春の告白


上忍のはたけカカシとその部下である春野サクラが同棲しているらしい。

僅かな時間で里の忍びの間を駆け巡ったその情報は、サスケの気持ちを落ち着かないものにしていた。
初めは誰もが耳を疑ったものだが、最近二人が手を繋いで仲良く歩いている場面が目撃されていたことで、すでに噂は事実として皆に認識され始めている。
それがサスケには面白くない。

振り向くといつも傍にあった笑顔。
それがこれからは自分以外の誰かに向けられるのかと思うと、たまらない気持ちになる。
普段邪険に扱っておきながら、カカシに取られたと知ったとたんに後悔するなんて。
「最低だな」
サスケは自嘲気味に呟いた。

 

次の休み、サクラは幼馴染の友達と買い物に出かけた。
久々の休みだったこともあり、昔話に花が咲きすっかり帰りが遅くなってしまった。
すでに夕闇が辺りを包み始めている。
暫くすればどの家にも明かりが入るだろう。
「早く帰らなくちゃ」
サクラは足早にカカシの家へと続く林の小道へと向かった。

完全に日が暮れれば、この道は真っ暗になってしまう。
まだ夕刻の今でさえ人通りが全くなく、夜は絶対に通っては駄目だと言ったカカシの言葉を思い出し、サクラは近道といえどこの道を選んだことを後悔しはじめていた。
引き返して遠回りでも明るい道を行こうかとも考えたが、戻るにしてもその途中で日が暮れそうな微妙な時間だ。
走れば大丈夫、と覚悟を決めたその時、木の影に人の姿を認めて、サクラは心臓が止まるかと思うくらいに緊張した。

しかし、薄暗い中、目を凝らしてみるとそれはサクラがよく見知った人物。
「あれ、サスケくん?」
サクラの前方で顔をうつむき加減にして立っているのは確かにサスケだ。
普段の任務の時とは違い、額当てもしていないし、ジーンズにTシャツというラフな格好だが、見間違うはずもない。
だが、サスケはサクラの呼びかけに応えようとはせず、サクラの方を見ようともしない。

こんな時間に暗い道端でサスケくんが突っ立っているなんて。
何してるんだろう?
それに何か様子がいつもと違うような・・・。
怪訝な表情をしたサクラが近くまでやってくると、彼女の思考を中断させるようにサスケが喋り出した。

「カカシの家に帰るのか」
「そうだけど」
サクラが即答した後は、再び重い沈黙が辺りを支配する。

サクラは里で流れている噂のことを全く知らなかった。
サスケがカカシとの同居を知っていることに驚きを隠せない。
そして、もし周りにいろいろ変な誤解をされているのだとしたら、押しかけた都合上カカシに悪いことをしたな、などとサクラは思った。
サスケに誤解されたらどうしよう、という今までのサクラなら真っ先に考えたであろう思いは何故かサクラの頭にはない。

サスケはサスケでサクラの口から噂が事実だと確認して衝撃を受けていた。
否定の言葉を聞きたくて、今までサクラを待っていたのかもしれない。
だから、つい声が荒くなった。

「お前が好きだ」
サスケは顔を上げたかと思うと、怒鳴るようにして言った。

あっけにとられたサクラがサスケの言ったその言葉を言語中枢で理解するまでかなりの時間を要した。
きっと今、自分はとてつもなく間抜けな顔をしてサスケを見ているのだろうとサクラは思う。
そして、暫くしてサクラがようやくひねり出したのは次の言葉だった。

「え、ドッキリカメラ!?」
「マジだ」
付近をキョロキョロと見回しながら言うサクラに、サスケはあくまで真面目に答える。
それでもサクラはまだ唖然とした顔をしている。
頭の中でサスケの言葉がグルグルとリフレインする。

お前が好きだ、お前が好きだ、お前が好きだ・・・

お前っていうのは、私のことよね。
他に人気はないし。
だが、サクラはどうしてサスケが突然告白してきたかが、理解できない。
前回の任務の時は、サスケの態度はいつもと全く同じでそっけないものだった。
サクラが特に変わった言動をサスケにした覚えもない。
と、いうことは・・・。
考えた結果、ある一つの結論に達しサクラはニヤリと笑う。

「わかった、またカカシ先生かナルトが私をからかおうとしてサスケくんに化けてるのね!」
サクラは、「もうその手には乗らないんだからね」と笑顔でサスケの顔に触れようとするが、その前にサスケの手に阻まれてしまう。
思いがけず、サスケの真摯な瞳と間近で向き合う。
そしてサクラはそのまま腕を引かれ強く抱きしめられた。

「お前が好きなんだ」
先ほどの告白とは打って変わって、優しい囁くようなサスケの声がサクラの耳元で聞こえる。
サクラの持っていた買い物袋が彼女の手から落ちた。
わずかに聞こえていた鳥のさえずりも、風でゆれる木々の音も、虫の声も、周りの一切の音が消えたような気がした。

これはサスケくんの匂いだ。
カカシ先生がたまに吸っているタバコの匂いでも、ナルトの陽だまりの太陽のような匂いでもない。
サスケくんの・・・。

「は、離して!」
これが現実のことなのだと理解したとたん、サクラは悲鳴のような声をあげてサスケの体を押しのけていた。
そのままサスケを振り返ることなく駆け出す。

 

どうしよう。

サクラがサスケに告白されたと分かったとき、最初に頭に浮かんだのはこの言葉だった。
あれほど好きだったサスケに告白されたというのに、サクラの心にあるのは動揺だけで、感激という気持ちはない。
頭に浮かぶのは、最後に見たサスケの傷ついたような、泣きそうな顔。
サスケくんがあんな顔するなんて。
どうしよう。

サクラの心は不安で一杯だった。
理由は分からない。
ただ、誰よりも、カカシに会いたいと思った。
一刻も早くカカシの顔が見たかった。
いつものようにカカシに優しく抱きしめて欲しかった。

サクラは走って、走って、苦しくて、このまま呼吸が止まってしまうのではないかというくらい、我武者羅に走った。
カカシの家が見えたとき、サクラははっきりと安堵した。
隣接するマンションの住人がちらほら周辺を歩いているのが見え、そのうちの何人かが彼女に話し掛けるが、それでもサクラは止まらない。
一気に階段をかけあがり、玄関のドアを開ける。

「カカシ先生!!」
はたして、カカシはそこにいた。
愛読書を読んでくつろいでいたようだが、息を切らして帰ってきたサクラの必死の形相に驚きで目を見開いている。

カカシの姿を見た瞬間、サクラの目から涙がこぼれた。
部屋に入ってくるなりサクラは力なく座り込んでそのまま泣き出してしまう。
「どうした、何かあったのか??」
いまいち状況が飲み込めず、サクラの頭を撫でながら問いただすが、サクラが泣き止む様子はない。
カカシは泣きじゃくるサクラに、しだいに不安な気持ちになっていく。
早く泣き止んでほしくて、いつもの明るい笑顔が見たくて、包み込むように抱きしめる。
「誰かに何かされたのか?」
腕の中のサクラが首を振るのがわかり、一先ずカカシはホッとする。
サクラの泣く声が止まるまで、そのままの状態でサクラの背中を優しく叩いた。

 

やがて時を刻む時計の音が大きく部屋に響き始める。

「せんせぃ・・・」
暫くそうしていると、サクラが小さく声を出した。
「ん〜、何だ?」
「私、サスケくんに好きだって言われたの」
サクラを抱いたカカシの腕にわずかな緊張が走る。
カカシは内心の動揺をサクラに悟られたくなくて、努めて冷静にサクラに訊ねる。
「それで、サクラは何て答えたんだ?」
「・・・分かんない」
「え?」
サクラの意外な答えにカカシは驚きの声をあげる。

カカシはそれまでサクラがどれほどサスケを好きだったか知っている。
ずっとサクラを見ていたから。
サクラがサスケに告白されれば、喜びこそすれ、悲しむ理由はない。
てっきりOKの返事をして帰ってきたのかと思った。
それが何故「分からない」なのか。

カカシはサクラの真意を計りかね、困惑していたが、サクラも同様の気持ちだった。
サスケのことが好きだったはずなのに、彼の気持ちに応えてしまえばカカシとこうして過ごす時間がなくなるのかと思うと、急に怖くなったのだ。
それは、サクラがカカシと離れたくなかったということ。
つまり。
「私、カカシ先生のことが好きなのかもしれない」
カカシが悩んで悩んでどうしても言えなかったことをサクラはあっさりと口にした。
思ったことをすぐ言葉にできる子供は羨ましい、いや、子供だからじゃなくて、サクラだからなのかな、とカカシは思った。

「俺もサクラのこと好きだよ」
カカシから身を放したサクラは一瞬嬉しそうな表情を見せたが、すぐに疑わしい目でカカシを見る。
「・・・本当?」
「本当、本当」
「一番好き?」
「うん。一番好き」
「でも」
サクラの中の今までサスケのことが好きだった気持ちが全て消えたわけでない。
サクラは言いにくそうに続ける。
「私はカカシ先生が一番かどうか分からないの」

サクラの言葉を気にした風もなく、カカシはサクラに暖かい笑顔を向けた。
「それならサクラの気持ちが全部こっちに向くまで待ってるよ」
困ったようなサクラの表情が徐々にほころんでいく。
「有難う。カカシ先生、大好き!」
サクラはカカシに力いっぱい抱きついた。

サクラを抱きしめながら、カカシはこれ以上ないほどの幸せを感じていた。
大好きなサクラの心を半分でも手に入れることができたから。
いや、サクラは気づいていないかもしれないが、サスケに告白されたことで動揺し、自分の家に帰ってきた時点で心の三分の二は手に入っているはずだとカカシは考える。
これをサスケに渡す気は毛頭ない。

もちろん、残りのサクラの心も必ず手に入れる。
どんな手段を使っても。
覚悟しておけよ、とサスケに宣戦布告するカカシだった。


あとがき??
あれ、この話これで終わりなのか?いろいろ解決してないこともあるし。
こんなつもりじゃなかったのにな。おかしい。
全く続き考えてないので、あるとしても当分先。
両思いになれたし、よしとするか。
カカシ先生は紳士なので、両思いになっても当分手は出さない。・・・多分。(笑)

ぶっちゃけて言っちゃえば、サクラちゃんとサスケの「え、ドッキリカメラ!?」「マジだ」の会話が書きたくてこのシリーズ(?)ができた。(ぶっちゃけすぎだろう)
いや、でも本当にそう。
おかげでその後、うってかわって筆が止まる止まる。ダメじゃん。
元ネタが『湘南爆走族』だと言っても誰が分かるんだ。
アイドルに告白された江口くんが、同じ反応をしたのよ。
ドッキリカメラ・・・分からない人いたら困るな。

どっちつかずのサクラちゃんは嫌われちゃいそうだけど、彼女にとってたぶんサスケは初恋の人。
簡単に忘れられなくても、しょうがないかなぁと。
結局、サクラの買い物袋は、サスケはどうなったんだー。(自分つっこみ)

本当にお昼のメロドラマみたいな内容だよ。(ご都合な展開)
カカサクにサスケを絡ませるもんじゃないね。
サスケの扱い、ナルト以上に可哀想になるわ。ごめんよ、ごめんよ。
昼メロ版「春の告白」・・・。
「奥さん。あなたが好きだ」(サスケ)
「駄目です。家で夫(カカシ)が私の帰りを待っているんです」(サクラ)
って感じだろうか。うわ、嫌。(笑)

構想期間半年。
できれば、このままお蔵入りさせたかった。
半年前、何を思ってこの作品を書き始めたのか覚えてないけど、今、サスケあんまり好きじゃないのよね。
だって・・・カカシ先生が「サスケ、サスケ」言ってるんだものーー!!うおーーん。(泣)


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