わかりにくい恋


任務終了後、いつものようにサスケはさっさと姿を消してしまい、ナルトも何か用があるのか
「またね、サクラちゃん」
と言って走っていなくなってしまった。
一人残されたサクラは、良い天気だし遠回りして帰ろうと久しぶりに郊外へと足を向ける。

公園を横切ろうと歩いていると、聞き覚えのある元気の良い声が聞こえてきた。
(あれって)
とっさに気配を消し、木陰に隠れてのぞいてみる。
その声の主はサクラの想像したとおり、ナルトだった。
しかし、彼は一人ではない。
一緒にいるのはサクラもよく知る人物。
(急いで帰ったと思ったら、こういうことだったのね。ナルトも隅に置けないわ)

ナルトの隣ではにかんだ笑顔を見せているのは、アカデミーの同級生のヒナタだった。
ナルトもヒナタも何の話をしているのか、楽しそうにサクラの前を通り過ぎる。
サクラは彼女がナルトのことを好きなのを知っていたので
(良かったね、ヒナタ)
と自然に顔に笑みがこぼれる。

サクラが彼らに気づかれないうちにその場から去ろうとしていると、またしても知り合いの声が聞こえた。
しかし、これはサクラがあまり会いたくないと思っている相手だ。
気づかれませんように、と願って顔を向けると、サクラにとってかなり衝撃的な場面が目に飛び込んできた。

いのとサスケが仲良く並んで歩いてくる。
仲良くというのはサクラの思い込みにしても、あの無愛想なサスケが笑っている。
ただそれだけのことが、サクラには驚きだった。
いつもだったら
「サスケくんに近づかないでよ」
と言って飛び出していくところだが、何故かサクラの足は動かなかった。

さすがにサスケはサクラの気配にすぐ気づいた。
少し遅れていのもサクラに視線を向ける。
「サクラじゃないの。そんなところで何してるのよ」
いのはサクラに勝ち誇ったような顔をして笑いかけた。
しかし、サクラの胸にあったのは嫉妬からくる怒りではなく、悲しみの気持ちだった。
このままだと泣いてしまいそうだ。
二人の並ぶ姿を見ていたくなくて、いのの言葉に返事もせず、サクラはその場から逃げ出した。

 

サクラはやがて走る速度を緩めて歩き出す。
サクラはすっかり自己嫌悪に陥っていた。
(サスケくんには笑って欲しいと思ったのに、その笑顔が自分以外に向けられるのが嫌だなんて。・・・小さな子供みたい)
少し涙の浮かんだ目元をこすっていると、後ろから足音が聞こえてきた。

「何で逃げたりしたのよ、サクラ!」
「いの」
サクラが振り向くと、いのが憤怒の形相で立っている。
何でいのがこんなに怒ってるんだろうと思いつつ、サクラは尋ねる。
「サスケくんは?何か約束してたんじゃないの??」
「約束なんてしてないわよ。偶然見かけて彼の後を追いかけてただけ」
「でも、楽しそうにしてたじゃない」
今にも泣き出しそうなサクラに、いのは呆れたように言った。
「あんた馬鹿ねぇ。言いたくないけど、サスケくんが一番嬉しそうに話してるのって、あんたがいる時なのよ」
「え?」
きょとんとした顔をして聞き返すサクラ。
「二度は言わないからね」
自分の言いたいことを言うと、いのそのままはきびすを返して走り去ってしまう。

 

サクラはいのの言葉を反芻しながら歩く。
本当だろうか。
嘘をついて私を喜ばせても、何のメリットもないし、と考え込んで歩いていると、誰かにぶつかった。
「ご、ごめんなさい」
サクラが慌てて顔をあげると、そこには今一番会いたくない相手が立っていた。

「サ、サスケくん」
思わず後ずさりしたサクラに、サスケが批難するような視線を向けて言う。
「注意力散漫。忍者失格だな」
サクラはぐっと言葉につまる。
いのとは笑って話してたのに、と思うと冷たい態度のサスケが憎らしくなる。

「サスケくん」
「何で俺のこと避けるんだ」
二人は同時に声を出す。
やり場のない怒りの気持ちをぶつけようと口を開きかけたサクラは、サスケのその声に言葉を出せなくなってしまった。
まるで金魚のように口をパクパクさせる。

(ええ!?何、今の声は。サスケくんの声よね)
サクラがそう思うほど、今のサスケの声は弱々しかった。
その瞳は今にも泣き出しそうに見える。
まるで母親に叱られた子供のような表情だ。
衝撃の連続で、サクラはサスケがいった言葉の意味まで頭がまわらない。
(ええええ?どうしてサスケくんがこんな目で私を見るのよー。泣きたいのはこっちの方だってのに)

「どうしてだ」
「え、だって」
サクラはサスケにもっと笑って欲しいなどと言った手前、いのと楽しそうに喋っていたのがショックだったからとは言いにくい。
「サスケくんのこと避けてたわけじゃないのよ。ただ急用を思い出しただけで」
かなり苦しい言い訳をする。

サクラの言葉が耳に入っているのか、サスケは無言でじっとサクラを見つめる。
いや、睨んでいるという言葉の方が近い。
不機嫌を顕にしたサスケは、サクラにとっても相当怖かった。

(誰か、たーすーけーてーー)
額に脂汗を浮かべながら内なるサクラが半泣きで助けを呼ぶ。
すると、その願いを神が聞き入れたのか、軽快な声がきこえてきた。

「あれ、お前ら何してるんだ、こんなところで」
アカデミーの担任だったイルカが片手をあげて二人に話し掛ける。
サクラ達は知らなかったが、この林道はイルカの通勤路だった。
全ての授業の終了したイルカは、教材を片手に鼻歌交じりに自宅に帰る途中で二人の姿を見つけたのだ。

「イルカ先生」
「・・・・・・」
その場の雰囲気を察したのか、サスケの無言の重圧を感じたのか、あげた片手をそのままにして、イルカはUターンしようとする。
「じゃ、邪魔したな」

「先生、待って!!」
このチャンスを逃してなるものかとサクラが食い下がる。
「サスケくん、私イルカ先生とラーメン食べに行く約束してたのよ」
「お、おい」
サクラは静かにしてっと目で合図してイルカの腕につかまる。
「じゃあ、また明日ね」
そのままイルカを引っ張りながらいそいそとその場を退散する。

「ちょっと、イルカ先生中忍なんでしょ。下忍のサスケくんに迫力負けしてどうするのよ!!」
「だって、あいつ殺気放ってないか?」
小声で話しているため、自然顔が近づく。
はたから見ると仲良さそうに内緒話をしているように見えることだろう。
サスケには会話の内容は聞こえない。
サスケは表情をさらに険しくして去っていく二人を見つめていた。

 

「で、なんでサスケはあんなに怒ってたんだ」
「私にもよくわからないんです」
サクラの言葉のとおり、律儀に中華店でラーメンを注文しながらイルカが問いただす。
最近できた店だが、とある美食雑誌に載ったせいか、かなり大盛況で人の声も賑やかだ。
「えーと」
サクラは少し声の音量を大きくしながら大まかに状況を話す。
イルカは元担任なだけあって、サクラといののサスケ争奪戦を知っていたので、説明は簡単だった。

「サスケくんもいのも私が無視したからってあんなにおおげさに怒ることないと思うのよ」
「ちょっと待て。サスケはどうして自分を避けるのかって言ったんだろ」
「よく覚えてないけど、そんなこと言ってたような気がする」
「サスケはお前が逃げたのがショックだったんだな」
「そうなのかしら?」

うーん、とちょっと考えてからイルカは結論を述べた。
「もしかして、サスケはお前のこと好きなんじゃないか?」
「はぁ?」
「逃げないで、自分の傍にいて欲しいってことだと思うんだが」
サクラは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしたかと思うと、急に笑いはじめた。
「せ、先生なに言ってるのよ。そんなわけないじゃないのー。サスケくんは私のことなんか眼中にないわよ」
サクラはアハハと笑って、バシバシとイルカの背中を叩く。
その思いのほか強い力に咳き込みながらイルカは思った。

(・・・この子は鈍い。周りのことによく気を配るタイプで頭も良いのに)
当の本人も周りの女性が熱い視線を向けていることに気づいていないことで、サクラに鈍いなぁと思われていることは全く知らない。

暫くすると店内ににナルトが入ってきた。
夕食時でかなり混雑する中、ナルトは目ざとくサクラ達の姿を発見し、急いで走り寄ってくる。
「イルカ先生、何でサクラちゃんと!抜け駆けだってばよ」
「なーに言ってんだ。お前にもいっつもおごってやってるだろ」
イルカがナルトのおでこをペシッと叩く。
「ナルト、あんたヒナタはどうしたのよ」
「え、何でサクラちゃんが知ってるんだ」
「いいから、どうして今日ヒナタと一緒にいたのよ」
サクラが戸惑うナルトに先を促す。
「よく分からないけど、俺の特訓に付き合ってくれたんだ。同じ班でもないのに、妙に俺に親切だし。変な奴だよなぁ」
そう言って笑うナルトに、イルカとサクラはため息をつきながら思った。

(ここにも鈍い奴がもう一人いたか)

「あ、そうそうここに来る途中、珍しい奴に会ったんだ。おい、何してるんだよ」
「え?」
イルカとサクラが振り返ると、店の入口付近にサスケが立っているのが見えた。
『ゲッ』
二人の声がはもる。
「ゲッ?」
何も知らないナルトが不思議そうな顔をして硬直してしまった二人を見ている。
「任務以外でめったに会わないから一緒にラーメン食べようと思って声かけたんだけど。・・・誘わない方が良かった?」
「いや、そんなことはないぞ。サ、サスケもこっち来い」
イルカがサスケに向かって手招きする。

サスケは素直に皆のいるカウンター席に歩いてきた。
表情はいつもと同じ無愛想なものだが、目が違う。
その瞳にある感情は怒りだ。
そんなサスケの様子には全く気づかず、ナルトが話し掛ける。
「イルカ先生のおごりだってさ。どんどん注文しようぜ」
イルカの横に座り、ナルトは嬉しそうにメニューを広げた。

 

「じゃあ、三人とも気をつけて帰れよ」
結局4人分の食事代を払うはめになったイルカは肩を落として帰っていく。
心なしか背中に哀愁を漂わせているように見える。
「じゃあ、俺こっちだからじゃーなー」
ナルトが能天気に手を振りながら去っていく。
そして再びサクラとサスケは取り残された。

 

無言のまま同じ道を同じ速度で歩く。
街の喧騒から離れて、周りに人影はない。
知り合いが傍にいるというのに会話がないというのは一種拷問に近い雰囲気がある。
おまけに気をそらしてくれるものは周りにはない。
音といえば、風が木の葉を揺らす音と、林から聞こえてくる梟の鳴き声くらいだ。

その沈黙に先に値を上げたのはサクラだった。

「サスケくん、ごめんなさい。無視して逃げたことは謝るわ。だから、どうして怒ってるのか教えてよ」
サクラの声はどう聞いても、謝っているというより、怒鳴っている感じだ。
少し間をおいてからサスケは口を開く。
「お前が逃げたりするから・・・俺のこと嫌いになったのかと思ったんだ」

サスケの返答にサクラは暫くあっけに取られていたが、だんだん頬が赤くなっていくのを感じた。
サクラは先ほどのイルカの言葉を思い出す。

『もしかして、サスケはお前のこと好きなんじゃないか?』

「お前がいないと、駄目みたいだ」
サスケは困ったように言った。
自分で自分の気持ちが分からず戸惑っているという様子だ。
サスケは今日、逃げるサクラを追いかけるといういつもと逆の行動をして、初めて自分を追いかけてくるサクラの気持ちが分かったような気がした。
振り向いてもらえないのが、こんなに辛いことだとは思わなかった。

「私、いのとサスケくんがあんまり仲良さそうだったからやきもち焼いてたの。本当にごめんね」
サスケの本意が分かると、サクラは今度こそ真剣に頭を下げて謝った。
「サスケくんに偉そうなこと言っておいて、サスケくんが他の人と楽しそうにしてるのが嫌だったみたい」

顔を上げたサクラとサスケの視線が合う。
二人共、これ以上ないくらい情けない、困惑した表情をしている。
するとお互い何となく笑ってしまった。
「俺は誰よりもお前に傍にいて欲しいと思ってる」
「うん、有難う。もう我が侭言わないから」

サクラと並んで歩くサスケの姿が頻繁に目撃されるようになったのは、それからすぐ後のこと。


あとがき??
だ、誰なんだこの人達は?いや、皆様の言いたい事は分かりますよ。
サスケくんの声は関智一さんで読んでください。よろしくお願いします。
難産だった。
苦し紛れにイルカ先生とナルトまで出しちゃったよ。おかげでこの長さ。
どうにかしたってちょー。
サスケくん、まるで捨てられた子犬状態。
もはや別人どころの騒ぎじゃなくなってきてるっす。救いようのない。
そういや、カカシ先生でてきてないわ。

これ書いたの中忍第二試験の前だからいのとサクラが親友だったとか知らなかったのよねぇ。
で、キャラの性格違いますわ。(笑)
やはりサスサクは難しい。
たぶんもう書かない。


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