに言った。
「私、カブトさんと食べるって約束したから。サスケくん、カカシ先生に言って身体の具合診て貰ったら?」
サクラの労わりの言葉に、傍らにいたカブトは思わず吹き出した。

 

「・・・何か、これはこれで面白かったな」
「だってばよ」
様子を窺い、悪魔が二人、木陰で囁いていた。

 

 

「何なんだ、あいつは!!」
カカシ達のいる場所に戻ってきたサスケは、すっかりいきり立っている。
人を邪険にすることに慣れていても、逆のことには全く不慣れなサスケだ。
サクラに袖にされたことと、直後のカブトの笑いに、彼のプライドはいたく傷ついたらしい。
「何としても、あの二人を引き離すぞ!!」
「お、おう!」
「だってばよ!」
たきつけておいて、サスケの剣幕にカカシもサスケも呑まれてしまっている。
ともあれ、カブトの存在で7班(の男子)がかつてない程結束していることは確かだ。

「・・・逆効果だったかなぁ」
サクラの肩越しに彼らの姿を見て、カブトがぼそりと呟く。
本来は、自分の潜入により7班内部の崩壊を狙ったつもりだったのだが。
まぁ、機会はこれからいくらでもあるだろう。

「え、何?」
「何でもないよ」
疑問形の言葉で見上げてくるサクラに、カブトは人の良い笑みを返す。
ナルト達に背を向けているサクラからは、握りこぶしを振り上げて団結している彼らの姿は見えない。

その時、どこからか聞こえてきた機械の着信音。
「あ」
言葉と同時に、カブトは鞄に手をやる。
「ごめん。ちょっと連絡が入ったみたい。そこで待ってて」
サクラに言うと、カブトはやや離れた距離にいるカカシに視線を向けた。
「すみません、先生。ちょっと時間ください」
大きめの声で呼びかけたあと、カブトは取り出した通話機を片手に、森の中に入っていく。

何か、聞かれたくない話なのだろうかと首をかしげながら、サクラはあまり気にせず近くの切り株に腰掛けた。

 

 

「もしもーし」
『私よ』
「「たわしさん」ですかー?」
『私』
「「私さん」なんて名前の人、知りませんねー」
『・・・・喧嘩売っての?』

通話機の向こうの声が1オクターブ低くなる。

『買うわよ』
「何の御用でしょう、大蛇丸様」
口調をがらりと変え、カブトは生真面目に返す。
漫才のようなやり取りに、つい額に手を置いた後、大蛇丸はようやく本題に入る。

 

『命令どおり、サスケくんの情報はちゃんと入手してるんでしょうね』
「大丈夫です。良好ですよ」
通話機側の相手に見ることはできないが、カブトはさっとカードを広げる。
「サスケくんの情報を焼き付けただけで、手持ちのカード1ダース使っちゃいましたよ」

それらはカブトがサスケについてこつこつと集めてきた情報の集大成だ。
彼以外のチャクラには反応しないようになっている。
誰にも見られたくない情報は、カブトは常にこのカードに入力することにしている。
今回7班と共に活動することになり、カードはさらに入用になることだろう。

『・・・サスケくん以外の情報は?』
「うずまきナルトくんですか?」
大蛇丸の問いに、カブトはすぐに反応する。
九尾の妖狐をその身に宿すナルト。
彼の力も、確かに貴重なものだ。

『そうじゃなくて』
大蛇丸はやや声を荒げる。
『あの、薄紅色の髪の子よ』
「ああ」
大蛇丸の言いたいことを察し、カブトは口の端を緩めて薄く笑った。
「彼女ね」

『正直に言いなさいよ。あんた、あの子のカードも集めてるでしょ』
「あはははっ」
誤魔化すように笑うカブトに、大蛇丸は自分の言葉が図星だったことを知る。
長い付き合いだ。
それくらいのことは分かる。
『・・・あんた、本当に赤系の髪の子に弱いわよね』
通話機の向こうから、ため息混じりの声が伝わってくる。

 

一目見たときから、大蛇丸はこれはヤバイと思ってはいた。

うちはサスケと同じ班にいる、木ノ葉の里では珍しい、薄紅色の髪の娘。
母親がそうした髪の色だったことが関係しているのか、カブトは赤系の髪の娘に極端に弱い。
色はなるべく薄い方がいい。
そしてウェーブの入っていない、ストレート。
そういった意味で、春野サクラはまさにビンゴだった。
サスケの監視を命令したところで、あの娘がいては、注意が散漫になることは明白だ。

『サスケくんの情報さえ入ればあとは何しても構わないけど。でも、ほどほどにしておくのよ、ほどほどに!怪しまれたら最後だからね!』
「分かってますって。じゃあ、彼女が待ってますから」
直後、ぶつりと切れる通信。
大蛇丸は震え気味の手で通話機を置く。
『分かってない・・・』
有能な部下の、唯一の欠点。
やはり部下に任せたりせず、じきじきに自分が出向くべきなのかと、大蛇丸は思いあぐねていた。

 

 

「待たせたね」
「ううん。じゃあ、出発しましょうか」
立ち上がったサクラは、通話機を片手に戻ったカブトに、にっこりと笑いかける。
まるで、デートの待ち合わせのような会話だ。
二人がこうして親しいのには、理由がある。
ナルト達は知らないが、彼らは図書館でよく顔を合わせる知り合いだ。

図書館でサクラが難儀していた問題を、たまたま(とサクラは思っている)居合わせたカブトが解いてみせたのがきっかけで、二人は親しくなった。
自分よりも賢いこと。
サクラが何よりも他人を尊敬する条件は、それだ。
得意の情報収集から、カブトは当然そのことを承知していた。

「じゃあ、カカシ先生、私達、A地点とB地点を周ります。犬を見つけたらすぐに連絡入れますから」
連絡用通信機を手に言うと、サクラはナルト達にちらりと視線を向けただけで、カブトの手を引いて森へ入っていく。
ナルトは歯噛みして彼らの行方を見詰めた。

 

「・・・何か、怪しい。何であの二人、あんなに親しげなんだってばよ」
「そうだよな。あいつ、さっき森で誰と通信してたんだよ」
「もしかして、どっかの里のスパイなんじゃないか。大蛇丸とか」

カカシの結論に、三人は顔を見合わせる。
大蛇丸の不気味な面相が頭をよぎり、彼らは少しだけ笑った。
「まさか」、という笑いだ。
その「まさか」が現実のものとは、彼らはまだ全く気付いていなかった。


あとがき??
これはいつの話なんだとか言っちゃ駄目なのだ。(笑)
通話機というのは、まぁ、携帯電話みたいな物です。
赤系統の髪に弱いカブトくんは、金髪のクルクルに弱いセラヴィー先生がモデル。(赤ずきんチャチャ!)

サクカブとサクラに袖にされる可哀相なサスケが書きたくて出来た話。
すごい中途半端ですが、これで終わり。気が向いたら、続き書きますよ。(可能性は薄い)
サクカブ(カブサク)は何故かとっても好きなカップリング。
カブトさん、良いですよーー!!
でも、私が書くと何だかただの変な人・・・。
たぶん、最初で最後のサクカブでした。


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