春の面影


アカデミー時代からの友達の男の子に告白された。
これはよくある話。

私は「他に好きな人がいるから」と断った。
これもいつもの話。

でも、今回はいつもと違うことが一つだけあった。
好きな人という言葉が出た時とっさに頭に浮かんだ人物が、いつものようにサスケくんじゃなかったのだ。

あれれ???

 

「カカシ先生―」
「なんだサクラ、まだ帰ってなかったのか」
私は任務の報告に行ったカカシ先生を、自宅に帰らずに建物の外でずっと待っていた。
その日の任務に使った器具をまだ持っていたから、カカシ先生はすぐにそのことに気づいたらしい。
「えへへ、一緒に帰ろうと思って」
「一緒に帰ろうって言ったって、俺の家とお前の家かなり離れてるけど」
「じゃあ、お散歩でもして遠回りして帰ろうよ」
にっこり笑ってカカシ先生に手を差し出す。

最近気が付いた。
私がこうして近づくとカカシ先生は一瞬だけ困った顔になる。
すぐにいつものとぼけた表情に変わってしまうけど。
私はそのカカシ先生の困った顔を見るのが好きだったりする。
可愛いから。

我ながら意地が悪いとは思うけど、カカシ先生はナルト達にはそんな顔しない。
もっともっと困らせてみたい。

カカシ先生は私達3人にいつもことあるごとにチームワークを大切にしろと言う。
何度も繰り返し。
私はそのたびに思ってしまう。
カカシ先生は仲間の誰かを裏切って後悔したことがあるのだろうか。
または、裏切られて辛い思いをしたことがあるのかと。
カカシ先生がそんな顔をして話すから。
どうして、ナルトやサスケくんはそのことに気づかないのか不思議だ。

真相を知りたくて、一度だけカカシ先生に訊いてみたことがある。
するとカカシ先生はとても驚いた顔をして、私の頭を撫でてくれた。
こんなに頼りないと感じるカカシ先生の手は初めてだった。
何となくカカシ先生を守ってあげたい気持ちになったから、「大丈夫だよ」と言ってその手を握った。

カカシ先生は微笑んで私の手を優しく握り返してくれた。
でも、その表情はどこか寂しげで。
結局カカシ先生から答えを聞くことは出来なかったけれど、それが答えだったような気もする。
思えば、その質問をした後からだったかもしれない。
カカシ先生が困った表情をするようになったのは。

 

ある夜、幼馴染の女の子から電話がかかってきた。
内容は近所に住む男の子からいじめにあっていると嘆いているもの。
その男の子のことは私も知っている。
いじめの内容も陰湿なものではなく、軽くちょっかいをだす程度。
事情を知っている私は心の中でその男の子に謝りながら、電話口で涙声を出す彼女に話し掛けた。

「気づかなかったかもしれないけど、あの子ずっと前からあなたのこと好きなのよ。好きな子をいじめちゃうってやつね。そんなに気にすることないってば」
ここまで話してハッとなる。

好きな子を苛める。

私ののカカシ先生に対する態度は、もしやそれなのでは?
そう考えれば、この間告白された時カカシ先生が頭に浮かんだことの説明がつく。
私は自分の考えにちょっとショックを受けた。
だからそれから後の電話口の相手の声はあまり頭に入らなかった。

そして、その電話をきると、父に長電話だと叱られた。
父と少し口論した後、私はいつものように家出を決意する。
何か小言をいわれると私はすぐに友達の家に行ってしまうので、両親はあまり慌てた様子はなかった。
友達同士のお泊り会のようなものだ。
私は友達の顔を思い浮かべ、次は誰の家に行こうかと考える。
銀ちゃんの所は今旅行中だし、美冬ちゃんのところはこないだ行ったばかりだし、と算段していると、いい考えが浮かんだ。

そうだ、カカシ先生のところに行こう。
場所なら火影様に聞いてあるし、ここから歩いて20分程度の距離だ。
驚いた顔のカカシ先生を想像するだけで、顔に笑みがこぼれる。
楽しそう。
カカシ先生は任務に遅刻せずにすむし、一石二鳥だ。

 

娘が「いってきま〜す」と鼻歌交じりに出て行くと、サクラの両親はお互いの顔を見合わせた。
家出だったよな??


あとがき??
うーん。短い。先生の一人称より軽い感じで楽ね。女の子だし。これで「春の嵐」につづく、というわけ。
「そうだ、カカシ先生のところに行こう」のあたりは、「そうだ、京都へ行こう」と同じノリね。私も行きたい。


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