君のそばで会おう


「サスケくん。サスケくん」

煩い。
どんなに突き放してもあいつは俺の後をついてくる。
今までこんな奴はいなかった。
クラスの女子は一度冷たい言葉をいうとそれから二度と近づいてこなくなった。
サクラは例外だ。
自分がどんな態度をとったとしても、次の日にはまたケロリとした顔をして話し掛けてくる。
変な奴だ。
あまりにもいつもいつもひっついてくるもんだから、たまに傍にいないとつい目で探してしまう。

誰だって自分が一番大切。
ギリギリの状況に追い詰められたら、どうせサクラも俺を裏切る時が来る。
兄のように。
あいつと一緒なんだと思いながら、反面、サクラなら大丈夫かもしれないと思ってしまう自分が許せなかった。

 

「サスケくん、危ない!」

振り返ったサスケの目に映ったのは、敵と自分の間に回りこんだサクラの姿。
相手がクナイを引き抜くとサクラはそのまま崩れるようにして倒れこんだ。
地面には血の海が広がっていく。

その一連の様子がサスケの目にはまるでスローモーションのように見えた。
血の気を失ったサクラの青い顔が、昔自分が失ってしまった大切な人と重なる。

「う、うわあぁぁーー!!」

叫び声とも呻き声ともつかない声をあげたサスケは武器を手にする動作ももどかしく、そのまま相手に向かっていった。
相手が意識を失ってもまだ殴りつづける。
クナイに手を伸ばした時、その手を止める人物がようやく現れた。
カカシが止めに入らなければ、そのまま相手を殺してしまっていたかもしれない。

カカシが倒れているサクラの元へ走るのを、サスケは力なく見つめた。
もし助からない怪我だったらと思うと怖くてサクラに近寄れなかった。

 

カカシ先生が近づいてくるのが見える。
その顔は今まで見たことがないくらい真剣な表情だ。
先生もあんな顔するのね。変なの。

意識を手放す前にサクラが思ったのは
サスケくん、泣かないで。
このことだった。

 

サクラが入院している間、サスケが病院に足を運ぶことは一度もなかった。
毎日のようにお見舞いに通っているナルトはサスケを批難する。
「サクラちゃんはお前をかばって怪我したんだぞ」
「頼んだわけじゃない」
その言葉にナルトは怒りで顔を真っ赤にしてサスケに掴みかかる。

もみ合う二人のケンカを止めたのはカカシだった。
「サクラが戻ってくるまでちゃんと個人で特訓してろ」
まだ自分の服を掴んでいるナルトの手を乱暴に振り払うと、サスケは足早にその場を去る。

ナルトにはサクラが何でサスケのことが好きなのか分からない。
サスケは少し親しくなれたかと思えば、次の瞬間にはもう冷たい表情をする。
病院で意識が戻った時のサクラの第一声は
「サスケくんは無事?」
という言葉だった。
1ヶ月以上入院しなければならない重症だ。
傷は相当痛むだろうに、まず最初にサスケを心配する言葉をいったサクラのサスケへの強い想いにナルトは泣きたくなった。
サスケが心底羨ましいと思った。

「サクラちゃんがあんなに想ってくれてるのに。俺絶対許せないってばよ」
サスケの後姿を見ながら、ナルトは悔しそうに呟いた。
「そう言うな。あいつはただ臆病になってるだけなんだよ」
「臆病?」
その言葉があまりにサスケと結びつかないものだったので、ナルトは思わず訊き返した。
カカシはナルトに寂しげに笑いかけるだけで、その理由を話してはくれなかった。

 

 

「サスケくん」

河原にある大きな岩に腰掛けたとたん聴こえてきたその声に、サスケはハッとなる。
幻聴か?
この声の主はまだ病院にいなけらばならない人物だ。
こんな場所にいるはずがない。

「サスケくん」

自分を呼ぶ声がもう一度聴こえてくるとサスケは堪らずに振り返った。
その人物はサスケが思ったとおりの相手だった。
「サクラ」
川原に続く林の小道を手を振りながら駆けてくる。
その姿は入院患者が着る白い単衣のままだった。

「きゃあ」
病院内ではくサンダルのまま走っていたサクラは、河原に入ると岩に足をとられて転びそうになる。
「馬鹿」
サスケがとっさに駆け寄ったが、サクラは止まれずにそのままサスケを巻き込んで倒れてしまう。
傍から見たら、まるでサクラがサスケを押し倒したような体勢。

「・・・重いぞ」
「エヘヘ。ごめんね」
たいして悪びれた様子もなく謝るサクラ。
急いで体を起こして、まだ倒れているサスケの横に座り込む。
「ようやく会えたね」
サクラがそう言って嬉しそうに笑った。

サスケが久々に見るサクラの笑顔。
サスケは実感してしまう。
自分がどんなにサクラに会いたかったのか。
この笑顔を見たいと思っていたのかを。

もしかして、あまりにサクラに会いたいと思っていたから、幻を見ているのかもしれない。
これが現実だと確認したくて、もっとサクラ身近に感じたくて。
半身を起こしたサスケは無意識に手を伸ばしてサクラを抱きしめていた。

「え?」
サクラは驚きの声をあげたものの、抵抗する様子はない。
「どうしてここにいるんだ」
耳のすぐ傍で聴こえるサスケの声にサクラの心拍数がはねあがる。
サクラは心臓の音がサスケにも聞こえてしまうのではないかと思った。
何とか気持ちを落ち着けようとしてサスケへの返事に間があいてしまったが、サスケは何も言わずに待っている。

「歩けるようになったら病院の中だけじゃ暇でしょうがなかったの。サスケくんこの場所に好きみたいだったから、今日もいるかと思って。それに」
サクラはそこで一旦言葉をきる。
「なんだ」
サスケが続きの言葉を促すと、サクラは呟くようにして言った。
「サスケくんが泣いてるような気がしたから」
「俺が?」

相変わらずサクラは変な奴だとサスケは思った。
自分が泣くはずがない。
涙はとうの昔に枯れてしまったはずだ。

「俺は泣いたりしない」
「そんなことないよ。私やナルトがもっとサスケくんと仲良くなりたいと思って立ち入ったこと訊くと、いつも酷いこと言うよね。そういう時のサスケくん、私たちよりずっと辛そうで泣きそうな顔してるよ」
納得いかない表情できっぱりと言うサクラにサスケは驚いた。
「今度の私の怪我も、サスケくんは自分のせいだと思って泣いてるかと思ったの」
サクラがサスケの顔を両手で挟んで覗き込む。
「ほら、やっぱり泣いてた」
サクラがしたり顔でそう呟く。

自分は泣いてなどいないのに、サクラは泣いているという。
分からない。

困惑するサスケを今度はサクラの方から頭を抱えるようにして抱きしめた。
「サスケくんの心が泣いてるのが聞こえるよ。大丈夫。私は絶対死なないし、ずっとサスケくんの傍にいるから」
サクラの優しく語りかける声がサスケの耳に響く。
自分を抱きしめる暖かい体温が伝わってくると、サスケはサクラに守られているような錯覚に陥る。
忍術の実力的にはサクラとは段違いの差があるというのに。

サスケは黙って目を閉じた。
サクラの言うとおり、自分は泣いていたのかもしれないと思いながら。

こうして人の腕の中で安堵するのはどれくらいぶりだろう。
今まで必要以上に人を近づけなかったのは、信じて信じて、そしてまた裏切られてしまえば、今度こそ自分がどうなってしまう分からないと思ったから。
散々人の気持ちを無碍にしてきたのに、本当はこうして自分を理解して傍にいてくれる人を探していたのかもしれない。
自分でさえ気づかなかった気持ちを、どうしてサクラが察することができたのか不思議だった。

「サスケくんがもっともっと笑えるようになった時、サスケくんが私のこと邪魔だと思ったら、私サスケくんの前からいなくなってもいいよ」
一人でいると、笑うことなどできない。
だから何があっても傍にいる。
心から笑って欲しい。
幸せだと思えるようになって欲しい。
自分が必要でなくなる時が来るのが怖いけど、サスケくんがそう望むのならしょうがない。
この気持ちがサクラの愛。

「でも、それまではサスケくんがどこに行っても絶対見つけ出して追いかけるんだから」
サクラなら本当に追いかけてきそうだ。
里の外でも、別の国でも、この世の果てまでも。
その様子をありありと想像できてしまって、サスケは思わず吹き出してしまった。
「何で笑うのよ」
膨れているサクラが可愛くてよけいに笑いが止まらない。

サクラは大丈夫だ。自分を絶対に裏切ったりしない。
サクラがいれば、俺はこうして笑うことができる。
兄に対する復讐の気持ちはあまりに強すぎて、消えたわけではないけれど、随分心が軽くなったような気がする。

「いなくなれなんて一生言わない」


あとがき??
楽しい!!カカサクばっか書いてたから超新鮮!いいなぁ清らかで。
イメージは深夜にやってた「ウィルス」のEDの曲。
っていうか、これ職場でサラサラっと書いてしまった。マジ。ほとんど一発書き。
ラストまであっさり文書が書けるのは珍しいのですよ。
修正なしだし。もしかして、サスサクの方が向いてるのかー私―。
それにしても、いつもにもまして、別人――。
私夢見すぎーー!日中からどんな夢見てるんだー!!
サスケ何者ーー!!
・・・疲れた。改めて読むとすっごい恥ずかしい。死にそう。
いのの存在をとことん無視した作品。
サスケくんの過去まで捏造してるし。済みません。

そして、この話書いた後、本当にサスケが本誌でサクラを傷つけられたことでぶちぎれてビックリした。


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