関白失脚
「サクラさー、本当に無理しなくていいんだぞ」
「そうだよ。体調、悪いんでしょ。何か、顔も赤いしさ」
「・・・・平気だってば」
心配そうに自分を見るカカシやナルトに、サクラは乱暴な返事をする。頭痛と微熱はあるが、寝込むほどではない。
男子であるナルトやサスケには、日頃遅れをとっている。
サクラはこれ以上、彼らとの距離を広げるわけにいかなかった。いくら言っても頑なな態度を崩さないサクラに、ナルトはため息をつく。
「サスケー」
ナルトが振り向きながら声をかけると、数歩後ろを歩いていたサスケは応えるように片手を上げる。
すれ違いざま、ナルトが勢いよくサスケの手のひらを叩き、乾いた音が響いた。
「バトンタッチ!」
「ん」
ふいに腕を掴まれたサクラは、つんのめるようにして立ち止まる。
驚いたサクラが振り向くと、すぐ間近にあったサスケの額が彼女のものと重なった。
目を丸くしたサクラを、サスケは至近距離で見据える。
合わさった額から伝わる体温は、確実にサクラの方が高い。「帰れ」
口から出たのは、たった一言だけ。
だけれど、サクラには他の誰の言葉よりも効果があった。唇をかみ締めたサクラは、泣くのを我慢しているのか、しきりに瞬きを繰り返す。
今日だけのことを言われたのに、7班での自分の存在そのものを否定されたような気がした。
額当てを定位置に戻したサスケはもうサクラを見ようとはしない。
「・・・先生、早引けします」
「おお。気をつけて帰れよ」
サクラは力なく頷くと、自宅への道を歩き始める。
その後ろ姿は、傍で見ていても非常に寂しそうだった。「亭主関白だねー」
口笛を吹くカカシを、サスケは興味がなさそうに見やる。
「今日の任務内容は?」
夕方になり、明かりの灯る道をナルトとカカシはサクラの家に向かって歩いていた。
明日、任務に来れるかどうか、様子を聞くためだ。
本当はサスケも誘おうとしたのだが、彼は任務が終了すると同時に消えてしまった。
カカシにしてもいついなくなったのか分からなかったのだから、まさに電光石火だ。「案外、一足早くサクラちゃんのお見舞いに行ってるのかもー」
「まさか」
ナルトとカカシは笑いあう。
二人の笑顔が固まったのは、サクラの家の呼び鈴を鳴らした直後だ。
「サクラなら、ちょうど起きてる」
サクラの家の扉を開けたのは、サクラでも、彼女の母親でもなく、先に帰ったはずのサスケ。
口を開けたまま硬直しているカカシとナルトに、サスケは来客用のスリッパを出した。
サスケの出でてたちは任務の時のままだが、今はひよこ柄のエプロンがオプションとして付いている。案内された居間では、寝起きと思われるパジャマ姿のサクラが、せっせとお粥を口に運んでいた。
卵入りのそれは香ばしい匂いをさせ、見るからに美味しそうだった。
「あ、先生、ナルト。来てくれたのね!」
並んで立つナルトとカカシに気づいたサクラは、スプーンを持った手を彼らに向かって振る。
「・・・行儀が悪い」
「はい」
盆の上に湯のみをのせてやってきたサスケに咎められ、サクラは慌てて手を下ろした。サクラが食事を続ける間、他の三人は黙したまま口を開かなかった。
沈黙が破られたのは、サクラの食べ終えた粥の器を持ったサスケが台所に消えてからだ。
「何でいるの?」
「何が?」
カカシがサスケのいる台所の方角を指差すと、サクラは「ああ」と言って頷く。
「私の両親、旅行が好きでしょっちゅう家あけてるのよ。今日もそうなんだけど。私、料理も洗濯も全然駄目で、そういうときはサスケくんが来て全部やってくれるんだ」
「サスケが料理!!?」
「洗濯!!?」
台所に聞こえないよう、カカシとナルトは小声で絶叫する。見ると、部屋の中も妙に小綺麗に掃除されている。
サクラは病で寝ていたのだから、おそらく、これも全てサスケがやったのだろう。
困惑するナルトとカカシをよそに、サクラは悠々とした顔で茶をすすっている。
暫くして、洗い物を終えたサスケがコップに水を入れて持ってきた。「薬だ」
「有難うー」
サクラはにこにこ顔でサスケを見上げる。
ちなみに、ナルト達が来てから、サクラは一歩も動いていない。
それなのに、必要なものはそろっている。
かかあ天下。
ナルトとカカシの脳裏をよぎったのは、その単語だった。
あとがき??
理想のうちは夫婦。あれ、違う??
うちのサスケ、どっちかというとサクラに対して引き気味なので、違ったバージョンにしてみました。
こき使われているような感じですが。(笑)
家の外で強いサスケと、内で強いサクラ。
サスケくんは『のだめカンタービレ』の千秋先輩入ってるな。
前半のおでこ合わせを書きたかっただけです。(←本音)