ノーリアクション


「あんたも頑張るわねー」

よく言われる言葉。
サスケに夢中になっていたアカデミーの同級生達は、歯牙にもかけない彼の態度に早々に見切りをつけ、今では皆彼氏がいたりする。
懲りることなくサスケを追いかけているのは、サクラといのくらいだ。
サクラ自身、たまに会った友人達が楽しげに彼氏の話をしていたりすると、羨ましいと感じる。
しかし、サクラはサスケのことを諦めようとは思ったことがない。
それを、感心だと皆に言われるのだ。

「それだけ頑張るには、望みがありそうなの?」

その返答は、NOだ。
せっかく同じ班になったというのに、サスケはプライベートな話は全くしない。
聞きもしないのに家族の話をすることはたまにあるが、サクラが訊ねても答えが返ってこないことがほとんどだ。
これでは親しくなりようがない。

「どこが好きなの?」

顔、といったら身も蓋も無いように思えるけれど、やはり一番に目を引くのは顔だ。
どんな人でも、美人かそうでないかというのは別に、好みの顔というのはある。
その点、サスケはパーフェクトだ。
無愛想なサスケが、時折年相応な表情を見せたときなど、サクラは天にものぼる気持ちになる。

復讐のために、極力他人を遠ざけ、強くあろうと心掛けるサスケ。
だけれど、そのことさえなければ、彼は明るく笑う少年だったのではないかとサクラは思っている。
その笑顔を取り戻すことが、サクラの願いだ。

 

 

 

その日、サクラはバスケットを片手に全速力で走っていた。
向かう先は、公園のグラウンドだ。
サクラは休日にサスケがそこで10kmほど走りこんでから演習場へ向かうことを知っている。
サスケはサクラが演習場まで付いて行くことをよしとしないが、一緒に走る事には文句を言わない。
よって、サクラは毎週のようにその場所に赴いている。

そして前回、サクラは次に来るときはサスケの分も弁当を持参して来ると約束した。
サクラからの一方的な約束だが、確かに公言した。
というのに、生来不器用なサクラは弁当を2つ作るだけで途方もなく時間をかけてしまった。
時間的に、サスケはそろそろ演習場へと向かった頃だろうか。
そうなると、サクラの努力は水の泡となる。
諦め半分という気持ちながら、サクラはそれでも公園を目指して走りつづけた。

 

公園の入り口付近にあるベンチ。
そこに、サクラの目的の人物は座っていた。

その姿を見るなり、サクラは安堵の溜息とともに、木の陰に隠れる。
走ってきた事でサクラの髪は乱れ、身体も汗だくだ。
鞄からクシと鏡を取り出すと、サクラは忙しく身支度を整える。
好きな人に会うというのに、油断は大敵だ。

出て行くタイミングを計ろうとサクラがちらりと木陰から顔を覗かせると、サスケは同じ場所にちゃんといた。
ホッと息とついたサクラだが、ふと、疑問に思う。
すぐにサスケを発見できたのは良いが、サスケの家からはグラウンドに行くにも帰るにもこの場所は通らない。
そして、よく見るとサスケは落ち着きなく目線を動かしている。
サクラは不思議な気持ちでその様子を眺めていた。

何かを探しているような仕草のサスケ。
はたして、何をだろう。

暫らく遠目にサスケを見ていたサクラだが、ふいに、気付く。
サスケが反応しているものに。
薄紅色の髪の人間が通り掛るたびに、サスケの視線は動く。
その意味を理解したとたんに、サクラは顔が熱くなっていくのを感じた。

 

私を探しているんだ。

 

 

「ふーん。それで?」
「私のお弁当、ちゃんと食べてくれたの!」
公園から戻ったサクラは、興奮冷めやらぬ様子でいのに全てを語って聞かせた。
花屋の店番を頼まれているいのとしては、話の内容がとてもつまらないものでも、この場所を離れるわけにいかない。
「サスケくんがいらないって言ったのに、あんたが無理強いしたからでしょ」
「・・・そうだけど」
いのの冷たい言葉に、サクラは少しだけ肩を落とす。
いのには見ずともその光景がすぐに頭に浮かんだ。

「大体、サスケくんに聞いたわけじゃないのに、サスケくんがあんたを探していたのかどうかなんて分からないじゃない。桃色の髪に反応していたのだって、あんたの気のせいだったんじゃないのー」
「・・・・」
サクラは言い返すことが出来ず、俯いた。
確かに、いのにそのように言われると、そうだったのかもしれないと思い始めてしまう。
現にサスケはサクラと目が合うと少しも嬉しそうな顔を見せずに顔を背けた。
あの場所にいたのも、たまたまグラウンドが混んでいてベンチが空いていなかったからかもしれない。

無言のサクラに、言い過ぎたかといのが視線を向けると、サクラの鞄から覗いた弁当の包みが目に入った。
「あれ、サスケくんが食べたんじゃないの?」
「これは私の分。何か、胸が一杯で食べれなくて」
言いながら、サクラは弁当の包みを鞄から取り出す。
「食べる?」
15時を過ぎ、丁度小腹がすいた頃だ。
いのは素直にサクラの持つ包みへと手を伸ばした。

 

その弁当を口にするなり、いのはピタリと動きを止める。

「・・・・・これ、サスケくんも食べたの?」
「うん、全部。でも、一回も美味しいって言ってくれなかったの。不味いとも言わなかったけど」
サクラはしょんぼりとした様子で言う。
だけれど、いのはそれでも十分だと思った。
そして、サスケは本当にサクラを好きなのかもしれないと感じた。

サクラの作ってきた弁当。
言葉にする事が出来ないほど、途方もなく、死ぬほど、この上なく、不味い。
一口入れた分だけで、飲み込むことが困難な代物だ。
これを全部食べるなど、考えただけで気が遠くなる。

「どう、美味しい?」
サクラに無垢な笑顔で訊かれ、いのは冷や汗をかいた。
何も答えなかったサスケの気持ちがよく分かったような気がした。


あとがき??
ふしぎ遊戯のED、『ときめきの導火線』という曲を思い出しました。(古!)
うちのサスサクってこんな感じ。
サクラちゃん、君の弁当のおかげでサスケくんは笑顔を取り戻すどころか、苦しんでるよ。(笑)

ちなみにいのちゃんは3口目で「腹の調子が悪い」と偽り、ギブアップしました。
賢明です。


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