春よこい


「カカシ先生のバカァァーーーーー」

・・・ハハハ。

大泣きしながら捨て台詞を残して走り去っていくナルトの後姿を見つめて、カカシは力なく笑う。
出会い頭に突然目の幅涙を流すものだからかなりビックリしたのだが、もちろん表情には出さない。
多分サクラとのことを聞いたからだろうと思う。
頼むからこっちの言い分も聞いてから文句を言ってくれ。

「今日も愛妻弁当か。美味そうだな」

・・・ハハハ。

からかいの言葉を言った上忍仲間に軽く背中を叩かれながら、カカシは渇いた笑顔のまま、たこさんウィンナーをほおばる。
お昼の時間になると教員の待合室でサクラの手作り弁当を食べるのが日課になっている。
初日にいらないとサクラに言ったら今にも泣きそうな顔になったので、それ以来文句が言えなくなってしまった。
ただし、そぼろでご飯の上にハートマークを入れるのだけはやめてもらった。

家に帰ればすっかりサクラの趣味でコーディネートされてしまった部屋が待っている。
ピンクのカーテンに、彼女が持ってきたぬいぐるみ各種に、みずみずしい花のいけてある花瓶、その他小物etc。
サクラは「先生はこれ着てね♪」と自分と色違いでおそろいのパジャマまで作ってくれた。

ハハハ・・・。

・・・泣きたい。

帰宅途中、カカシは一体どうしてこういうことになったのか考える。
自分はプライベートでは他人との接触は極力持たないようにしてきたつもりである。
女性との付き合いも短期間で、特定の彼女はいたことがない。
それが、今こんな子供と暮らすはめになるとはなぁと、玄関の扉の前で出迎えてくれるサクラを見下ろしながら思った。

 

サクラが嫌いなわけではない。
逆だ。
だからむげに追い返すことができない。
いつの頃からか、困難な任務の時はいつもサクラが視界に入るように注意していた。
しだいに任務以外の時もサクラを目で追うようになっていった。
それなのに、サクラの方から近づいてくるとある感情が心を満たして逃げ出したくなる。

イライラする。
自分は一体どうなってしまったのか。
どんな敵にだって怖気づいたことなどなかったのに、自分が少女に恐怖を感じるなんて。
この思いに全く気づかず、自分の家に転がり込んできたサクラがだんだん憎らしくなってきた。

いつだって、あいまいな態度で心に垣根を作り、他人は入れないようにしてきた。
でもそれはサクラには通用しない。
表面的な作り笑顔や偽りの言葉に惑わされず、自分を見つめ返してくるまっすぐな瞳。
これは本気でに人を憎んだり、妬んだり、傷つけたいと思ったことがない瞳だ。
人を疑うなんて考えたこともないのかもしれない。
サクラの目に自分がどう映っているのか知るのが怖い。
本当は自分の心の奥底にある暗い負の感情を見透かしているのではないだろうか。

幸せな環境で育った綺麗な綺麗なサクラ。
自分とはあまりにも違う。
どうすれば彼女は自発的にここを出て行ってくれるのだろう。
俺の心から消えてくれるのか。

あれこれ理由をつけて何とかサクラを遠ざけようと考えを巡らしている自分に気づいた時。
ふと、ある思いが頭を支配した。

 

これはもしかして恋というものなのではないだろうか?

 

瞬間、胸の中のもやもやしたものが一気に消し飛んだ。
晴天の霹靂、目から鱗。
何と言ったらいいのか。
まさか自分が一回り以上年の離れた子供に恋をするとは予想外で、全く気が付かなかった。
いや、今まで本当の恋というものを経験したことがなかったから分からなかっただけかもしれない。

 

「あれ、そうなのかな?うーん・・・これは困った困った困ったなぁ」
ハハハハと笑いながらカカシは思わずフローリングの床に転がる。
「先生―、何か言ったー??」
夕食の用意をしていた白いエプロン姿のサクラが台所から顔を出して、未だに床に寝転がっているカカシに怪訝な顔で聞く。
「んー、サクラに責任とってもらわないとね」
悩みが吹っ切れた晴れやかな笑顔をサクラに向けて、カカシは彼女に聴こえないくらいの声でそう呟いた。


あとがき??
サクカカと見せかけて、実はカカサクだったらしい。ちょっとはそれっぽくなったかなぁ。
何だか、前作とうってかわってシリアスというか、何でカカシ先生メインなのよ。
私もビックリって感じです。
カカシ先生は自分の気持ち、サクラが好きなんだって自覚しちゃえば、後の行動はおのずと決ることでしょう。
・・・なんか当然のように省いて書いていなかったけど、誤解されてたら困るから書いておこうか。
カカシ先生サクラちゃんに手出してないですよ。(笑)
それと、本当はこの話の後にある、とある1シーンが書きたくてここまでだらだらと続けていたような気がする。
サスケくんが出てくる。


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